「残さないといけない文化だと思った」 廃業の危機にあった書店、小説家が経営引き継ぐ その思いを聞いた(1/2 ページ)
事業継承に名乗りを上げたのは時代小説家の今村翔吾さん。その背景などを聞きました。
廃業のピンチに陥っていた書店の経営に人気作家が名乗りを上げた――そんな話題がTwitterで注目を集めています。なぜ経営を引き継いだのか、どんな店にしていくのか、聞いてみました。
経営難で廃業の危機に陥っていたのは、大阪府箕面市にある書店「きのしたブックセンター」。1967年創業で、最盛期には4店舗あったものの、全国的な書籍の売り上げ減の中で1店舗に減っていました。
その経営に名乗りを上げたのは、『羽州ぼろ鳶組』シリーズ(祥伝社)などで人気の、滋賀県に住む時代小説家、今村翔吾さん。今村さんが10月に書店の経営を引き継ぐことをTwitterで明らかにすると、「応援します」「感動しました」など反響がありました。
「きのしたブックセンター」は今村さんが出資することで、事業の継続を実現し11月1日にリニューアルオープン。作家が書店の経営をするという驚きの事態に至ったいきさつや思いを今村さんに聞いてみました。
―― 経営を引き継ぐことになった決め手は?
今村さん 中高時代の友人から「買い手が見つからない潰れそうな本屋があるが経営に参加してみないか」という相談を受けて、面白そうだったので実際に店舗に赴いてみました。
すると雨の中、おばあさんとお孫さんと思われるお客さんが来ていて、絵本を選んでいる場面に遭遇しました。その時にこれは残さないといけない文化だと思ったのがきっかけです。また、地域で唯一の本屋だったこともありますね。
―― 経営にどんな形で携わっていくのですか?
今村さん 作家事務所の完全子会社として出資した上で、作家業と平行して経営に携わります。本と出会うことのワクワク感をどうすれば演出できるか現場に立って考えていきます。作家の目線と読者の目線の両方に立った売り場作りをしたいですね。経営の「飛び道具」として作家のサイン会や、イベントの開催も提案していきます。
―― 新しい店はどんな店になりますか?
今村さん これまでの在庫は1万冊程度でしたが、まずは本の量を増やします。最終的には2万冊に近づけたいですね。店舗も全面改装を行い、本を見るには明るすぎた照明の光量を改善したり、お客さんの動線や従業員の働きやすさを考えた配置などに改善したりしました。
屋号は変えず、従業員の雇用も維持した上で引き続き文化のインフラとしての地域の書店を目指します。従業員は私が経営に乗り出すと聞いたときに「ああ、これでクビになる」と思ったらしいですが(笑)。
―― 書店の経営に携わることになって気がついたことはありますか
今村さん 書店の経営に乗り出したのは縮小し続ける出版業界にいる者として「何もしないより、何かしたほうがいい」という考えからです。デビューしてまだ日は浅いですが、本を広める現場に立つことで私を育ててくれた出版界に恩返ししたいという思いが強くなりました。
かつての自分がそうであったように、本との出会いは人生を変えます。もっといいものを書きたいというモチベーションにもつながっています。
―― 今村さんにとって書店の魅力とは
今村さん 街の本屋の良さは雑多に多世代が集まることができる場所であることだと思います。コミュニティーとしての魅力がそこにはあります。ネット通販では実現しません。この文化を残すことが大事なのだと思います。
本との出会いは人の出会いに似ていて人生の交差点です。箕面の人たちにそういった人生を豊かにする場を提供できるように頑張っていきます。
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