アニメ界の“最終防波堤” 「作画崩壊」でトレンド入りした演出家に直撃インタビュー 「作画監督が10人とかいるアニメは無駄の極み」(1/5 ページ)
“落ちそう”なアニメの裏側。
――とんでもない奴がいる。というのが第一印象だった。
ことアニメ業界というのは金銭関係の問題が尽きない場所だ。脱税や詐欺、バックマージン、はては計画倒産による未払い……さらにはアニメーター等のスタッフに対する低賃金がそうだ。そこへ来てアニメ演出家・佐々木純人氏の次のようなツイートが目に飛び込んできた。
「次はどこの予算抜いたろーかな」「これで儲け100万くらいw」
担当作品が「作画崩壊」だと叩かれ炎上してもどこ吹く風。過去の言動をたどると「4000万円近い年収」をほのめかす投稿も見つかった。
こうした傍若無人な態度に憤りを覚えつつも、絶えずハイペースで新作を作り続け、待遇改善の必要が叫ばれるアニメ業界の中にあって羽振りの良さを隠そうとしない姿勢に興味をひかれた。この演出家は何者なのか? 早速コンタクトを取ってみると、あっさりインタビューの了承が得られた。
都内某所。閑静な住宅街に彼はいた。外見はただの髭の生えた、小太りの中年だ。氏が代表を務める「スタジオレオ」の応接室に通され、単刀直入に例のアニメの話から聞いてみることにした。
アニメーターじゃないのに、原画を描いている
――先日は「作画崩壊」だと随分叩かれていましたね。
佐々木 今日はその辺についてもお話しできればと思っています。
――その作品では原画も担当されたそうですが、佐々木さんは演出家であり、アニメーターでもあるのでしょうか?
佐々木 アニメーターではないです。
――え?
佐々木 演出は本来、原画は描きません※。作画畑出身なら話は別ですが。
【※演出】演出はアニメーターから上がった絵を演出的な観点でチェックし、芝居や画面のバランス、他セクションへの指示出しなどに問題があれば修正指示をする。通常は直接原画は描かず、デッサン的な絵の修正などは作画監督が行う。
――それなのになぜ原画を?
佐々木 まず前提として、ちゃんと描けるアニメーターと、それに見合う昨今の相場程度の予算。これらがそろっている必要があるんです。
――そろっていなかったと。
佐々木 今の相場は1カットの原画が5000円以上。このくらいでやっと、何も使えない上がりを出してくる海外のなんちゃってアニメーターに渋々発注出来ます。国内はさらに高く、しかも他社の作品スケジュールの細い隙間に作業を頼めるかどうかです。
――頼めたとしてもガチャ感があるわけですね。
佐々木 5000円でもガチャなのに、例のアニメは単価が4000円でした。発注がそもそもできない。おまけに、うちに相談が来た時点で放送まで4週切ってる状態でした。あなたならどうしますか?
――なるほど、見えてきました……。
佐々木 そのため、あのときはコンテを描いて、原画※、演出、制作(進行)まで自分でやりました。背景もウチと取引のある会社と直接やりとりしているので、1人でほぼ全部把握できる状態です。
【※原画】ここでいう原画とは「第1原画」のことを指す。第1原画にはカットの設計図となるレイアウトと、ラフ原画(原画を清書するためのたたき台的な素材)、タイムシートなどが含まれる。
――制作進行までやっている演出さんはちょっと聞いたことないですね。
佐々木 あの予算であれば、「自分」と「社内」でほぼ完結するこの作り方が一番現実的かつ、無駄がなかった。
――予算の問題を受けて、最大限コンパクトな制作体制を取ったと。
佐々木 そうです。もっと究極的なアニメ作りの思想を言うと、俺は常々「アニメ制作は3〜4人いたら成立する」とも思っています。
――確かに、昔のアニメを見ると原画人数は今より少ないですが……。
佐々木 極端ですけど、「北斗の拳」なんて原画が1人とか2人の回がありました。いろいろな作業者にばらまく方が、腕の足りない人のところで止まる可能性は高くなる。その人の手元で止まると、今度は制作進行がアニメーターを追っかける必要が出てきて、そうしたタイムロスが積み重なってスケジュールがずるずると伸びていってしまう。それだったら最初から少数精鋭で作った方が、はるかに効率が良いんです。
――でも、そんな無茶な作り方、本当にできるんですか?
飲み物を取りに来たアニメーターが乱入
アニメーターA (冷蔵庫を閉める音)今日は何をやってるんですか?
佐々木 インタビュー中で、スタジオレオの作り方は変わってるという話。
アニメーターA ああ、確かにうちは他社と比べると特殊に見えるかもしれませんね。
佐々木 彼はそんな特殊な作り方を支えてくれているスーパーアニメーターです。1カ月にレイアウトを300カット描いて、月収200万円とか普通に稼いでしまう。
アニメーターA いや、もう300カットはやりたくないです(笑)。今月抱えているのは200カットです。
――200カットでも十分多いのでは……?
佐々木 テレビアニメは1話がだいたい300カット前後ですね。
アニメーターA 業界でもかなり手が早いほうだとは思います。基本的には拘束料※プラス単価の形でお仕事させていただいてます。
【※拘束】スタジオ側が自社の仕事を優先してもらうため、アニメーターにまとまった金額を支払うこと。
佐々木 なので、俺とA君の2人がいれば、アニメ作りの前半に当たる「原画」「演出」部分が終わってしまうんです。
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