司会選びではウィル・スミス事件にも触れ 目前に迫ったオスカー授賞式までの動きを現地在住ライターがレポート、前哨戦全賞の「エブリシング」はどうなる【第95回アカデミー賞】

ノミネーション発表から授賞式までの現地の様子もレポート。

» 2023年03月08日 12時00分 公開
[Yuki Machidaねとらぼ]

 第95回アカデミー賞授賞式が米現地時間3月12日と迫るなか、主要な前哨アワードの結果が出そろい、受賞予測も固まってきました。最多11部門にノミネートされた「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」は、プロデューサー・監督・俳優・脚本家という“映画界の同僚たち”が選ぶ4大組合賞も制覇。その作品名にかけてハリウッドでは、「『エブリシング』(同作)がエブリウェア(あちこちのアワードや部門)でオール・アット・ワンス(一気)に受賞」というフレーズが躍っています。そんな授賞式直前の現地のムードを、ノミネーション発表からの流れを振り返りながらお届けします。

オスカー95キーアート画像 ジミー・キンメルが3度目の司会を務める第95回アカデミー賞授賞式のメインポスター (C)A.M.P.A.S.

ミニ特集連載 「第95回アカデミー賞

トム・フィーバーのノミニーズ・ランチョン

 1月24日のノミネーション発表から授賞式までの約1カ月半、アカデミー賞のお膝元のハリウッドでは、さまざまなイベントやキャンペーン、アワードが行われてきました。2月13日には、全部門のノミニー(候補者)たちが大集合する祝宴、ノミニーズ・ランチョンがビバリーヒルズのヒルトン・ホテルで開催され、過去最高となる182人が出席。俳優から技術者まで、さまざまな部門のフィルムメイカーたちが混じり合う集合写真は、映画が総合芸術であることを思い出させてくれます。

今年のノミニー勢ぞろい! 記念撮影の一部始終を映像で

 注目の的は、「トップガン:マーヴェリック」をカメラの表裏でけん引したトム・クルーズ。現場では、作品賞候補として初のオスカー受賞が期待されるクルーズとの写真撮影が絶えず、自身も最高に楽しんでいた様子。

ノミニーズランチョントム画像 ノミニーズ・ランチョンならではの豪華共演。左から、ミシェル・ウィリアムズ、ホン・チャウ、トム・クルーズ、スティーブン・スピルバーグ Mark Von Holden / (C)A.M.P.A.S.

 スティーブン・スピルバーグ監督(「フェイブルマンズ」)と、子役時代に同監督の「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」に出演したキー・ホイ・クァン(「エブリシング〜」)の“師弟再会”写真にも心が温まります。

ノミニーズランチョン画像 ノミニーズ・ランチョンでセルフィーを撮るスティーブン・スピルバーグとキー・ホワイ・クァン。左は女優のティア・カレル Mark Von Holden / (C)A.M.P.A.S.

司会者主演の予告編に豪華サプライズ

 授賞式の司会者が主演するオスカー予告映像も、毎年恒例のお楽しみ。2月14日には、米コメディアンのジミー・キンメルが、「トップガン〜」のキャラクターに扮(ふん)した俳優ジョン・ハムチャールズ・パーネルから、司会任務を受ける設定のパロディー映像がお披露目されました。

 「今年はとにかく、うろたえたり……ひっぱたかれたりしないタイプの司会者を探している」と前年度授賞式でのウィル・スミスによる平手打ち事件をほのめかすパーネルに、「それはよかった。私をひっぱたいたら大変ですよ。泣きじゃくるから」と真顔のキンメル。

オスカー司会ジミー・キンメルによる授賞式予告編=「トップガン〜」パロディー編

 一方のハムは、「君はわれわれの最初の司会者チョイスではなかった。2番目でも3番目でも……11番目でもない」と、あらゆる候補者に断られた結果の妥協策だったと、主要アワード司会を誰もやりたがらない昨今の状況を皮肉りながら、キンメルを落とすことも忘れません。もちろん、これはジョーク。キンメルは、オスカー公式放送局である米ABCの深夜番組の司会者として米国では有名で、オスカー司会も過去2回担当しています。

 そのうち1回は、「ムーンライト」が受賞したのに、「ラ・ラ・ランド」と発表されてしまった作品賞発表ミス事件が起きた2017年の授賞式で、キンメルは混乱する壇上や客席をあたたかく取りなした救世主。毒舌イジリよりも、優しい目線のギャグで笑いを取るタイプとして、好感度が高く、炎上リスクの少ない、今回のオスカーには最適の司会者といえるのです。

 予告編の最後には、過去にオスカー司会を9回務めたレジェンドともいうべき、ビリー・クリスタルもゲスト出演しており、当日のサプライズ登場もあるのか期待感が高まります。

試写会やキャンペーンが続々

 ノミネーション発表から、アカデミー会員の投票期限までは、映画会社によるキャンペーンや試写会が各地で繰り広げられます。映画業界の人々の動きが多い通り沿いには、ノミニーを推すビルボードが登場。「エブリシング〜」で主演女優賞受賞が有力視されるミシェル・ヨーのビルボードを、こちらも同作で助演女優賞候補のジェイミー・リー・カーティスがソーシャルメディアで大プッシュするなど、業界仲間同士の口コミも重要なのです。

リー・カーティスインスタ画像 ミシェル・ヨー推しのビルボードを紹介する“同志”のジェイミー・リー・カーティス(画像はジェイミー・リー・カーティス公式Instagramから)

 授賞式直前の1週間は、2021年に開館したアカデミー・ミュージアムで、長編・短編アニメーション部門、長編・短編ドキュメンタリー部門、国際映画部門のノミネート作品上映や質疑応答イベント、メイクアップ・ヘアスタイリング部門のノミニーのトークイベントなどが開催。一般の映画館や配信サービスで視聴できないノミネート作品も堪能できる貴重な機会となります。

 一方、オスカーノミネートこそ逃したものの、賞レースを通じて称賛を集めた映画「Till(原題、国内公開未定)」が2月16日にワシントンD.C.のホワイトハウスで上映されました。同作は、1955年に人種差別によるリンチを受けて殺害されたアフリカ系アメリカ人少年とその母の実話を基にした作品。米国では2月がブラック歴史月間であることもあり、ジョー・バイデン大統領が「自分の就任以来、最も名誉ある任務」として同作の上映を案内。人々の映画への関心がひと際高まるこの時期に、こうした動きがみられるのも米国ならではかもしれません。

ホワイトハウスで上映されたドラマ映画「Till」予告編

賞レース後半の重みとは?

 2022年秋から数カ月に及んだ賞レースですが、実は前半と後半ではその位置付けが異なります。前半は主に批評家やファンが選ぶアワードが中心で、後半は実際に映画を作るフィルムメイカーたちが選ぶアワードが続きます。後半のアワード投票者と、オスカー受賞者を選ぶアカデミー会員の多くが重複していることから、後半の結果がオスカーの強力な指標とされているのです。

 中でも、注目を集めるのが、プロデューサー組合賞(PGA)、監督組合賞(DGA)、俳優組合賞(SAG)、脚本家組合賞(WGA)という4つの組合賞。これらの結果が割れると、アワードウォッチャーの分析や受賞予測も分かれるのですが、本年度はなんと、「エブリシング〜」が全制覇。同作がこの勢いでオスカー作品賞に輝く可能性は高く、監督賞、脚本賞も有力視されています。とはいえ、アカデミー会員の世代によって「エブリシング〜」への評価が異なるという声もあり、発表の瞬間まで何が起こるかはわかりません。

動画が取得できませんでした
賞レースを通じて映画仲間たちの愛を集め続ける「エブリシング〜」のミシェル・ヨーは、米俳優組合賞の主演女優賞も受賞

 俳優部門は、キー・ホイ・クァン(「エブリシング〜」)が独走状態の助演男優賞以外は、2トップがせめぎ合う状態。主演男優賞はオースティン・バトラー(「エルヴィス」)とブレンダン・フレイザー(「ザ・ホエール」/4月7日公開))、主演女優賞はミシェル・ヨー(「エブリシング〜」)とケイト・ブランシェット(「TAR ター」/5月12日公開)、助演女優賞はアンジェラ・バセット(「ブラックパンサー/ワガンダ・フォーエバー」)とジェイミー・リー・カーティス(「エブリシング〜」)の誰に輝いてもおかしくはありません。

動画が取得できませんでした
長年のブランクを経てカムバックを果たしたブレンダン・フレイザー(「ザ・ホエール」)が米俳優組合賞の主演男優賞を受賞

 こうした受賞予測に盛り上がりながらも、賞レースの一番の魅力は、ノミニーやプレゼンターたちが互いを祝しあい、1年を通じてスポットライトを浴びることがなかった仲間たちにも激励と称賛を贈る姿。特に、2月26日の米俳優組合賞アワード授賞式では、カーティスからヨー、クァン、フレイザー、そして、御年94歳になるジェームズ・ホン(「エブリシング〜」)まで、登壇した俳優たち全員が自分たちの経験を振り返り、挫折や行き詰まりを感じながらも演技を続ける世界中の俳優たちに、諦めずに一歩ずつ前に足を踏み出そうと語る姿が印象的でした。

動画が取得できませんでした
米俳優組合賞の最高賞を受賞した「エブリシング〜」の最年長キャスト、ジェームズ・ホンのスピーチは歴史に残るはず

 2023年のアカデミー賞授賞式は、格式高いセレブの舞台というよりも、企画の規模にかかわらず、「いつか」を夢見て作品に取り組み続ける映画人、そんな彼らと映画を愛する1人1人の心に響く式になる気がしてなりません。

 第95回アカデミー賞授賞式は、米現地時間3月12日に開催されます。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/22/news018.jpg 猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
  2. /nl/articles/2411/22/news184.jpg 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  3. /nl/articles/2411/24/news040.jpg 海で“謎の白い漂流物”を発見、すくいあげてみると…… 2億1000万再生された結末に「本当によかった」「ありがとう」【チュニジア】
  4. /nl/articles/2411/23/news031.jpg スーパーで売っていた半額のひん死カニを水槽に入れて半年後…… 愛情を感じる結末に「不覚にも泣いてしまいました」
  5. /nl/articles/2411/24/news029.jpg 難問の積分計算をホワイトボードに書き置きしておいたら……? 理系大学での出来事に「かっこいい」「数字でつながる感じいいな」の声 投稿者にその後を聞いた
  6. /nl/articles/2411/22/news087.jpg 「うおおおおお懐かしい!!」 ハードオフに3300円で売っていた“驚きの商品”が140万表示 「ガチのレアモンや……」
  7. /nl/articles/2411/24/news058.jpg 夫妻が41年ぶりに東京ディズニーランドへ→“同じ場所”での写真撮影時に「キャストの粋なサポート」明かす
  8. /nl/articles/2411/23/news025.jpg 「大企業の本気を見た」 明治のアイスにSNSで“改善点”指摘→8カ月後まさかの展開に “神対応”の理由を聞いた
  9. /nl/articles/2411/23/news029.jpg カマキリを操る寄生虫「ハリガネムシ」食べてみた 未知すぎる“衝撃的な内容”に震撼 「正気を疑う」「鳥肌立ったわ」
  10. /nl/articles/2411/24/news011.jpg ミスドのディグダを買おうとしたら…… とんでもなく疲れていそうな見た目に「悲壮感がすごい」「朝帰りのディグダ」と46万いいね
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた