開き直ったカップルが見せる“ループもの”の新たな地平 映画「パーム・スプリングス」レビュー(2/3 ページ)
つまりは脚本そのものの完成度が存分に高いのだが、実は脚本の初稿時点ではループものの要素はなく、「自殺するためにパーム・スプリングスに旅立った30代の男が、人生の意味を再発見していく物語」になるはずだったそうだ。なるほど、この初稿でも確かにラブストーリー、人生の哲学を訴える内容として成立はするだろう。
だが、結果として完成した「パーム・スプリングス」は、やはりループものだからこそのエンターテインメント性と、メッセージの説得力も担保されている。ナイルズは最初こそ単なるチャラ男に見えるが、やがて胸に秘めた孤独や悲壮感が見えてくる。一方でサラも、ループに巻き込まれる前から家族とうまくいかずに絶望の中にいる。そんな2人にとって、ループは共に通じ合うものを見出し、そして恋に落ちるのも必然だといえる、この物語に不可欠としか思えない要素になっているのだから。
余談だが、脚本家はループに巻き込まれたナイルズが、すでに40年間は同じ時空を繰り返していると、裏設定を明かしている。ざっと1万5000回、同じ日を過ごしている彼の心境を思えば、「今までよく発狂せずにいられたよな…」などと同情することだろう。
4:コロナ禍でこそ
ループものといえば、映画では「恋はデジャ・ブ」や「ハッピー・デス・デイ」、アニメ映画なら「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」、ライトノベルやテレビアニメでも「涼宮ハルヒ」シリーズの「エンドレスエイト」など、既に数々の名作が存在する。
だが本作「パーム・スプリングス」を見て改めて思ったのは、先行きが不明瞭な現在のコロナ禍でこそ、こうした同じ日を繰り返してしまうループは、より切実なものとして感じられる、ということだ。
コロナ禍でずっとステイホームやリモートワークが推奨され、いつまでたっても収束の気配もないという「終わりが見えない」状況は、ループものにおける「明日」に行くことができない絶望とどこか似ている。外界に何かを働きかけようとしても、それが感染者の増加/同じ日が始まることで「リセット」されてしまう苦しさも、どこか共通するものがある。
一方で、本作では閉塞した状況でも「自己研さん」はできるということを教えてくれる。コロナ禍のステイホームでも勉強はできるし、何かの創作物を手掛けることもできる。「パーム・スプリングス」をはじめとしたループものでは、同じ時間を繰り返すことで、「次は失敗しないため」「いつかループから脱出して来たる明日のため」たゆまぬ努力をしていく。その姿に、今だからこそ勇気付けられるのだ。
本作終盤である人物が口にする「幸せ」についての言葉は、コロナ禍で生きるわれわれ全てに向けられているようでもあった。このメッセージを見届けるためだけでも、本作を見て欲しいと強く願う。
ちなみに本作は、新進気鋭の配給会社・ネオンと動画配信サービスの米Huluが共同で2200万ドルという、サンダンス映画祭における最高契約金額(当時)で配給権を獲得したことでもニュースとなった。ところが、新型コロナウイルスの影響で全米のほとんどの映画館が休業となったため、上映は限定されたドライブインシアターと、米Hulu(日本のHuluとは別経営)での配信に。そして米Huluでは最初の3日間でオープニング視聴記録を打ち立て、初月で全加入者の8.1%が視聴したほどの人気作となった。
つまり、絶賛で迎えられ、コロナ禍の今の世に最大限にマッチした内容の「パーム・スプリングス」を、映画館という最高の環境で見られるのは非常に幸運ということだ。ぜひ、この終わりのない1日から、明日につながる1本を堪能してほしい。
おまけ:Amazonプライムビデオで配信中の「明日への地図を探して」も要チェック!
「パーム・スプリングス」での「カップルがループに巻き込まれるラブストーリー」というのは特異なように思えるが、実はAmazonプライムビデオのオリジナル作品でも、似た設定(だがテイストは大きく異なる)の映画が存在している。それが「明日への地図を探して」だ。
ループに巻き込まれてしまった主人公が、(同じくループに巻き込まれたことが判明する)女の子と何としてでも仲良くなろうとする様は応援したくなるし、いつもゲームをしているオタク友達と恋愛相談をしている様もかわいい。そんな風に、恋をして努力をする男の子のキュートさも堪能できる物語だった。
もちろん、こちらにもループものだからこその学びもある。街にある「小さな奇跡」を探していくことから、代わり映えのないように思える日常で「輝き」は見つけられると教えてくれる。こちらの作品もまた、ふさぎ込みがちなコロナ禍では希望になるはずだ。
(ヒナタカ)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
-
「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
-
「ほ、本人……?」 日本に“寒い国”から飛行機到着→降りてきた“超人気者”に「そんなことあるw?」「衝撃の移動手段」の声
-
才賀紀左衛門、娘とのディズニーシー訪問に“見知らぬ女性の影” 同伴シーンに「家族を大切にしてくれない人とは仲良くできない」
-
【今日の難読漢字】「誰何」←何と読む?
-
「今やらないと春に大後悔します」 凶悪な雑草“チガヤ”の大繁殖を阻止する、知らないと困る対策法に注目が集まる
-
武豊騎手が2024年に「武豊駅に来た」→実は35年前「歴史に残る」“意外な繋がり”が…… 街を訪問し懐古
-
大谷翔平、“有名日本人シェフ”とのショット 上目遣いの愛犬デコピンも…… 「びっくりした!!」「嬉しすぎる」
-
ハローマックのガチャに挑戦! →“とんでもない偏り”に同情の声 「かわいそう」「人の心とかないんか」
-
「口座や住居が……」 坂口杏里、SNSで“重要個人情報を垂れ流し” 「かなりまずい状態」「大丈夫じゃなさそう」心配の声
- パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
- 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
- 「中学生で妊娠」した“14歳の母”、「相手は逃げ腰」妊娠発覚からの経緯を赤裸々告白 母親の“意外な反応”も明かす
- 勇者一行が壊滅、1人残った僧侶の選択は……? 「ドラクエでのピンチ」描くイラストに共感「生還できると脳汁」
- 「笑い止まらん」 海外産アプリで表示された“まさかの日本語”に不意打ち受ける人続出 「何があったんだw」
- パパが好きすぎる元保護子猫、畑仕事中もくっついて離れない姿が「可愛すぎる」と反響 2年以上がたった現在は……飼い主に話を聞いた
- アグネス・チャン、米国の自宅が“度を超えた面積”すぎた……ゴルフ場内に立地&門から徒歩5分の豪邸にスタッフ困惑「入っていいのかな」
- 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
- 「車が憎い」 “科捜研”出演俳優、交通事故で死去 兄が悲痛のコメント「忘れないでください」
- PCで「Windowsキー+左右矢印キー」を押すと? アッと驚く隠れた便利機能に「スゲー便利」「知らなかった」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」