亡くなった伯父から預かったSDカードを開いたらとんでもないものが―― 戦中・戦後の貴重なモノクロ写真が1万点以上、「これはすごい」と注目の的に(1/4 ページ)

確かにこれは貴重な記録!

» 2022年05月16日 19時30分 公開
[しげるねとらぼ]

 数年前に亡くなった伯父さんから預かったSDカードに、光学機器の研究をしていた祖父が戦前から戦後にかけて撮影した写真が大量に保存されていた――。合計約1万6000枚の写真を発見したというツイートに注目が集まっています。投稿は現在までに2万2000回以上リツイートされ、8万8000件ものいいねが寄せられました。

 写真を祖父と伯父から受け継いだのは、Webデザイナーの宮澤修平(@room_909さん。写真の撮影者であり、修平さんの祖父である宮澤堂(たかし)さんは、1909年に小田原で生まれ、東京理科大学の前身である東京物理学校を主席卒業。京都大学花山天文台の職員となり、1929年のスマトラ日食観測に京大観測隊として参加するなどの実績を積みました。

 1941年には天文台を退職し、関西光学研究所(カンコー)を設立。レンズや天台望遠鏡の開発に関わり西村製作所とミヤニ式反射望遠鏡写真鏡を制作するなど、生涯を通じてレンズや天体望遠鏡の開発に携わり、1982年に74歳で亡くなっています。


おそらく堂さんが勤務していた京都であろう写真

堂さんはどこででも撮影したそうで、農作業を収めたものも

満州はハルビンで撮影されたらしき写真

大阪大空襲の直後を撮影したものもありました

戦後の街角を撮影した写真も数多く含まれています

 今回見つかった写真は、この堂さんが昭和10年代から40年代にかけて撮影したもの。堂さんが勤務していた京都や、当時は満洲国の都市だったハルビンの風景、また大阪大空襲の焼け跡の様子や、復興を果たした戦後の街角などが写しとられています。何気ない風景を捉えた写真も多いですが、公開された写真はどれも非常に鮮明に撮影されており、さすが光学系の研究者……とうなるるものばかり。枚数も1万6000枚ほどと膨大で、戦前から戦後にかけての時代の記録としても価値が高そうです。

 今回は宮澤さんに、写真を発見した経緯や堂さんの人物像、Twitterを通じて寄せられた反響について直接お聞きすることができました。果たして、これらの写真はどのように発見され、宮澤さんにとってどのような意味を持つものだったのでしょうか。

 

見つけた瞬間に「何かゾクッとした」

── SDカードはどのような経緯で発見されたのか、改めて教えてください。

宮澤さん:Twitterに投稿している写真は、祖父である宮澤堂が長年撮影したものです。祖父は膨大な量の写真アルバムを遺していて、それを預かっていた伯父が「これは価値があるからデータ化しよう」と、定年退職後に取り込み続けたようです。ファイルの日付によれば、2012年5月30日から2014年1月5日まで作業をしていたようですね。


SDカードが収められていた封筒

―― これだけの枚数のフィルム写真をデジタル化するのは相当大変だったと思ったのですが、1年半以上かかっていたんですね。

宮澤さん:で、数年前に伯父が亡くなったとき、うちの父経由でデータを預かりました。関西光学研究所の封筒に入ってたんですが、当初は手紙とSDカードが1枚しか入ってないと思い込んでいて。1枚目のSDカードには、ネガを取り込んだ写真を中心に、比較的最近のものが1500枚くらい入ってました。古いものもあったけど親族写真が中心で、僕ら身内が懐かしむような感じのものばかりだったんです。

 たまたま先日部屋を掃除していたときにその封筒を見つけて、そういえば伯父の手紙はスキャンしてなかったなと取り出したんです。そしたら封筒の奥に、見慣れないもう1枚のSDカードが入っていて、その時点で何かゾクッとしたんですよ。あれ……と思いながら取り込んだら、とんでもない写真が、とんでもない解像度で……。取りあえず家族に報告してから、分かりやすそうな写真をツイートして、その価値をいろんな人に聞いてみようと思ったんです。


若い頃の祖父、堂さん

── 撮影されたお祖父さんはどんな人でしたか?

宮澤さん:僕が5歳のころに亡くなったので、正直あまり記憶がないんですが、いつもロッキングチェアに座ってニコニコしている人でしたね。いたずら好きだった僕を、笑いながらたしなめていました。

 親族から聞く祖父の姿は、とにかく研究熱心で商売がヘタな学者、自分が納得できないとお金を積まれても望遠鏡を売らないという頑固な人だったそうです。晩年になっても研究を続け、NASAからも依頼を受けていたと聞いています。量産品ではない、一点もののレンズなどを作っていたようですね。

 写真について言えば、かなり昔からライカなどのカメラを所持していて、フイルム代だけで家が一軒建つほど撮り続けたようです。「おかげでウチはずっと貧乏学者やったわ」と祖母がぼやいていたとか。でもそのおかげで、こんなに貴重な写真が残ったんです。ただ、当時の職員さんの娘さんから連絡が来たりとか、今になって割とリアルタイムに新事実が発覚していて慌ててます。

── 中に入っていた写真群について、これまで分かったことはありますか?

宮澤さん:上記の通り、ひたすら撮影を続けていたようですね。父いわく、どこへ出かけるときもカメラを持っていたんだそうです。それにしてもネット、Twitterってすごいですね、写真をアップしたらあっという間に検証が始まって、あちこちから情報が寄せられるんですから。おかげで私たち親族も、今になって新しい発見がいっぱいあります。

── 公開後の反響について、どのように感じましたか?

宮澤さん:僕自身、Webに携わる仕事をしていたので、ひょっとしたらそれなりの騒ぎになるかなとは思っていました。ただ、反響は想像のはるか上でしたね。それと同時に、皆さんが祖父のことを知ってくれたり、この時代のことを教えてくださることに、楽しさやうれしさも感じています。最初の盛り上がりでハラをくくって、時間をかけてでも祖父の写真を伝えていこうと思いました。

 それと同時に、やはり残すこと、伝えることって大事なんだなあと実感しましたね。日常的な風景でもアーカイブしておくことで、これだけ貴重なものになるんだなと。皆さんも古い写真や映像などをお持ちならば、なんとか頑張ってアーカイブを残して、後世に伝えていってほしいと思います。


ものすごい枚数が残されている

── 今後何らかの形で公開したりする予定はありますか?

宮澤さん:今はまだ、膨大な写真の山に埋もれている感じですね(笑)。ピンボケ写真も多いし、あまりにもプライベートすぎる写真もあるので、そのあたりを整理しながら、最終的にはきちんとした形で見ていただけるようにがんばろうと思います。

── 宮澤さんもよく写真を撮影されていますが、これは血筋ですか?

宮澤さん:ウチは代々Nikonを愛用していて、父もNikonユーザーなんですよ(祖父はライカをはじめいろいろなカメラを使っていて、ウチの両親が結婚した昭和40年代には手元に11台あったとか)。僕がカメラを持ったのは十数年前で、当初なにも考えずにキヤノンのカタログを持って帰ったら「お前は一族を裏切る気か」と父に言われたことがあります(笑)。古いものを持ち続けるのは祖父譲りなようで、僕も父もずっと写真を残しています。

 言われるまで気付かなかったんですが、血筋なのかもしれませんね。僕はたまたまこのデータを手渡された、普通のオッサンです。祖父が撮って、伯父が遺して、僕が伝える。そういう役割だったのかもしれません。

 ちょっと話が前後するんですが、伯父には本当に感謝しています。これだけの膨大な写真を高画質で遺してくれたこと、もう少し早く気付いていればお礼が言えたのに……。それでも今年のお盆には、祖父と伯父に良い報告ができそうです。



 宮澤さんは今もこれらの写真を少しずつ投稿しており、Twitterでは貴重な昭和の風景を多数見ることができます。また、今後はボケている写真や、プライベートすぎる写真などを整理したうえで、何かしらの「きちんとした形」で見られるように考えているとのことでした。

画像提供:宮澤修平さん(@room_909

 

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