東日本大震災から10年 被災地の写真スタジオで働いていた人の経験を描いた漫画が教えてくれること(1/2 ページ)

たくさんの感情が心に浮かび上がります。

» 2021年02月12日 21時00分 公開
[関口雄太ねとらぼ]

 東日本大震災の被災地で、写真スタジオのスタッフとして働いていた経験を描いた漫画が、写真や撮影を通して見える大人や子どもの気持ちを考える機会となり、震災や防災と向き合わせてくれます。

 作者のあいしま(@setup_setup)さんは、東日本大震災の被災地在住で、当時は地元の写真スタジオで撮影アシスタント兼デザイナーとして働いていました。自宅や職場は津波の被害を免れ、仕事が数週間して再開したこともあり、いまいち事の重大さを実感できなかったといいます。

 しかし日がたつと上司から「これから信じられないくらい忙しくなるからな」との言葉が。遺影写真の依頼がたくさん入ってきたのです。気の毒だと思いながら、たくさんの遺影を作る日々が続きます。

 しばらくして、珍しく入学記念のスタジオ撮影の仕事が入りました。依頼した女性の手には、あいしまさんが手がけた夫の遺影が。入学式を迎える子どもの顔に笑顔はなく、カメラに目線を向けてもらうのが精一杯の記念撮影を前に、震災によって起きた現実に直面します。

東日本大震災から10年 被災地の写真スタジオでの経験を描いた漫画が教えてくれること 本当なら親子3人で入学写真を撮っていたはずなのに……

 その後も数え切れないほどの遺影写真を作ったあいしまさん。完成した写真を見ても息子の死を受け入れられず「何度も作り直しを頼む人」や、証明写真くらいしか手元に残っておらず、もっと写真を撮るべきだったと後悔していた人などと出会います。中でもつらかったのは、一緒に撮影した子が亡くなったことだといいます。

東日本大震災から10年 被災地の写真スタジオでの経験を描いた漫画が教えてくれること 身内の死を受け入れられない人、後悔する人……

 あいしまさんの心にもう一つ残っている入学記念撮影は、父親と小学生の女の子のものでした。震災で母親と生まれたばかりの弟を亡くしたその子は、ランドセルを背負いながら、表情を変えることなく、入学記念の撮影を行いました。

 笑顔になれない子どもたちと出会うなかで、あいしまさんは「卒業式に袴姿での撮影を予定していたけれどキャンセルした小学生」「学校から帰れずご遺体を運ぶ手伝いをした高校生」など、つらい思いをした子どもたちに想いをはせていきます。その出会いは10年経っても忘れることはできず、震災を経験した子どもたちは何歳になったのか、笑って過ごせているのか、今でも考えるといいます。

東日本大震災から10年 被災地の写真スタジオでの経験を描いた漫画が教えてくれること 笑顔になれなかったあの子たちは今どうしているのか

 あいしまさんは、「被災地に住む人間からお願い」として、1分でもいいから家族やパートナーと防災について考えて話してほしいと締めくくりました。大規模な災害はイメージがわきづらいためか、地震発生直後危険な場所にいる人へ避難を呼びかけても、理解してもらえなかったといいます。日頃から危機を想定することの大切さを思い知らされる実体験です。さまざまな感情が浮かび上がる出来事ですが、漫画で描かれるあいしまさんの記憶や感情が、10年の節目に今一度振り返る機会を与えてくれます。

作品提供:あいしま(@setup_setup)さん

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/29/news075.jpg 「スマホ入荷しました」 ハードオフ店舗がお知らせ→まさかの正体に大横転 「草しか生えない」
  2. /nl/articles/2412/29/news005.jpg 母「昔は数十人もの男性の誘いを断った」→娘は信じられなかったが…… 当時の“想像を超える姿”が2800万再生「これは驚いた」【海外】
  3. /nl/articles/2412/29/news101.jpg チェジュ航空社長、日本語で謝罪 犠牲者は170人以上との報道 公式サイトは通常のオレンジからブラックに
  4. /nl/articles/2412/29/news100.jpg 大谷翔平、妻・真美子さん妊娠公表→エコー写真に“まさかの勘違い” 「デコピン妊娠?」「どう見てもデコピンで草」
  5. /nl/articles/2412/27/news185.jpg 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  6. /nl/articles/2412/28/news020.jpg 夫を亡くした67歳女性、200万で買った家を“100均”DIYしたら…… 勇気がもらえる感動の出来に「ビックリ」「尊敬します」
  7. /nl/articles/2412/29/news098.jpg 大谷翔平と妻・真美子さん“家族ショット”に210万いいね 「素敵な1枚」「幸せな家族写真!」【“大谷家”の新たな一歩】
  8. /nl/articles/2412/29/news009.jpg ダイソーの割り箸に、ボンドでヘアピンを付けると…… まさかの完成品に「え…普通にすごい」「めっちゃいい」
  9. /nl/articles/2412/29/news013.jpg 毛糸で“お花をぷくぷく”編んでいくと…… 思わず笑顔になるアイテム完成に「なんて美しい」「母に編んであげよう」
  10. /nl/articles/2412/29/news091.jpg peco、息子の近影公開に「えっりゅうちぇるかと思った」「ほんとにそこにりゅうちぇるが座ってるようで」と驚く声
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. 新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
  3. 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  4. 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に【大谷翔平激動の2024年 「お菓子」にも注目集まる】
  5. 100均のファスナーに直接毛糸を編み入れたら…… 完成した“かわいすぎる便利アイテム”に「初心者でもできました!」「娘のために作ってみます」
  6. “プラスチックのスプーン”を切ってどんどんつなげていくと…… 完成した“まさかのもの”が「傑作」と200万再生【海外】
  7. 「バグってる」 シャトレーゼの“864円で買える”「1人用クリスマスケーキ」に大絶賛の声 「企業努力すごい」
  8. 「昔モテた」と言い張るパパ→信じていない娘だったが…… 当時の“驚きの姿”が2900万再生「おおっ!」「マジかよ」【海外】
  9. トイレットペーパーの芯を毛糸でぐるっと埋めていくと…… 冬に大活躍しそうなアイテムが完成「編んでるのかと思いきや」【海外】
  10. “月収4桁万円の社長夫人”ママモデル、月々の住宅ローン支払額が「収入えぐ」と驚異的! “2億円豪邸”のルームツアーに驚きの声も「凄いしか言えない」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」