涙がにじみ、続きが読めない―― 震災の記憶を伝える漫画『柴ばあと豆柴太』 書店員が語る、忘れられないエピソード(1/4 ページ)
被災地にゆかりのある書店員さんに取材しました。
2011年3月11日に発生し、東北地方を中心に甚大な被害をもたらした東日本大震災から2021年で10年。ねとらぼではこれまで“3.11”をテーマにした“自分を人間だと思っている柴犬”、「豆柴太」が主人公の漫画『柴ばあと豆柴太』を紹介してきました。
今回は『柴ばあと豆柴太』のコラボ企画として、被災地にゆかりがあり、『柴ばあと豆柴太』を読者に届けている書店員のお2人に取材。
TSUTAYA LALAガーデンつくば(茨城県つくば市)コミック担当の上野 恵佑さんと、みどり書房 福島南店(福島県福島市)の副店長 尾形 龍さんに、『柴ばあと豆柴太』の忘れられないエピソードや作品から感じたこと、本を届ける書店員として読者に伝えたいメッセージを聞きました。
“絆の深さ”を感じた福島での暮らし
――上野さんは震災後、福島で暮らしていたと伺いました。
はい。東日本大震災当日は、千葉県・津田沼の店で働いていましたが、2年後に福島県のいわき市に転勤し、2年半ほど福島県に住んでいました。赴任したのは被災後だったので、みなさん色々悩んだり大変だったりするのかなと思っていたのですが、一緒に働いたスタッフの表情や動きからはそういったことは感じませんでした。
津波で家が流されたというスタッフもいましたが、みなさんの発言や行動からは一生懸命「早く生活できるようになろう」「普通の生活に戻せるように頑張ろう」という、ポジティブな思いを日々感じていました。周りの人たちが助け合うというか、絆が深くなっているのかなと感じました。
――『柴ばあと豆柴太』を知ったきっかけ、初めて読んだときの感想を教えてください。
全店分のコミック仕入れを担当しており、毎年3.11前後に“震災を伝えるコーナー”を売り場に作るので、それがきっかけで知りました。2巻まで読んで、柴ばあの葛藤と「それでも頑張って生きて行こう」という強い気持ちが伝わってくる漫画だなと感じました。柴ばあを陰でしっかりと支えている豆柴太がとてもかわいくて、いいキャラクターですよね。「僕は人間なんだよ!」と言いながら柴ばあをそばで支えていく。豆柴太の一途なところに惹かれます。
1コマ1コマにしっかり登場人物の背景や思いが描写されているので、ついゆっくりと読み込んでしまう作品だな、と思いました。
――『柴ばあと豆柴太』の反響はどうでしょうか?
普段こういったコミックを読む機会がなさそうな、年配のお客様からのお問い合わせが多いと感じています。「NHK(番組での紹介)を見て探しに来ました、この本はありますか?」というお問い合わせを何度かいただきました。
豆柴太のセリフに、福島の人たちの懸命な姿を思いだす
――作中、印象に残っているシーンとその理由を教えてください。
1巻の22ページから32ページのエピソードが一番印象に残っています。豆柴太の「この町はまだ泣いているみたいでつね」というセリフと、「きっとこの町もいつか笑えるようになりまつよね?」というセリフで、「ああ、福島では復興を頑張っている人たちが多かったなぁ」ということを思い出すからです。
私がいわきに住んでいたのは震災から2〜3年後でしたが、そのときは作中のように工事をしている人たちがたくさんいらっしゃって、工事中の道路や仮設住宅が非常に多かったんです。『柴ばあと豆柴太』を読んでそういう風景を思い出しました。
――震災から2〜3年後も、まだまだ工事中だったんですね。
そうですね。何年かたってある程度復興しているとはいえ、「ここは昔こういう建物があったんだよ」と言われたときに、「そうなんだ」としか言えなかったです。海際のリニューアルされたお店や銭湯にも行きましたが、「そこら辺には大きな岩があったんだよ」「でも全部流されちゃってね」といった話を聞きました。そして、全て埋め立てられた土地を目にすると、ここは浸水しちゃったんだろうな……と何も言えなくなることが多かったですね。
震災前の話をしている福島の方の目が、作中の柴ばあのようにどこか遠くを見ていたのが印象的でした。
「涙が出てきて、これ以上読むことができない――」
――『柴ばあと豆柴太』の登場人物と被災された方々にリンクするところはありますでしょうか。
震災当日は千葉の店にいたので、当事者でない私がこんな話をしていいのかな……という思いもあったので、今回取材を受けるにあたって、いわきに住んでいる知人に「この本を読んで感想を教えてもらえませんか?」とお願いしてみたんです。
ですが、お願いして2分も経たずに電話がかかってきて、涙声で「無理です」と言われました。1巻冒頭にある、柴ばあが自分の孫の手を握って「痛がった 怖がったべぇ?」と言っているシーンで、被災時を鮮明に思いだしてしまい、涙が出てきてそれ以上読むことができなかったと……。
『柴ばあと豆柴太』は風景や心情の描写がリアルに、丁寧に描かれているので、被災した方は読める方と読めない方がいらっしゃると思います……。
――10年たった今も、深い傷が残っているんですね……。
いわきの方たちは「頑張っていこう」という前向きな気持ちで生活していると思います。最近も福島で地震がありましたが、そのときも「これくらいなら全然余裕だよ、もう慣れちゃったもん」「またテレビが落ちちゃって買い換えないといけない〜」なんて笑って話していました。
多くの方が悲観的になることなく、何事も前向きに考えて動いていると見ていて感じます。ただ、読み物や映像では色々と思い出してしまうのかなと……。
――2021年3月11日で、東日本大震災から10年を迎えました。『柴ばあと豆柴太』をまだ読んだことがない方にメッセージがあれば教えてください。
『柴ばあと豆柴太』の1巻は震災時のエピソードが多く考えさせられます。2巻は震災の描写がところどころ入りつつも豆柴太メインの話が多く、「辛くても生きよう」という気持ちが強く伝わってくる内容です。
「戻ってこないというさみしさ」は時がたっても消せませんが、『柴ばあと豆柴太』は、「自分は1人じゃないんだ」と思える作品だと思います。読後は優しい気持ちになれると思うので、豆柴太たちのように、「みんなで支え合う」ことの大切さがこの作品で伝わるのではないかと思っています。
東日本大震災は今でもなお、行方不明の方が多くいらっしゃいます。そういった方たちのためにも、『柴ばあと豆柴太』のように震災を伝える作品を広め、どんなに時間が経っても心のどこかに“こういうことがあったんだ”と留めておくことが必要だと思います。
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