“イケオジ”を通してみる街の景色 アジア&欧州を旅して描き上げた同人誌から香る異国の日常:司書みさきの同人誌レビューノート
味わい深い作品です。
秋風の吹く頃、ふと「あの人どうしているかな?」と懐かしく誰かの顔を思い出すことはありませんか。親しい誰かの横顔なこともあれば、たった一度の出会いなのに折につけ記憶がよみがえることも。今回はそんなふとした瞬間をやさしく切り取ったような同人誌です。
今回紹介する同人誌
『イケオジの本 ヨーロッパ編』19cm×14cm 32P 表紙2色刷り、本文モノクロ
『イケオジの本 アジア編』19cm×14cm 32P 表紙2色刷り、本文多色刷り
著者:スギモトマユ
ヨーロッパとアジア、街角で出会う人々を描き出す
著者の方は旅先でふと交わした「ヨーロッパのおじさんは趣がある」という会話を発端に、「おじさんのかわいさがとまらなかった」ことからご本を作られたとのこと。ヨーロッパ編はフランス、イギリス、ドイツ、イタリア、オランダ。アジア編はインド、韓国、中国、カンボジアの2冊で計10カ国、25人のおじさまの姿がイラストとお見掛けした状況を添える文章と一緒に掲載されています。
働くこと、街に溶け込むこと。旅の中で日常を見つける
取り上げられた彼らはお店にいたり、果物を売っていたり、魚を捌いていたりと働く姿を見せます。けれど一方でビールを飲んだり、本を読んだり、井戸端会議をしたりとくつろいでのんびり過ごす様子も。おじさまたちの多様なお姿がイラストとして切り取られます。さらにそれだけでなく「僕らは古い友達なんだ」とにこにこして教えてもらった……というような小さなエピソードが手書きの文字で添えられているのが、人となりと、彼らが暮らしている街の空気までも一緒に伝えてくるようです。
ざっくりとした線と、柔らかくも少しざらついた紙の手触りとがとっても合っていて、手になじみます。アジア編は働くおじさまの割合がぐっと増し、インクの色も2色や3色のインク替えになって、そのカラフルな装丁と相まってアジアの躍動感を伝えるようです。
人を通して街を感じる。絶妙な旅の距離感
ここまでのレビューの通り、ご本にはおじさまがいっぱいです。けれどあとがきにはこうも書かれていました。
どんな国の人でも、どんな性別でもどんな年齢でも好きなことをしている人というのは見ていてたのしい。
この言葉の通り、実はご本は「おじさま特有」を過剰に追いかけたものではないと読んでいるうちに感じました。どのページも人と、暮らしについて触れられています。
そして、パリで女性に一生懸命語りかけるおじさまを発見した際には、彼の目的に考えを巡らせ、「一目見ただけではその人がどんな人なのか、到底想像もつかないのだ」とつづられているように、そこに強引に割り込むようなコミュニケーションはとりません。実際に会話を交わさずとも、生活している人たちのことをおもんぱかって、時には彼らの背景を想像してみるだけという、答え合わせをしない楽しさ。
この、対象へのクローズアップと、旅人としてつかの間を共有する距離感が、心地よくご本の中で交差します。訪れた先では何もかもが目新しく印象的で、そして奥深くて旅だけでは計り知れない土地の魅力を、壮年の男性という1つのフレームを設定することで街の色、匂いがよりくっきりと感じられるようです。
サークル情報
日本の販売店:タコシェ、ブックギャラリーポポタム、輸入雑貨 Ramsgate
イギリスの販売店:DIY ART SHOP、GOSH! Comics、MAGMA(London, Manchester)
Twitter:@jmahilo
Instagram:https://www.instagram.com/mayupict/
Webサイト:https://www.kilinninzis.com/
note:https://note.com/mayupict
今週の余談
今年は暖かめの日が続いていて、秋向けの格好が長く着られて楽しいですね。通りをゆく人たちが少しずつ上着やショールが足されていって、季節を目で感じています。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。
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