「トップガン」はなぜ「トップガン」なのか? 「トップガン マーヴェリック」でオタクが悲鳴を上げ歓喜した理由(2/3 ページ)
結論から書くと、杞憂だった。この映画を見ることで、おれは「『トップガン』の本質はF-14ではなかったし、ひょっとしたらトム・クルーズでもない可能性がある」ということに気づいたのである。
では、「トップガン」を「トップガン」たらしめている要素とは何か。それは「ザラついた映像」と「波長が長めのオレンジっぽい色の光源」、そして「トップガンアンセムの『ゴォ~~ン……』というあのイントロ」だったのだ。
「トップガン マーヴェリック」の冒頭では、前作と同じように「トップガン」という訓練学校の説明が字幕で入り、そして前作と同じタイミングに同じ書体で「TOP GUN」というタイトルが出る。違うのはその後で「MAVERICK」という今作のタイトルが浮かび上がるところくらいだ。
正直、これくらいはやってくるだろうな……とおれは思っていた。しかし、どうも文字が出るところの映像の感じがおかしい。IMAXのはずなのに、なんかちょっと画面がザラついているのだ。
初代「トップガン」では、空母の甲板上のシーンなどにトニー・スコット監督がCM撮影でも使用していた高感度フィルムが使われている。そのため、空母上や戦闘機の飛行シーンでは高感度フィルム特有のザラザラしたノイズが乗っている。あのザラザラ感もリアルっぽくて逆にカッコよかったのだが、今回の「トップガン マーヴェリック」は、そのザラつきをあえて初代から完コピしているのである。そして流れてくる、猛烈に聞き覚えのある曲……。トップガンアンセムの「ゴォ~~~ン……」というイントロが、タイトルにかぶさって聞こえてきたのだ。
「え……まさか……」と思っていたおれの目の前に現れたのは、オレンジ色の光に照らされた空母の艦上で忙しく動き回るデッキクルー、そしてカタパルトに向けてタキシングするF/A-18の姿だった。
パイロットにハンドサインを送るデッキクルー。カタパルトのシャトルに接続されるローンチバー。立ち上がるブラストディフューザー。フルパワーのエンジンから噴き出る排気炎。そしてBGMが切り替わり、「デンジャー・ゾーン」のあのイントロと共に、F/A-18が猛スピードで空母からぶっ飛んでいく!
その瞬間、おれは「あ!! この映画は!! 『トップガン』だ!!」と認識してしまった。映画館じゃなかったら「これさあ! 『トップガン』じゃん!」とオタク大声を張り上げていたと思う。
スクリーンに映っているのは、F-14ではなくF/A-18の発艦シーンである。あのイカしたF-14ではなく、悪くはないけどカッコよさでは一段落ちると思っていたF/A-18なのである。しかし、波長の長いオレンジ色の光線に照らされた空母の甲板がトップガンアンセムをバックにエモく映し出され、その画面がノイズでザラついていて、F/A-18が「デンジャー・ゾーン」でぶっ飛んでいったら、「『トップガン』じゃん!!」となってしまったのである。あんなに「F-14出てこないんじゃないの? 大丈夫なの?」とか言ってたのに……。
「トップガン」の冒頭の発艦&敵機追跡シーンは、「それまでトップのパイロットだったクーガーが怖気付いたことで、マーヴェリックにトップガン入校のチャンスが回ってくる」というストーリーに関係していた。
しかし、「トップガン マーヴェリック」冒頭のF/A-18発艦シーンは、実のところちっとも映画の本筋に関係がない。なんせ、今回の発艦シーンではマーヴェリックすら出てこない。このシーンは、観客の認知をハックして「『トップガン』じゃん!」と言わせるためだけに存在しているのだ。その威力は、少なくともおれに関しては絶大だった。だって、F-14が出てきてないのに「トップガン」に見えちゃったんだもん。もうすがすがしいほどの負け、完敗である。アメリカ海軍には勝てなかったよ……。
おそらく、この映画のスタッフは続編を作るにあたり、「『トップガン』を『トップガン』たらしめている要素とは何か」を死ぬほど考えたはずだ。なんせ前回の主役メカが退役しちゃってるんだから、考えざるを得ないはずである。そして出した答えが、「画面のザラつきと光源の色、そして音楽」だったのである。
これはおれの推測だが、夕暮れや朝焼けのような光源を使って高感度フィルムっぽいザラつきが出るように映像を撮って、そこにトップガンアンセムをかぶせれば、たとえ撮影対象が新幹線でもトラックでも漁船でもニンジンでもジャガイモでも、なんでも「トップガン」になるのではないかと思う。そのくらい、この三要素は「トップガン」の味がする調味料なのだ。
もちろん上記の要素以外にも、「トップガン マーヴェリック」は「トップガン」らしさが大名舟盛りになっている。「その要素もカバーすんの!?」という驚きもあるし、「そりゃまあな~! やっぱりそうなるよなあ~!」という部分もある。
トム・クルーズのスーパースター的現役ハツラツ感も濃いが、一方ですでに初老となった彼にしか出せない厚みや味わいも感じられる。観客の認知をハックして「トップガン」らしさを感じさせつつ、同時に「今しか作れない、『トップガン』の続編」になっているのが、「トップガン マーヴェリック」のすごいところだろう。
こういう映画なので、初代「トップガン」の「トップガン」性を一度味わった上で見に行った方が楽しいのは間違いない。ハードルを無駄に高くしたいわけではないのだが、映画自体がそういう作りになっているんだから仕方がない。そして、「トップガン」の文脈を分かった上で見に行くならば、この作品は間違いなく面白いはず。なんせコロナで延びに延びた末の公開だ。ぜひとも映画館の大画面で、「ギエ~! これ、『トップガン』やんけ!」という悲鳴を(心の中で)上げつつ見てほしい。
(しげる)
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