実写アドベンチャーゲームの新たな傑作、スクエニ「春ゆきてレトロチカ」が良すぎたのでこの余韻を全力でおすそ分けしたい(1/2 ページ)
後半では本作のキーパーソン2人へのインタビューも行いました。
「春ゆきてレトロチカ」(公式サイト)が本当に良すぎた……!
スクウェア・エニックスから実写アドベンチャーゲームが出ると知ったときは驚きました。すごく昔に実写アドベンチャーの「アナザー・マインド」(1998年発売の超名作)とかありましたけど、今になってまさかこのジャンルを出してくるとは……! ドラクエとかファイナルファンタジーとか、ヴァルキリープロファイルとか、スターオーシャンとか出している会社ですよ。
実写アドベンチャーゲームというと、ゲームの中ではメジャーなジャンルではないものの、過去には「街 〜運命の交差点〜」や「428 〜封鎖された渋谷で〜」といった大傑作が発売され、こうした作品はいまだ色あせない存在感を放っています(筆者もこれらの作品が大好きです)。しかし、スクウェア・エニックスが今発売する実写アドベンチャーは、こうした傑作に並び立つものになるのだろうか……という心配もありました。作るのが大変というお話もインタビューなどでよく見ますし。
しかし、プレイする前から、そこはかとなくスクエニの「春ゆきてレトロチカ」への“やる気”を感じていたのも事実。プレイステーション、ニンテンドーSwitch、PC(Steam)という幅広いプラットフォーム展開に加え、海外に向けに英語ボイス、多言語字幕対応したものも発売されるというのですから。
チャレンジ精神のある作品は大好きなので、発売日に買ってプレイしてみたところ……これが完全に“良すぎ“ました。序盤で疑ってすみませんでしたという気持ちになり、クリアしたときには周りの人に本作を薦めまくるセールスマンのごとく。20本くらいは売り上げに貢献したような気がします。いやあ、本当にすごいですよ「春ゆきてレトロチカ」。
そんなわけで、9月28日まで開催されている本作のセールに合わせて、その魅力を紹介する記事をねとらぼさんでやりたい! ……というのは本記事の一つの目的なのですが、実はこの記事を提案したのにはもう一つ理由があるのです。「ねとらぼさんで『春ゆきてレトロチカ』の記事をやります」ということを大義名分にすれば、このゲームの制作陣のお話を聞けるのではと考えたんですね。スクウェア・エニックスにおいて異様ともいえるこの作品を企画・立案したキーパーソンたちは、本作をどう立ち上げ、作り上げたのか。そんなことが気になって仕方がなかったんです。ユーザーの意見をもとにしたアップデートなどを見ていると、とてつもない情熱を感じます。
結果、本作のプロデューサー&ディレクターにご快諾いただけたので、本記事の後半は、ネタバレ成分少なめのインタビューとなっております。ありがとうねとらぼさん。ありがとうスクウェア・エニックスさん。
本記事、文字数はなかなかありますが、お時間のある方はゆったりと読んでみてくれるとうれしいです。今回の記事は本作をまだ知らない皆さまにその魅力をお届けするものなので、紹介も、インタビューも、ネタバレ成分薄めで駆け抜けたいと思います。いつか……ネタバレありで記事とかやりたいですよね!
100年の謎を追うミステリ、その奥深い物語を味わう
本作のジャンルはミステリアドベンチャー。ミステリ小説家の河々見はるか(桜庭ななみ)、知人の科学者である四十間永司(平岡裕太)から、桜の下で見つかったという古い白骨死体と、四十間家に存在するという“不老の果実”の捜索を依頼される。科学の発達した時代に不老の果実というものが存在するかは疑わしいが、永司の先祖である四十間佳乃が書いた小説には、この果実を巡る事件が記されているという――。はるかは小説を読み進め、過去の謎に触れ、同時に現代の四十間家で起きた奇妙な事件を解決するため知恵を絞ります。
現在の人物であるはるかが、過去の事件を捜査するというのが本作の醍醐味(だいごみ)の一つです。現在も過去も、美麗な実写映像で表現されるのですが、過去の世界ははるかがイメージしたものになっているため、そこに登場する人物は、現在の人物を置き換えたものになっています。この設定は、映像表現としても生かされていて、100年にわたる時代を越えた物語を、一人の役者が複数の役柄を演じるという方法で成立させています。これは、本作の大きな特徴の一つである“マルチロール”システムというもので、プレイヤーをとても不思議な感覚へと誘います。例えば、ある事件で被害者だった人物が、ある事件では犯人となるという可能性も十分にあるわけですね。
物語を描く実写映像は、映画の撮影を手掛けたスタッフなどが関わっているのでもはや映画です。現代を鮮やかに描写し、過去の世界は情趣たっぷりに描きあげるセンスに脱帽。これは映画館で見たい……と思うようなシーンが、何度も何度も登場します。本作の映像部分だけのボリュームは8時間半くらい。映像作品としてみるととてもリッチなボリュームです。そして、本作は映像だけではなく、ゲームとして、プレイヤーが考え、選ぶパートも用意されているんです。総プレイ時間は15〜20時間くらいでしょうか。このボリューム面の話については後でもう少し書きます。
本作は、眺めるだけの作品ではない 推理パートで探偵気分を味わう
本作は章立ての物語になっていて、章ごとに新たな事件や謎を解決していきます。それらの事件は全て“不老の果実”につながる事件で、各章の事件の真相を追求しつつ、同時に全編を通して流れる大きな謎に近づいていくという構成です。そして各章は、事件の模様を描く問題編、謎と手掛かりを組み合わせて仮説を立てる推理編、そして仮説を犯人へと突きつける解決編という順序で進んでいきます。
問題編は全編実写映像となっていて、ここにはさまざまな謎が含まれています。1つの事件につき30分くらいのボリュームで、プレイヤーは流れる映像を鑑賞し、事件の概要を知っていくのです。得た手掛かりなどは自動取得され、後の推理パートに生かされるという仕組みです。
推理編は“推理ゲーム”の側面が強く、プレイヤー自身が謎と手掛かりを組み合わせるというもの。ここの仕組みが実に独特で、主人公の思考空間が盤面のように表示され、その盤面上で謎と手掛かりを組み合わせて仮説を立てていくというものになっています。問題編とはガラリと雰囲気が変わり、ゲーム的なUIで作りこまれたこのパートは、まさしく本作のゲームらしさを見せてくれるユニークなものとなっています。
謎と手掛かりの組み合わせを間違えると先には進めませんが、この組み合わせは何度でも試行可能。じっくりと考えるもよし、どうしても分からなければ総当たり的にすすめることでもクリア可能です。ヒント機能的なものもあり、身構えず遊べるのでご安心を。このパートの遊び心地は、決してテンポの良いものではなく、仮説をうまく作れないとなかなか先に進めませんが、このパートこそが「推理」することを体験させてくれる部分。筆者もいまでは、このパートあっての「春ゆきてレトロチカ」だと考えています。
解決編では、組み立てた仮説をもとに犯人を追い詰めていきます。ここでは、間違った選択肢を選ぶとゲームオーバーになってしまいますが、すぐにリトライ可能という親切設計。しかも間違った選択肢を選んだ場合にのみ見られるシーンもあるので、正解以外でも楽しめてしまう。そう、このゲーム、細かいところの作り込みが効いていて、TIPSなども実に読みごたえがあります。事件現場の平面図などの情報も見られたりするんです。うーん、細かい!
春ゆきてレトロチカ この余韻を皆さまもぜひ
ミステリアドベンチャーというジャンルの性質上、本作の“事件”や“謎”は万人受けするものではないかもしれません。筆者はこの部分も頭を悩ませつつ楽しめましたが、洞察力や推理力、直観力が極めて高い人であれば、やさしく感じるかもしれません。しかし、本作は事件や謎だけの物語ではなく、その中で描かれる人情や風情も実に見ごたえがあるんです。そして何より、このクオリティーで届けられる実写映像とゲームが融合した遊びというのはなかなかないと思うのです。
プレイ時間が15〜20時間と先ほど書きましたが、これを見て、ボリュームが少ないと感じる方がいるかもしれません。私も未プレイならそう思います。でも実際にプレイすると、さまざまな要素が凝縮され、冗長なところなど一切ない物語が展開されます。テキストアドベンチャーならかなりの文字数を使うところを、実写映像という表現で短く、しかも印象的なカットで収めている。間延びせず、プレイヤーを引きこんで離さないドラマが、このゲームにはあるのです。そして、鑑賞後には、いろいろな感情が刺激される……。ネタバレありならもっといろいろ書きたいところですが、とにかくすごいゲームであり、エンターテインメントです。
そうそう、本作、実は発売後にアップデートも行われており、推理パートの手触りが大幅に向上、他にもゲームプレイを快適なものにする変更点がいくつもあります。これらはプレイヤーの声を受けてのアップデートだそうです。なので、これから「レトロチカ」をプレイするという方は、より遊びやすくなった状態のものを楽しめます。
あらゆる面で、従来のアドベンチャーゲームの常識を覆す作りとなっている「春ゆきてレトロチカ」。この不思議なゲームは一体どのようにして企画され、完成したのでしょうか。ここからは本作が生まれるきっかけとなった2人のキーパーソンとして、プロデューサーである江原純一氏と、ディレクターを務めた伊東幸一郎氏にお話を伺いました。
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