小学生×ニートのモラル皆無なお仕事漫画『テンバイヤー金木くん』が悔しいけど面白い 「転売を憎む作者」が描く転売ヤーの姿(1/2 ページ)
転売知識漫画? アンチ転売漫画?
人気の商品や限定品をハイエナのように買いあさり高額で売りさばく「転売ヤー」。ルールを順守する消費者からは忌み嫌われる存在だが、そんな転売ヤーに焦点を当てた漫画が悔しいけど面白い。
『テンバイヤー金木くん』。小学生にしてプロ転売ヤーの金木くんが、無職の相棒・大友と共に転売行為を繰り広げるインモラルすぎるお仕事漫画だ。ぶっちゃけた話、これを読めば転売の仕組みから心構えまで、道を踏み外すのに必要な知識がなんとなく手に入る。「転売ヤーを増やす気か!」とキレる人がいてもおかしくない内容だ。
しかし、『テンバイヤー金木くん』は決して転売推奨漫画ではない。転売に苦しんだ作者の「転売の手法をエンタメ化してわかりやすく描くことで、転売ヤーのやり口を理解してもらい、転売を撲滅させよう」という動機から描かれた作品なのだ。
「個人的には敵をやるには相手をよく知る必要がある精神で、転売ヤーへ興味を向かせ、なにやってるかを知らしめるのが転売ヤー撲滅への第一歩だと思ってます。なのでエンタメ化してぼんやりわかればいいんじゃないかなあと思いこんな漫画を描き始めました」(作者コメントより引用)
一体どういうことなのか? 冒頭のエピソードを紹介しつつ、順を追って説明したい。
物語は無職の青年・大友が「バカでもできるアルバイト」のチラシを見つけるところから始まる。
チラシ指定の集合場所に行くと、出てきたのはマッシュルームカットにメガネの小学生・金木。大友は簡易トイレと半額の弁当を渡され、「明日の10時までここを動かないこと」「達成できたら明日5千円払う」と指示される。わけもわからず、言われるままに一晩路上で過ごす大友。
すると翌朝、大友の後ろには長蛇の列ができていた。そう。大友が場所取りさせられていたのは、人気ゲーム機の販売待機列だったのだ。大友を使って列の先頭を確保した金木は、人気ゲーム機8台を26万2240円で買い、中国向け業者に29万7000円で売り飛ばす。中国では売られていない機種のため、買取価格や経費にだいぶ上乗せして販売しても利益が出る。おかげで高額で転売できるのだとか。
作中にはゲーム機だけでなくアイドルのライブ会場販売グッズや、人気アパレルのコラボ商品などさまざまな商材が登場する。売りさばき方もフリマアプリからネットオークションまでさまざまだ。『ケンカの王子様』(テニス…?)のグッズ列に大友を並ばせながら、「なんでも集めるオタクはいいカモだ」と、買い手を見下した目でつぶやく金木。こうした転売にまつわる豆知識は「敵を知る」という意味でも確かに面白い。
そんな金木だが、小学生にとっては大金と呼べる金額を稼いでいるはずなのに、ちっともうれしそうではない。むしろ苦々しい表情を浮かべながら、“金”というものを憎んでいるようなせりふを口にする。
「転売というマナー違反を犯してでも買おうとするファンがいるからこそ、転売ヤーが商品に手を出す」「結局みんな自分が良ければどうでもいいんだよ」。――どんな荒んだ思考の小学生だ。グレーな金儲けをしながら開き直る超クソガキ。
だけど金木が自分の中で「越えてはいけない一線」を引いているように見えるのも事実。だって人気ゲーム機を転売するならば、1台数千円の利益のために中国へ売るよりも、国内のフリマサイトでどかどか高額転売した方が楽なように思える。事実、作中にはそんな悪どい転売を繰り返す奴らも登場するのだ。
そもそも、金木はなぜ小学生という立場で転売にいそしんでいるのか? 直接的には描かれないものの、推測できる要素はある。
実は1巻後半で、金木は小さなアパートで暮らしていることが分かる。詳しい事情はまだ明かされていないが、作中でこぼす「親は関係ないだろ」「遊んでばかりじゃいられないからな」というせりふから、金木が何らかの家族にまつわる金銭的な問題を抱えていることが推測できる。
また、金木は大友に大金を稼ぐ理由について聞かれ「好きなときに好きなことをしたいから」と答える。ここには彼の「お金がないことによる不幸や不自由から逃れたい」という気持ちが透けて見える。
一方の大友は「金なくても楽しいし!」と言える人間だ。無断キャンセルで廃棄になった定食や、シーズンオフで売れなくなった服を友人からもらい、格安のシェアハウスに住みながらそれなりに楽しく生きている。「たまにアジアに行ってのんびり過ごすのが楽しみ」という大友は、カツカツの生活をしているけれど心根が「自由」なのである。
お金がない不自由に苦しみたくないがゆえに、金儲けに時間と感情を費やし、精神がお金に縛られてしまう金木とは対象的。
あれ? その「お金がなくて不自由するのが嫌で必死で働くけど、そのせいで不自由になる」ジレンマ、私らも日常で抱えているやつでは……。『テンバイヤー金木くん』にはこういうお金にまつわる本質情報がちょいちょい現れ、「金木と大友、一体どっちの生き方が幸せなんだろう?」と思わず考えてしまう。
そもそも金木の転売も、大友のその日暮らしも「市場原理によって物の価値が不健全に上下する資本主義の歪み」によって成立するわけで、需要と供給のバランスが健全に保たれていたら二人の生活は成り立たない。
単なる転売ヤーあるあるネタを超えた「転売が生まれる世の中の仕組み」にまで踏み込み、お金と人生について考えさせられるのがこの漫画の一味違うところなのだ。
作者が本当に転売ヤーを憎んでいるのなら、いつか金木にもしっぺ返しが訪れるはずだ。それは金木の「お金に縛られる日々」からの開放なのか。それとも「未来がふさがれる日」の訪れなのか。
お金と社会との関係をさりげなく、しかしがっちり描いた本作が、金木の人生にどんな結論を出すのか、目が離せない。
(C)早池峰キゼン/GOT
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