「ヅカロー」はハイローらしさと宝塚のプライドが交錯する良作である 宝塚初観劇のハイローファンが異文明をぶつけられ良さが“理解”ってしまった話(1/3 ページ)

ドラマ版ファンを熱くさせる前日譚。

» 2022年11月19日 13時30分 公開
[しげるねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 現在、東京宝塚劇場で上演中の舞台「HiGH&LOW THE PREQUEL」「Capricciosa!! 〜心のままに〜」。ハイローと宝塚の奇跡のコラボレーションが上演前から話題になり、11月20日13時30分からはライブ中継も行われるこの舞台の魅力と衝撃を、ハイローファンで宝塚初観劇のライターがつづります。

HiGH&LOW THE PREQUEL ポスター 「HiGH&LOW THE PREQUEL」とは何だったのか?(公式サイトより引用)

「“宝塚のハイロー”って大丈夫?」そんなふうに考えていた時期がおれにもありました

 先日、宝塚大劇場にて「HiGH&LOW THE PREQUEL」、そして同時に「Capricciosa!! 〜心のままに〜」を見てしまった。鑑賞から時間が経過した今でも、あれは一体なんだったんだろう……とぼんやり考えてしまう日々を送っている。

 「HiGH&LOW」は、EXILEなどの事務所であるLDHが、2015年から作り続けている総合エンターテイメントプロジェクトである。5つの勢力に分かれた不良たちの抗争&巨悪との戦いを、大量の予算とキレのあるアイデア、いい男を長年撮り続けることで培われた技術、演者の身体能力とド根性によって描いた作品だ。なんだかんだでもう7年ほど作っているので作品数も多く、全貌を把握しようとするとマーベルのスーパーヒーロー映画並みの労力を必要とするが、その価値はある作品だとおれは思っている。

HiGH&LOW ドラマ版ビジュアル 2015年から現在も続くエンターテイメントプロジェクト「HiGH&LOW」(公式サイトより引用)

 通称・ヅカローこと「HiGH&LOW THE PREQUEL」は、このハイローシリーズの前日譚を描いた作品である。ハイローは基本的に作品が作られた順番で作中の時間が進むので、時系列的に一番古いのは2015〜2016年にかけて放映されたドラマ版「HiGH&LOW 〜THE STORY OF S.W.O.R.D.〜」。なので「THE PREQUEL」は、このドラマ版よりもさらに少し前の話ということになる。「スター・ウォーズ」でいえばさしずめ「ローグ・ワン」である。

 とは言っても、舞台にするのがあの宝塚だ。おれには宝塚に関する知識はほとんどないが、さすがに「演者が全員女性のミュージカルである」という程度のことは知っている。あんなに男ばっかり出てくるハイローを、全員女性でやるの? しかも作中で歌うの? ジェシーとか、豹豹言ってる変な人になっちゃわない? あ、時系列的にジェシーは出てこないからいいのか……。そんな謎の舞台のチケットを、色々あって1枚融通してもらえることになってしまった。人生初の宝塚歌劇、それも宝塚大劇場での観劇である。どうなっちゃうんだろう……。

 ということで、微妙に不安と緊張も抱えつつ到着した宝塚駅。全く知らなかったが、宝塚駅から大劇場までは「花のみち」という遊歩道で直通になっており、花のみちの左右に建つ建物はなんとなく雰囲気のあるレンガっぽいタイル&南仏風の瓦屋根で固められている。建物に入っているテナントもイタリアンのレストランなどだ。つまり、大劇場はたどり着く前のアプローチからすでに観客の気分を盛り上げにきており、ここを歩けば浮世のばっちいものを視界に入れずに劇場までたどり着ける仕組みなのだ。そして大劇場のすぐ向かいに聳え立つ、小林一三先生の像! そっか〜、そりゃ阪急の巨大施設なんだから銅像くらい立ってるよな……。

花のみち 宝塚大劇場までまっすぐに続く「花のみち」
宝塚大劇場 テーマパークのような門がまえの宝塚大劇場の入り口

 劇場内もバチバチにエレガント。単に入り口でチケットをもぎって中に入って、それ以外にはちょっと売店とかがある程度なのかなと思っていたのだけど、正面ゲートの中に入るとまず「くすのき広場」というそれなりに広いスペースがある。レストランや喫茶店も7つくらい入ってるし、「宝塚歌劇の殿堂」という博物館っぽい施設もある。そして全体的に調度が上品&エレガント。おれのようなガサツなおっさんにも理解できる「あ、ここは上品にしとらんとあかんとこなんやね」というタイプの上品さだ。ちなみに、劇場内の売店ではEXILEのTETSUYAさんがプロデュースするAMAZING COFFEEのコーヒーバッグも売っていた。気が利いている……!

 チケットをもぎってもらって劇場内へ。舞台だから当たり前と言えば当たり前だけど、なんか思っていたより狭い。デカいIMAXの映画館みたいなのを想像してたんだけど、よく考えたら舞台に出てくるのは生身の人間である。あんまり巨大な劇場にしても後ろから見れば米粒以下になっちゃうわけで、そりゃそうだよね……と思いつつ着席。チケットはS席なのでかなり前方なのだが、舞台前にはオーケストラピットがあるのでいまいち距離感がわからない。どうなっちゃうんだこれ……というおれの緊張を尻目に、いよいよヅカローが始まったのである。

ド頭から感涙……なぜなら5人のリーダーはもう全員そろわないので……

 開始直後、舞台に出てきたのは真風涼帆さん演じるコブラ。「あれ!? コブラにしては身長があるな!?」と思ったが早いが、「俺たちはただ……この街を守りたかっただけだ!」のセリフが! そして拳によって割れる鏡! オアー! ドラマ版のやつ! それに続き、寿つかささんによるナレーション。やっぱハイローといえば冒頭のナレーションだよな……。ちゃんとナレーション内に「かえってその一帯は統率がとれていた」も挟まってるあたり、これはマジで初期ハイローをやろうとしているなと確信。鏡破壊といい冒頭ナレーションの内容といい、7年間の間に散々擦りまくられた要素をちゃんと一歩一歩踏んでくるあたりから、そこはかとない本気感が漂っている。

 続いて、それぞれチームのモットーを歌いながらデカい階段を降りてくる各チームの皆さん。あ、そうか、これミュージカルだから全員歌ってコミュニケーションを取るのか。ハイローは各チームが活躍しているとそのシーンのBGMとしてイメソンが流れる仕組みだが、演者が直接歌うことはなかったのでかなり新鮮に感じた。演奏もオーケストラによる生音なので、全体的に上品である。

 衣装が各チームおよび各キャラクターをうまく捉えているので、演者が知らないタカラジェンヌであっても「なるほど今回のROCKYはああいうアレンジなのか」という感じで受け止められる。宝塚を知らなくても、ハイローを知っていれば「誰が誰だかわかんねえな」ということにはならないのだ。これはハイローのキャラの異常な立ち方、そしてそれを崩さずに歌劇に持ち込んだ宝塚側のノウハウあってのことだろう。

 ということで、初期ハイローの5チームのリーダーたちとその仲間が舞台上にそろったところでもう感涙である。なんせ彼らリーダーのうち何人かは「劇中で死んだ」「劇中で学校を卒業した」「中の人が芸能界を引退した」といった諸事情により、今後は全員そろった絵面をまず見られないのだ。それが、舞台の上に全員集合して並んでいる……! この絵面を見られただけでも、ここにきた価値があったと思う。ありがとう阪急電鉄。今後、阪神間の移動は全部阪急に乗ります。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた