映画『ゆるキャン△』インタビュー 監督・京極義昭が語るシリアスシーンを描く覚悟と恐怖(1/2 ページ)

映画制作にかけた思いを聞きました。

» 2022年08月05日 18時00分 公開
[宮澤諒ねとらぼ]

 山梨県や静岡県を舞台に、女子高生たちがキャンプする姿を描いた漫画『ゆるキャン△』(作者:あfろさん)。7月1日には初の映画が公開され、7月3日時点での累計動員数は25万人、興行収入は3億5000万円を突破するなど注目を集めています。

映画「ゆるキャン△」メインビジュアル 映画メインビジュアル

 原作は、マンガアプリ「COMIC FUZ」(芳文社)で連載中。2018年にテレビシリーズがスタートし、2020年にはスピンオフ作品「へやキャン△」、2021年には「ゆるキャン△ SEASON2」が放送されました。キャンプブームの火付け役としても知られ、7月16日には山梨県身延町に「道の駅しもべオートキャンプ場〜ゆるキャン△の里〜」がオープンするなど、勢いはとどまるところを知りません。

 映画は、大人になったなでしこたちがキャンプ場作りに挑戦するというオリジナルストーリー。本栖高校時代のゆるい日常や、まったりキャンプとは違い、社会の荒波にもまれる彼女たちのほろ苦さも描いた作品となっています。もちろん劇中では、高校時代を思い出すようなほんわかしたやりとりや、「飯テロ」がさく裂するキャンプシーンもあるのですが、一方で、社会人になったなでしこたちという原作にはない設定だけに、映画公開前には「どうなるんだろう」という期待と不安が入り交じった声もあがっていました。

映画「ゆるキャン△」 大人になったなでしこたち

 なぜ映画では、大人になったなでしこたちを描くことになったのか、そしてキャンプ場を作るという、これまでの枠組みから外れたストーリーになったのか。テレビシリーズから引き続き監督を務めた京極義昭さんに、制作の裏側と映画に込めた思いを聞きました。

「テレビシリーズの拡大版にしたくない」から始まったストーリー作り

映画「ゆるキャン△」京極義昭監督 京極義昭監督

―― ついに映画が公開されましたね。

京極監督 無事に出来上がってほっとしています。スケジュールが押してギリギリになっても終わらなかったんですけど、スタッフの頑張りのおかげでなんとか完成できました。

―― 映画の公開前後で、思い描いていた景色に違いはありましたか?

京極監督 映画が出来上がる前はもっと悔いが残ると思っていました。

―― 悔い、ですか。

京極監督 オリジナルストーリーという、かなりチャレンジな企画だったので、制作中も「受け入れてもらえるだろうか、余計なことをしちゃったんじゃないか」と悩んで、自信がなくなるときもありました。

 でも終わってみると、これしかない、これが一番良いと思えました。もちろん良いという声も悪いという声もあると思うんですけど、自分が思う『ゆるキャン△』の良さとか、これが『ゆるキャン△』の映画だと思うものを描き切れたので、自分でも意外なほどすっきりした気持ちです。

―― 監督は普段からネットの反応を見ますか?

京極監督 時々見ますけど、今回の映画に関して言えばもともと賛否両論が必ず起きる企画だと思っていました。あfろ先生の原作がいかに完成されたものかというのを、僕はテレビシリーズを作りながら身にしみて感じていまして、なんとかアニメに原作の良さを落とし込むのに精いっぱいでした。だから、それを飛び越えて先のストーリーを作るというのは批判されて当然ですし、その気持ちはよく分かるんです。

 でも、僕らが『ゆるキャン△』という作品に関わり、与えられた仕事というのは、いかに作品の面白さをたくさんの方に知ってもらうかだと思っています。だから、あえてチャレンジして、いろんな方に届くように映画を作るという道を選びました。そこはもういろいろ言われても仕方がないと思っています。覚悟しているので。

―― 2018年3月に第1作目の放送が終わり、同年10月に「映画化・SEASON2・へやキャン△」が一気に発表されたわけですが、映画のパンフレットによると監督は最初、続編の制作に乗り気じゃなかったとか。

京極監督 第1作目が終わってから、もうできませんって断り続けていました(笑)。やりきったという気持ちが強かったんです。でも映画をやるという話だったので、これは面白そうだぞと。単純に続きを作るだけという企画だったら引き受けていなかったと思います。チャレンジングな企画を用意してくれたので、それならやってみようかなと。

映画「ゆるキャン△」 仕事の合間にキャンプ場づくりをするリンたち

―― 映画化の話が来た時点では、物語はまだなにも決まっていなかったそうですね。

京極監督 その通りです。

―― ストーリーはどのように考えていきましたか?

京極監督 テレビシリーズを拡大しただけの内容にしたくない、というのが前提にありました。いろいろと案が出ましたけど、いつもの5人が出てきてキャンプをしてとなると、どこに行くか、どんなキャンプをするかぐらいしかバリエーションがないんです。それで、発想を変えて「キャンプ場作りとかどうだろう」と提案したところ、それいいじゃんとなりまして(笑)。

映画「ゆるキャン△」 もちろんキャンプシーンも
映画「ゆるキャン△」 空腹で見ると大変なことになる

 キャンプ場に行ってキャンプをするという行為から、キャンプをする場所を作るというこれまでとは違う関わり方になるわけです。しかもそれは大人にしかできないことだし、そこにドラマというか、今までの高校生の彼女たちとは違う、気付きや成長が描けるかもしれないという予感がしました。それで、進めてみようよという話になったんです。

映画「ゆるキャン△」 仕事を頑張る姿も数多く描かれています

―― 映画では大人になったなでしこたちが描かれたわけですが、彼女たちを描く上で、高校時代から変えようと思ったこと、逆に変えないでおこうと思ったことはありますか?

京極監督 『ゆるキャン△』のアニメを作る際、彼女たちはそのときどうしていたのか、というところから考えるようにしています。普通なら、こういう話にしたいからキャラクターをこういうふうに動かそうと思っちゃうんですけど、『ゆるキャン△』の場合はそうやって配置していくと絶対にうまくいかない。つまり、『ゆるキャン△』らしくなくなってしまうんです。テレビシリーズでも、必要に応じてオリジナルシーンをいくつか入れましたけど、すごく難しかったですね。

 たぶんそれって、原作の完成度がすごく高いからだと思うんです。少しでも勝手な味付けをしてしまうと、すぐにバランスが崩れてしまう。だから、映像としては映っていないけれど、そのとき彼女たちはどんな行動をしていたんだろう、どんなことを考えていたんだろうと発想していって、彼女たちが動くのを見守るみたいな。そういうふうに作っていかないと、『ゆるキャン△』の世界観を表現することはできないと思っています。

 映画では大人に成長していますが、高校生から大人までいきなりジャンプするわけではなく、いろいろな経験や出来事があって今があると思うので、その過程をまず追っていこうと考えました。なでしこだったら、高校を卒業してどんな進路を選ぶんだろうとか、リンだったらどんな場所に行ってどういう勉強をするんだろうとか、そういうふうに考えて作っていきました。

 その結果、背丈や服装はもちろん変わるんですけど、キャラクターの造形は高校時代からあまり変わっていません。キャストの皆さんにも、大人っぽさを意識しすぎないで演じてくださいと伝えました。

映画「ゆるキャン△」 社会人になっても高校時代のノリは健在

 彼女たちの行動やせりふを追っていけば、自然にちょっとした変化が生まれてくるので、あえて強く演出する必要はないという結論に至ったんです。あえて変えていないことの方が多いかもしれないですね。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた