ところで西九州新幹線って「開業区間が中途半端」じゃないですか?月刊乗り鉄話題(2021年8月版) 「西九州新幹線」の素朴な疑問11選(3)(2/2 ページ)

» 2021年08月22日 12時00分 公開
[杉山淳一ねとらぼ]
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「フリーゲージトレイン」で解決するはずが……

 意見が一致しないままでは着工できません。そこに新しいアイデアが提案されました。「フリーゲージトレイン」です。車輪の間隔を可変式にして在来線とフル規格新幹線の「両方」を走行できる車両です。日本では実用化されていませんが、ヨーロッパでは古くから採用されていました。アレを日本でも開発しよう。前例があるからきっとできる──と。

西九州新幹線 (参考)フリーゲージトレインの試験車両(画像:川崎重工

 フリーゲージトレインは、スーパー特急方式の枠組みをそのまま使えます。一部区間だった武雄温泉〜長崎間をフル規格に変更し、博多から新鳥栖までは九州新幹線(フル規格)、新鳥栖〜佐賀〜武雄温泉までは在来線を走行します。これで決着するはずでした。

 しかし、「我が国ならきっとできる」と開発を進めたフリーゲージトレインは「台車の摩耗が激しく、メンテナンス費が高額になる」「車輪にかかる重量が重く、線路にかかる負荷が大きい」という課題を解決できませんでした。JR西日本もそんな車両が山陽新幹線へ直通されても困ると表明しました。

 巨額の開発費を投入しましたが解決のめどが立たず、国はフリーゲージの開発を断念しました。

 ところが、武雄温泉〜長崎間はフル規格で建設を始めてしまっていました。後戻りするにも巨額の費用がかかります。

 それならば新鳥栖〜武雄温泉もフル規格で作れば解決じゃないですか──。そんな甘くはありません。佐賀県は「スーパー特急で十分」という考え方でしたから「話が違う!」「合意していないのにフル規格で作れといわれても困る」「メリットがないのに建設費の負担はできない」という状況になっています。

 国としては、いままで他の自治体にも建設費を負担してもらっている手前、佐賀県だけ建設費なしというわけにはいきません。佐賀県は「そもそも在来線を使う話で、新鳥栖〜武雄温泉間は新幹線建設の合意すらない」「合意していない区間の建設方式を選ぶ話し合いには応じられない」という立場です。

 実は、2021年8月現在も新鳥栖〜武雄温泉間は「まだ新幹線の着工が合意されていません」。だからこの区間の呼び方は整備新幹線の「九州新幹線(西九州ルート)」のままです。今のところ「西九州新幹線」と呼ぶのは武雄温泉〜長崎間だけなのです。

【疑問 11】もし、新鳥栖〜武雄温泉間もフル規格で開通したらどうなる?

 もし、国と佐賀県が合意し、新鳥栖〜武雄温泉間をフル規格で建設したならばどうなるでしょうか。

 まず、博多〜長崎間で「直通(乗り換え不要)」になります。所要時間は約1時間22分から「約51分」になります。1時間以内とはすばらしい。新大阪〜長崎間も約4時間から約3時間15分、「45分間の短縮」です。こちらも乗り換えが解消されて便利になります。

 博多〜佐賀間の所要時間も約35分から約20分になります。新大阪〜佐賀間は約3時間13分から約2時間44分になり、約29分も短縮されます。もちろん乗り換えもなくなります。

 この所要時間は国土交通省が2018年に試算した数字です。当時はN700Sの導入が決まってなかったので、N700Sの性能が発揮されると所要時間はもっと短くできるかもしれません。

 また、新鳥栖〜長崎間までの距離になると、JR九州も整備新幹線区間の「高速化」に着手するかもしれません。時速300キロ運転が可能になれば、時間短縮効果が小さい佐賀県にとってもフル規格の魅力度が上がるでしょう。

 利用者にとっては「全区間をフル規格にしてもらった方がうれしい」です。しかし、ここはもう国と地方自治体の関わり方、政治の問題になっています。解決を願うばかりです。

お知らせ:杉山氏出演 2021年9月15日にトークイベント「リアルとフィクションから語る駅・鉄道の新たな魅力」が開催されます オンライン視聴もOK!

 京阪なにわ橋駅のアートエリア ビーワンで2021年9月15日19時から、トークイベント「リアルとフィクションから語る駅・鉄道の新たな魅力/鉄道芸術祭vol.10プレ企画」が行われます。

 こちらは、鉄道の創造性に着目した企画展「鉄道芸術祭」の本番に向けたプレトークの第3弾。「駅・鉄道のコミュニティ機能」をテーマに、鉄道シミュレーションゲームのフィクションとリアルを交えながら鉄道の新たな可能性を語ります。オンライン視聴も行うので皆さんぜひ!

  • 開催:2021年9月15日 19時〜20時30分
  • ゲスト:杉山淳一氏
  • カフェマスター:contact Gonzo(アーティストユニット)、dot architects(建築家ユニット)、木ノ下智恵子氏(大阪大学共創機構准教授、アートエリアB1運営委員
  • 実来場観覧:定員15人程度(申し込み不要、当日先着順、無料)
  • オンライン視聴:本イベント告知ページでライブ配信(9月15日 19時〜20時30分)

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。ITmedia ビジネスオンラインで「週刊鉄道経済」連載。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。日本鉄道全路線の完乗率は100%(2021年4月時点)



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