夢の世界を悪夢のようなゲームデザインが破壊する問題作 それでも遊んだ時間は無駄じゃない「バランワンダーワールド」レビュー
たとえ歴史的に偉大なレジェンドが作っても、現代に適応できなければ失敗してしまうこともある。
結論から言ってしまうと、今回レビューする「バランワンダーワールド」は非常に悲しいと言わざるを得ない作品でした。駄作ではありませんが、かと言って今の時代に遊べる完成度にはなっていなかったのです。現代に適応できないまま古いセンスで作られた3Dアクションであり、プロが集まって手掛けたにもかかわらず、失敗に終わってしまった夢の残骸。そう形容する他ない、惜しい作品でした。しかしながら、そこには確かな「夢」があり、やろうとしていたことの片りんが見えたのです。
今回、この作品をレビューするかどうかは非常に悩みました。「バランワンダーワールド」は現在、世界中のメディアレビューで酷評されていて、自分が忌憚(きたん)のない感想を述べても追い打ちにしかなりません。しかし、私は小説版も購入してゲームで語られなかった物語を読み、この世界を捨て去ってしまうのはもったいないと思いました。酷評にしかなりませんが、駄作だと切って捨てたくもない。今回は、そんな令和の失敗作「バランワンダーワールド」をレビューしたいと思います。
ライター:するめ(以下)マン
「武蔵伝」や「バウンサー」など、スクウェア(現:スクウェア・エニックス)が作るアクションが出ると、なんとなく買ってしまうライター。思い出のアクションは「デュープリズム」で今でも続編を待っている。ただ、今の時代に遊ぶと辛いのでリメイクも欲しい。
ストーリーもシステムもほぼ説明がない謎すぎるゲーム
「バランワンダーワールド」は、2021年3月26日にスクウェア・エニックスから発売された完全新作の3Dアクションゲームです。Nintendo Switch / PS5 / PS4 / Xbox Series X|S / Xbox One / PCと、今遊べるありとあらゆるハードでのマルチ展開。「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」シリーズの生みの親として知られる中裕司氏と、アーゼストの大島直人氏が20年ぶりに共同開発するタイトルということで、シリーズのファンからも多大な期待を寄せられているタイトルでした。
ミュージカルをモチーフにした舞台のような世界観。80種類の衣装を切り替えて探索する3Dアクション。要素だけ抜き出せばワクワク感があったのですが……。雲行きが怪しくなってきたのが体験版の配信直後。実際に遊んでみたユーザーからは厳しい意見が飛び交いました。90年代からやってきたような不親切なゲーム性。固い操作。それは、あまりにも古い思想で作られた3Dアクションだったのです。しかも、ゲーム内だけでは意味が分からないことだらけ!
自分も体験版から遊んでみたのですが、本当に意味が分からないんですよ。まず、自分が誰かの心の中らしき場所を冒険しているということ以外、何をしているのかもよく分かりません。バランが何者なのかも、敵対しているランスについても謎。楽しそうに踊っているけど、近づくとなぜか消えてしまうモブの存在も謎。小さな鳥っぽい生き物・ティムが何なのかもよく分からない。言葉で語らないことと、説明を放棄することを誤解しています。説明不足は体験版だけの仕様なのかと思っていたのですが、結局製品版でもまともな説明はありませんでした……。
ボス戦の直前と撃破後にムービーが入るので、そこでやっと登場人物の心の内が分かるのですが、それでも説明不足。ボスを倒すと突然始まるダンスもシュールです。いきなり踊り出して、踊り終わるとキャラがひとりでに立ち直って復活。これは、ミュージカルっていうんですかね……?
主人公たちの拠点になる場所も、そこにいる生き物・ティムもよく分かりません。宝石(ドロップ)をエサとして与えられるのですが、これも「与えられる」というだけで目的は示されません。彼らを強制労働させていくと広場中央にあるカウンターの数字が増え、その数字が増えると段階的にタワーが建設されていくのですが、これまた謎。このタワーの正体や建設する目的は、クリアしても分かりませんでした。あまりにも語られないので、ゲーム内だけで知ろうとすると頭に疑問符が飛び交います。
立体的で不思議な世界を彩る原色バリバリの各ステージ。豪華で派手なムービーと、ボス戦後の楽しそうなダンス。世界観と物語を飾るグラフィックとBGMは素晴らしいのですが、説明がほぼないのがもったいなさすぎる……! 言葉で語らず体感させる物語にしたかったことは分かるのですが、それは今の時代に合っていないゲームスタイルだったのかもしれません。
80種類以上の多彩なアクション……ではなく制限された不自由な操作
何よりも驚いたのは、3Dアクションの歴史に逆行するような操作性とアクションでした。ワンボタンでアクションさせようとしたせいか、デフォルトではダッシュもありません。ジャンプできない衣装を着てしまった場合、ジャンプですら別の衣装が必要。このゲームは80種類以上ある「衣装」によってアクションが変化するのですが、1つの衣装につき1アクションしかできないのです。これが足を引っ張りまくり。例えば、ジャンプができる衣装を装備した場合は、×ボタンを押そうが〇ボタンを押そうがジャンプしかできません。ブレスを吐く衣装に着替えた場合、今度はブレスしか吐けないのでジャンプができない始末。複合するアクションがないんですよ。1つの衣装で1アクション。しかも、最大3つまでしか持てないので自由度も低め。ジャンプできる衣装が1つも手持ちにないと詰む場面もあります。そんな時はわざとやられて、衣装を全て失ったデフォルトに戻るしかありません(デフォルトだとダメージは与えられないがジャンプはできる)。
「マリオ」シリーズで例えるなら、スーパーマリオからファイアマリオになるとジャンプできないゲームです。ジャンプしたいなら死んでちびマリオになるか、キノコを使ってスーパーマリオに戻りましょう。あ、敵が来た。今度はファイアマリオに戻って倒さないといけません。ブロックをたたきたいからスーパーマリオになって……面白いですか、コレ!?
しかも、落下するか敵の攻撃を受けてしまうと1ミスとなり、着ていた衣装がなくなってしまいます。衣装はストック性で、一度見つけた衣装も常に持っているわけではありません。衣装がなくなってしまった場合は「衣装があるステージ」まで取りに行かなければならないのです。
一応、チェックポイントにとどまると衣装部屋が出現し、予備の衣装があれば着替えられるという救済措置も。予備さえあれば他のステージに戻る必要はありませんが、予備を集める行為自体が面倒です。衣装は時間がたつと出現するので、予備を集めるために出待ちしていると悲しくなってきます。そもそも、衣装部屋の出し方自体も解説がありません。ストーリーもシステムも、大事なところに何一つ解説がない! とにかく、不自由。楽しさと不自由をはき違えています。今は令和ですよ……。
以上のような内容が体験版の段階で発覚してしまい、ユーザーの間でも話題となりました。あまりにも体験版の評判が悪すぎたためか、公式ブログでもアップデートを宣言。Day1パッチがあたったのです。Day1パッチでは移動速度が上がり、カメラ追尾も心なしか体験版より良くなったものの、それでもマイナス。インタビューを読むとこのゲームにはメタAIが導入されており、敵の種類や数も変わるようなのですがそれが面白さに直結しているとは思えません。そもそも、ただでさえ衣装が不自由でギミックを解いているとイライラするのに、敵が復活すること自体がイライラするというか……。
衣装も「ジャンプできる衣装」の上位互換として「ジャンプしたあと、さらに空中を歩ける衣装」が出てきたりします。80種類の衣装ですが、かぶっているものと使わないものが大半。とくにばかばかしいしいのは一定時間で変わる系の衣装ですね。一定時間でダッシュしたりやめたりする衣装や、一定時間で箱になったり戻ったりする衣装など、意味が分かりません。
しかも、衣装のチェンジは地上でしかできないのです。変身には専用の回転モーションが発生するので、違う衣装のアクションを組み合わせて華麗に変身しながらアクション……なんてこともできません。ダッシュしてジャンプといった当たり前の動作ができないのです。単純にしようとして、結果的に煩雑かつ複雑になっています。衣装チェンジとチェンジ後の時間は無敵なので、ボス戦でもクルクルとチェンジしてるだけで攻撃を確実に回避できる抜け道は良いと思うのですが……。
80種類以上もの衣装デザインを用意している労力も、それらを特徴的にデザインしているのも素晴らしい仕事です。世界を構築するデザイナーさんたちは、とても良い仕事をしていると思います。つくづく惜しいゲームです。
令和とは思えない悪しきQTEもどき、バランチャレンジ
気合いの入ったステージのグラフィックや演出。夢の世界をテーマにした世界観は魅力的なのですが、遊んでいて常に付きまとう「微妙に面白くない」というヌルっとした感覚。それはやはり、アクション部分の微妙さにあるのでしょう。だからといって駄作とは言い切りませんし、なんとも言い難いゲームではありますが、明確に「悪しき存在」といえるシステムが存在しています。それがQTE(※)の「バランチャレンジ」です。
※編注:クイックタイムイベント。画面の演出に合わせて決められたボタンを押すイベントのこと
バランチャレンジは、ステージに存在するシルクハットに触れることで遊べるQTE。何かよく分からない物やランス(敵のボス)と戦っているバランのムービーを見ながら、タイミングに合わせて×ボタンを押すか連打するQTEになっています(少し下に動画ツイートがあります)。それ以外のパターンはありません。
「バランチャレンジ」は存在自体が酷く、途中から使いまわしに気付くくらい同じような動きばかり見ることになります。ムービーの順番が変わるものを毎回見させられるという問題点もあるのですが、それよりも大きな問題が、Perfectを取らないと「バランスタチュー」が手に入らないことです。はっきりいって、これがゲームの魅力の8割くらいを台無しにしていると思います。それくらいひどい。
バランスタチューとはゲーム中に登場する金色の像で、一定数集めると新たなステージが解放されます。そう……このゲームは普通にプレイするだけだと次のステージにいけません。スタチューを一定数集めないと新ステージが出現しないのです。もちろん、バランチャレンジをしなくてもステージに隠してあるスタチューを集めれば解放はできるのですが、巧妙に隠してあるのでバランチャレンジもやらざるを得ない。
だからこそバランチャレンジは失敗できないのですが、1回でも最高評価のexcellentを逃すと失敗扱いになります。GoodでもGreatでも駄目。1回でも完全なタイミングじゃなかったらアウトです。しかも、失敗してもスキップやキャンセルは不可。バランチャレンジはどれも2分くらい続くので、虚無のムービーを眺める時間が発生します。
しかも、このバランチャレンジ。1回でもプレイしたらシルクハットが消滅してリトライできません。リトライしたかったら、ステージをクリアしてボスを倒す必要があります。ボスを倒してギミックをリセットしないとシルクハットが復活しないのです。後半は1つのステージに3つ以上あるし、変な場所にあったりするし、かと言って通常の手段でスタチューを集めるのも大変なのでスルーできず……。他のミニゲームはどうでもいい報酬なので気軽に遊べるのですが、これだけは本当にないです。悪しきQTE(3回目)。
バランチャレンジはアップデートで消滅させてほしいと願うくらい悪意の塊みたいなQTEで、このゲームの評価を如実に下げるものだと思います。最低でもリトライをつけるべきだと思いますが、そもそも何度も何度も同じようなムービーを見ること自体が厳しい。1ステージに1つでいいです。バランチャレンジのせいでバランのキャラクター自体が嫌いになりかけたので、ゲームの足を引っ張る最悪のミニゲームだと思います。×ボタンを押すだけなのでQTEと呼ぶのも怪しいくらい。もう二度とバランチャレンジはやりたくないですね。タイトルの「バラン」が操作キャラではなく、ステージ中ではバランの姿を見かけないゲームなので、彼の活躍を見せたかったという意図は分かります。だったら、最初から操作キャラにすれば良かったのでは? ムービーを見れば見るほど実際に操作したかったという気持ちが強くなってしまいます……。
魅せたかった世界やストーリーが分かる小説版は一見の価値アリ
このゲームをクリアまで遊んだ感想としては、現時点だと「どうしてこうなった……」としか言えません。世間的には失敗作の部類に入るのでしょう。良くなりそうな素材。豪華なグラフィック。耳に残る音楽。ゲーム内だけでは起承転結の起と結しかなく、心に響かない物語。良質な素材を調理で間違えてしまった作品です。
伝えたかったものは確実にあるものの、20年以上前のワゴンに入っていた初代PSやセガサターンのようなゲームデザインが台無しにしています。アップデートで問題点をつぶし、改良すればそれらが伝わりやすくなるかもしれません。根本的なゲームのコンセプトにも問題はありますが、決して駄作ではないのです。
ただし、物語に関してはゲームだけだと説明不足。ムービーで表現された部分の意味は分かりますし、各キャラクターの悩みなども把握できますが交流も何もなくて唐突です。交流がないので、本来ならグッとくるラスボス戦やラストの演出も「???」。そうした部分は、現在発売されてる小説版を読むことでフォローされているのですが、これはあくまでもゲーム。ゲームで語らなくてはいけない部分です。
とはいえ、小説に関して言えばこちらは良質な物語です。ゲームとはかなり違う話になっていますし、キャラクターもバランもしゃべって交流するからほぼ別物。ゲームにはなかったワンダーワールド自体の説明もあります。ぶっちゃけ、アクションじゃなくてRPGでストーリーを見せるべきだったのではないでしょうか。
しかし、ゲームではなく小説だけがあればOK……とは言いがたいところも。キャラクターの名称や単語、重要な表現まで全部「」(カギカッコ)でくくってるので少々読みにくいんですよね。「『バランワンダーワールド』の小説は、会話文でも『重要な単語』や『施設名』。『キャラクター名』をカギカッコでくくるから、とても読みにくいんだ。でも『読む価値』はあると『ライターのスルメ』は言っていたよ」みたいな感じ。読みやすくしようとして、逆に煩雑になっています。良くも悪くも小説までバランっぽい……。ですが、物語自体はゲームよりもはっきり意図が読めますし、バランというキャラクターについても分かります。ゲームだけで意味不明に終わってしまった人には小説版がオススメです。こういうメディアミックスは、今の時代だとあまり良くないですね……。
ゲーム作りの難しさと時の流れの残酷さを実感した
「バランワンダーワールド」は、スタッフロールを見るとたくさんの人が関わっています。豪華で力の入ったゲームです。ただ、そのやり方を失敗してしまったのでしょう。下にいる若いスタッフたちは、きっと作っている最中にゲームの問題点に気がついていたと思います。インディーゲームでいくらでも3Dアクションゲームの名作が安く発売されている現代。今のゲームが好きなら、この作品が悪い意味で古くさいことに気が付かないはずがありません。
仮に、これがセガサターンやPSの時代に出ていたなら、まだ評価が違った可能性はあります。もちろん、その時代でも既に「スーパーマリオ64」などの輝かしい3Dアクションゲームがあり、当時の基準としても厳しいものはありますが、今ならなおさら。21世紀で、令和の時代です。現代のゲームを研究しきれておらず、メタAIなどを実装するだけの自己満足で作られてしまったゲーム部分は、あまりにも時代錯誤。メタスコア(※)のメディアレビューが軒並み低評価なのも納得できてしまいます。
※世界中のレビューをまとめたサイト「Metacritic」が集計している、レビュー平均スコアのこと
ちなみにメタスコアを見るとユーザーレビューは高評価なのですが、これにはどうも怪しいカラクリが。実は、よく見ると10点を付けている人はバランしかレビューしていない人がほとんどなのです。怪しい高評価のレビューに「参考になった」をつけ、それらを指摘する低評価のレビューには「参考にならない」評価をつける、一種のレビュー爆撃の状態になっています。いわゆるbotによる爆撃に見えますが、これは体験版の反応から本作の評価を見越した熱心なファンの暴走か、愉快犯の仕業でしょう。どちらにせよメディアレビューと乖離(かいり)している状態ですが、ユーザーも甘い評価をする人ばかりではないと思います。
ゲームとしては非常に残念な結果になってしまいましたが、冒頭でも書いたように私はこのゲームを駄作だと切って捨てることはしません。インタビューでも公開されていたテーマなので書いてしまいますが、このゲームのテーマは「どんな時間も無駄でなかった」。どんなレジェンドでも、作品作りに大失敗してしまうことだってあります。たくさんの人が関わって、なんだかおかしなゲーム性になってしまうことだってあるのです。それもまた人生。アップデートで「ソニック」を「マリオ」に作り替えるくらい別物にする努力は必要かもしれませんが、パッチを当てて行けばもっと良くなるポテンシャルだってあるはず。挫折からの復活って、バランワンダーワールドのステージっぽいじゃないですか。とても不器用で魅力を自分で隠してしまってるゲームですが、だからと言って遊んだ時間が無駄だとは思っていません。一度世に出てしまったものを駄作と評して終わりなのはあまりに寂しいですし、自分はこのゲームの評判が良くなるまで、バランというキャラクターとともに今後の展開を見守っていきたいと思います。
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完全新作ワンダーアクションゲーム! 『バランワンダーワールド』「ソニック」シリーズ生みの親である中 裕司と、株式会社アーゼストの大島 直人による、約20年ぶりとなる共同開発タイトル!舞台ミュージカルをモチーフとした3Dアクションゲームです。
完全新作ワンダーアクションゲーム! 『バランワンダーワールド』「ソニック」シリーズ生みの親である中 裕司と、株式会社アーゼストの大島 直人による、約20年ぶりとなる共同開発タイトル!舞台ミュージカルをモチーフとした3Dアクションゲームです。
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