プロデューサーに制作費を持ち逃げされ、アニメを自腹で作った話 被害に遭った監督と原作者に聞いた(1/3 ページ)

裁判が終わったと聞いて、お話を聞いてきました。

» 2022年09月06日 19時32分 公開
[福田瑠千代ねとらぼ]

 とあるアニメスタジオが制作費を持ち逃げしたプロデューサーを訴えるらしい――というウワサを耳にしたのは2022年の年明けごろ。その裁判が終わったと知り、被害に遭ったスタジオの代表兼監督、そして作品の原作者にお話を聞きました。

 トラブルに見舞われたのは、人気同人作品を原作とするアニメ「嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい(以下、嫌パン)」。同作は2018年にニコニコ動画で全6話を配信。アニメ版は原作の持ち味を見事に生かしたアニメ化として、ファンから熱い支持を獲得し、2019年末には第2期もリリース。2022年9月現在は新作のクラウドファンディングを実施中です。

 順風満帆に見えた同シリーズですが、実は前作にあたる第2期でプロデューサーによる制作費の「持ち逃げ」が発生していました。

 本稿では、その被害にあったアニメスタジオUWAN Picturesの代表兼監督で制作費持ち逃げの被害者である深瀬沙哉さんと、「嫌パン」原作者の40原(しまはら)さんにインタビューを実施。「悪徳プロデューサー」との制作時の様子や、一部スタジオの「自腹」となった第2期制作時の悪夢、プロデューサーとの裁判……そして、波乱を乗り越え、新作のクラウドファンディング立ち上げに至った経緯を聞きました。

「納品されたとは認めない」完成後に届いた一通のメール

――まずは裁判お疲れ様でした。

深瀬 ありがとうございます。ですが、裁判では勝ちましたが、全く解決しておらず苦労は続いております……。

――改めて被害について教えてください。

深瀬 お金の面だけでいうと、プロデューサーのS(仮名)に、「嫌パン」の第2期制作時、制作費500万円以上を丸々持ち逃げされてしまったんです。それは分割で支払われていた最後のお金だったのですが、弊社はアニメーターさんや背景さんなどにすでにお金を払ってしまっていたので、正直言いますと下手すれば倒産しかねない状況でした。

――なんと……。それでも作品は無事完成したんですよね?

深瀬 はい。おかげさまで好評で配信・販売されて、視聴者からも好評でした。ところがSが納品後になってやっぱり「リテイクが直ってないから納品されたとは認めない」「制作費は振り込まない」と突然理不尽な要求を言ってきたんです。

――作品は既に配信されていたのに……?

深瀬 そうなんです。そのため、2期の終盤は自腹で作った形になりました……。

 1期と2期はとらのあなさんが出資していて、Sがプロデュース。弊社はSから制作を請け負う形だったのですが、Sが作品を納品してから「制作費を支払わない」と言い出したんです。慌ててとらのあなさんに「納品されてないって言われたんですけど……」と問い合わせてみると「今まさに完成したBlu-rayを箱につめてますけど?」と(苦笑)。

――出資者のとらのあなからしても寝耳に水であったと。

40原 原作の私からしても「まさか」でしたね。

深瀬 リテイクも直しきっていて、Sからの受領の証拠となるメールもありました。不払いについてはとらのあなさんにも相談したのですが、とらのあなからしたら契約上支払うべき金額は全てSに振り込み済みだと。となると、あとはもう弊社とSの問題になるので、弁護士や裁判を通じて戦うしかありませんでした。

スタッフを“分断”しようとするプロデューサー

――順を追って聞いていきたいのですが、まずS氏とはどのように知り合ったのでしょうか。

深瀬 Sが最初に接触したのは40原先生でしたよね?

40原 そうでしたね。最初、Sから個人宛てに「嫌パン」をアニメ化したいというメールが届いたんです。ところが添えられた企画書がペラ1枚で、一般的なアニメの企画書とは呼べないような代物でした。それで少し不審に思って、そのときは返信もしませんでした。しかし後になって、とらのあなさん経由でちゃんとしたお話をいただいて、本格的に企画が動き出したという経緯です。

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