100年前の新聞社がTwitterを使ったら……? 過去のニュースをリアルタイムでつぶやく「百年前新聞」が“最高に面白い”と話題(2/4 ページ)
歴史には“教科書や年表には書かれていない生活”が埋もれている
――「百年前新聞」を始めたきっかけを教えてください。
百年前新聞・社主さん: もともと歴史好きで、高校生のときから歴史小説や教科書、資料集をよく読んでいたのですが、そこに書かれていないことに興味がありました。
小説だと、主人公に何か起きたあと、次のページでいきなり「1年後」ということもあったりしますよね。でも本当はそのあいだも、主人公は普通の生活をしていたはずです。だとしたら、歴史上に実在した人物も同じで、教科書や年表には書かれていないところで、いろいろな出来事が起きていたんじゃないかなと思っていました。
当時、講談社の『20世紀全記録』という1000ページ以上もある本があったんですが、そこには1900年の1月から毎日、世界で起きた出来事が記されていました。それを見ると、もちろん知っている出来事もありますけど、知らない出来事のほうが圧倒的に多いわけです。
例えば、太平洋戦争が始まった1941年を見てみると、4月の日ソ中立条約、6月の独ソ戦、11月のハル・ノート、12月の真珠湾攻撃と、戦争への道を進んでいく様子が見えます。でも『20世紀全記録』を見ると、同じ年の2月には李香蘭の歌謡ショーが盛り上がったり、10月の競馬ではセントライトが初の三冠馬になったりもしているのが分かります。
教科書だと「ただ戦争に向かっていく暗い時代」というような雰囲気で書かれている部分に、日常の楽しみが隠れていたように思ったんですね。よく考えてみたら、戦争が始まりそうだからといって急に社会全部が暗くなるわけはなくて、その中で人々は楽しみを見つけていたんだと思います。
そんなとき、1914年のサライェヴォ事件について調べていたときに、「あれ?」と思いました。サライェヴォ事件っていうのはオーストリアの皇位継承者がセルビア人青年に暗殺されて、第一次世界大戦のきっかけになった事件です。たしか世界史の教科書だったと思うんですが、「6月末に事件が起きて、その1カ月後の7月末、戦争が始まった」というような記述がありました。
それまで「サライェヴォ事件の直後すぐ戦争が始まった」と思っていたのですが、その間には1カ月の時間がたっていたわけです。これは長い1カ月だったのか、それとも一瞬で過ぎ去った1カ月だったのか。この疑問が「百年前新聞」を始めるきっかけだったように思います。
「百年前新聞」を始めたのが2013年12月ですから、ちょうど間に合った感じですね。調べてみると、サライェヴォ事件から1カ月、各国首脳は手をこまねいていたわけではなく、自国の立場を表明しながら戦争回避の努力も続けていました。こうしたことが分かるのが、「百年前新聞」を続けていて楽しいところです。
「新聞だけが情報源じゃない」
――ニュースはどのように調べているのでしょうか。また、ニュースの選定基準についてもお聞きしたいです。
百年前新聞・社主さん: 過去の新聞記事をそのままツイートしていると思っている方も多くいらっしゃるようなのですが、実は元データは新聞に限りません。先ほど出てきた『20世紀全記録』も使いますし、Wikipediaや手元の本も使います。論文も読みますし、文豪の日記を元資料にすることもあります。ほかにも国立国会図書館の資料を検索したり、帝国議会の議事録も丁寧に読んだりしています。いずれにせよ、内容に間違いがないようには気を付けています。
ただ、やはり100年前の記録なので「この年に起きたことは間違いないのに、何月何日か分からない」ということも結構あります。特に海外の本の発行年月日は意外と分からなくて、丸一日調べて、結局記事にするのを断念したこともありました。
その他にも、そっちの資料とこっちの資料で日付がずれていたり、内容が矛盾していたりするのはしょっちゅうです。別の資料で裏付けを取って整合性が取れるほうを採用するのですが、実はこの作業に時間がかかって投げ出したくなります(笑)。あとはこれは私の問題なのですが、苦手な分野だと事実関係を間違ってしまってお叱りをいただいたこともありました。
また、文字だけだと何が何か分からないような場合には、自分で関係図を描くこともあります。こういう図を描くのは楽しいですね。
こうやって調べていくと無限に時間があっても足りないので、実際に記事にするのはその一部です。ニュースの選定基準は明確ではありませんが、「面白いかどうか」は大切にしているかなと思います。
「昔はそんなことあったんだ!」とか、反対に「今も昔も変わらないなー」とかがあると、やっぱり興味深いです。「自転車に乗れなかった萩原朔太郎が乗れるようになった!」ってなったら、見ていて楽しいですよね。こういうところからちょっとでも歴史のことが好きになってくれたらいいなって思います。
少し苦労するのは、どうしても現代の視点から判断せざるを得ないところです。難しい話なのですが、ベネデット・クローチェという歴史学者は、「全ての歴史は現代史である」と言いました。歴史上の出来事の判断には必ず今の価値観が入り込むという意味なのですが、「百年前新聞」もその宿命から逃れられません。
「その当時有名ではない人物にまつわる出来事は記事にするべきか」と考えると悩むのですが、書いてしまうことが多いですね。ある意味、開き直って「百年前新聞」を読んでいる人が面白がってくれればいいかと思っています。
300単位を取得しながら、プログラミングで起業までした大学時代
――プロフィールに「歴史が仕事」とありましたが、歴史に関するお仕事をされているのでしょうか。また、大学は法学部とのことですが歴史はどこで勉強されましたか。
百年前新聞・社主さん: 本業は私立高校の社会科教師です。大学では法学部政治学科でした。今では政治学も好きなのですが当時はなぜかあまり興味が持てず、歴史、音楽、美術などをいっぱい取ったんですね。もともと勉強好きだったおかげもあって、4年間で307単位を取得しました。2回卒業してもまだ余るくらい持っていたので、よく友達に「1単位いくらで買う?」と冗談で言っていました(笑)。
あと、これは勉強とは言えませんけど、ゲームの「Civilization」シリーズですね。石器から始まり宇宙開発に至るまで技術開発を進めて、自国の文明を発展させていくゲームです。「麻薬ゲーム」といわれるくらい高い中毒性で知られていますけど、高校のときにハマりました。ほかにもコーエーの「三国志」シリーズや「大航海時代」シリーズも好きでした。
ついにはプレイするだけでは足らなくなって、技術開発ツリーを独自に書いてみたり、自分で文明発展ゲームを作ったりしました。プログラミングの部活で友達にも遊んでもらったんですが、歴史的な背景を雑に扱うとゲームに説得力がないというか、おかしなことになってしまうんですね。そうしたときに歴史上の出来事の細部を調べたのが勉強につながったかもしれません。
大航海時代を舞台にしたゲームを作ろうとしたときは、実在した航海士たちを片っ端から調べました。そんなことをしているうちに、結局未完成で終わりましたけど(笑)。大学生になってプログラミングで起業したりもしたんですが、今だと「百年前新聞」の記事を自動投稿するアプリは自分で作りました。今でも役に立っているなって思います。
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