入浴時に手術痕を隠す「専用入浴着」、ドーミーインと共立リゾートが無償提供 導入のきっかけ、摩擦を防ぐ取り組みを聞く(1/2 ページ)
乳がんや皮膚移植の手術痕をカバーし入浴を助ける入浴着、お客さんの声を受けて約1カ月で導入。
国内外に91カ所展開するビジネスホテル「ドーミーイン」と、全国41カ所に展開するリゾートホテル「共立リゾート」で、女性大浴場を利用する人に、体の手術痕などをカバーする「専用入浴着」を3月1日から提供しています。どのような背景で導入されたのか、利用するお客さん、利用しないお客さん、それぞれに寄り添った取り組みについて話を聞きました。
「専用入浴着」は乳がんや皮膚移植の手術痕をカバーできるよう、衛生面を考慮して作られた入浴専用の肌着です。ドーミーインと共立リゾートを運営する「共立メンテナンス」は、専用入浴着を両ホテル全棟131施設に導入し、希望するお客さんにフロントで無料で提供しています。
共立メンテナンスの専用入浴着は使い捨てで、着脱しやすい伸縮性のある素材を使用し、ボディーラインが目立ちにくいワンピースタイプです(デザインは変更の可能性あり)。背中側はVカット、両サイドにも切り込みが入っていて体を洗いやすく、お湯の中でも生地が浮かびにくいなど、心地よく入浴できる特徴もあります。
提供のきっかけはお客さんの要望。「手術のため身体に傷痕が残ってしまいました。人目を気にせず大浴場に入りたいので、『専用入浴着ご利用OK』の案内をしていただけませんか?」という声を受けて、専用入浴着の利用を歓迎するポスターを掲出するとともに、専用入浴着の全館一斉導入を決定しました。基本的にはお客さんが自身の「専用入浴着」を用意することになっており、無償提供は専用入浴着の存在を知ってもらうための啓発を兼ねています。
利用したお客さんからは、「手術の傷があるが安心して入浴できた。ぜひまた利用したい」「昨年手術をした、母も姉も私も久しぶりにのびのびと大浴場を楽しむことができた。専用入浴着自体を知るきっかけともなった」など、安心や喜びの声が複数届いているとのこと。
まずは全棟で一律で2着ずつ(計262着)導入し、利用者数に合わせて施設ごとに適宜追加配備しているとのこと(※数人規模での利用が続いた直後は、在庫がない可能性もあるそうです)。5月末には計400着もの追加がなされ、利用の広がりがうかがえます。さらに、6月上旬の時点では販売用の入浴着の提供を目指し準備中だとしています。
【お客さんからの声】
「手術の傷がありバスタオルで隠して良いかフロントにて伺ったところ、専用入浴着をご案内いただきました。周りの人が不快に思わないか心配しておりましたが、『POP 掲示しておりますのでご安心ください』のお言葉でとても安心して入浴ができました。近くの病院に通院しているため、ぜひまた利用させていただきます」
「母と姉が昨年手術をしており、温泉に行っても遠慮して着衣で入れる浴場のみの利用となったことが何度もございました。今回専用入浴着をご案内いただき、母も姉も私も久しぶりにのびのびと大浴場を楽しむことができました。また本取り組みを通じて、専用入浴着自体を知るきっかけとなりました」
一方、2022年12月に厚生労働省が全国の事業者に向けて実施した調査によると、17%が入浴着を着用した入浴を認めていませんでした。理由として「お客様同士のトラブル」が最も多く挙げられており、入浴着の存在については浸透しているとは言えない状況のようです。共立メンテナンスに導入までの経緯や社内の反応、今後の展望について尋ねました。
スピード感重視で導入、ポスターとPOPの説明で摩擦を防ぐ
お客さんから「『専用入浴着ご利用OK』の案内をしていいただけませんか?」との声があったのは2023年1月末。なんと導入した3月1日の約1カ月前のことでした。
「すべてのお客様に大浴場を楽しんでいただきたい」という思いにより、とにかくスピード感重視で導入する専用入浴着の選定、提供オペレーション考案、ポスター制作、全棟への配備などの導入準備を進めました」(共立メンテナンス)
無償提供を始めた3月1日、専用入浴着を歓迎するポスターも掲出しました。
「専用入浴着」の選定にあたっては、実際に専用入浴着を利用する人の感覚を大切にしたそうです。
「どのようなタイプが良いか検討している中、実際に専用入浴着を利用している方のお声を調べていたところ『上だけや下だけ隠すと、羞恥心が拭えない』という意見をいくつか見かけることがございました。ワンピースタイプであれば、どのような方に対しても幅広くご利用いただけると思い導入を決定いたしました」(共立メンテナンス)
着脱のしやすさや体の洗いやすさなど、着心地の良さが追求されている専用入浴着ですが、存在を知らない人にとっては服を着たまま入浴しているように見え、それがクレームやトラブルにつながる可能性もないとは言えません。「共立メンテナンス」は専用入浴着を利用しない人にも、以下のような配慮をしたといいます。
「専用入浴着を着たい人にはもちろん、着ない人・知らない人にも気持ちよく大浴場を利用いただくために、『専用入浴着とは何か』をわかりやすく説明したPOP制作をいたしました。また海外のお客様もいらっしゃるため、4カ国語(日本語、英語、中国語、韓国語)表記としております」(共立メンテナンス)
POPは女性大浴場の脱衣所内、誰もが目に留まりやすい場所に掲示。そのかいあってか、現時点ではクレームや問い合わせはなし。また、以後、問い合わせがあった際は、「専用入浴着」についての正しい情報を伝えるため、以下のような声掛けをマニュアル化しています。
「専用入浴着は、乳がんや皮膚移植の手術等による手術痕をカバーし、気兼ねなく入浴を楽しめるよう、衛生面を考慮して開発・製造された入浴専用の肌着です。浴槽に入る前に、付着した石鹸成分等をよく洗い流し、清潔な状態でご利用されれば衛生上問題ございません」
利用したお客さんから好評だった専用入浴着ですが、現場のスタッフからも、「自分の家族が手術後、大浴場に入浴ができなかったからこのような取り組みがうれしい」「当社ホテルグループにピッタリな取り組み」など、肯定的な意見が寄せられているとのことです。
【ホテル現場の声】
「本部の担当にお礼言いたいと思っていました。私の家族でも手術経験者がおり大浴場入浴を控えた経験があったため、ホテルグループ全体でこのような取り組みがあったこととても嬉しく思います」
「ちょうどホテル連盟から理解促進のメールが届いて、本社に相談しようかと思っていたタイミングでの導入で大賛成です! 私事ですが前妻を癌で亡くしており、最後の旅行をした時、体力的な事情ではございますが前妻は大浴場に入ることができませんでした。そんな経験から、現在ホテルの支配人として従事している中で、『たとえ傷跡があっても入浴着を着ることで温泉を楽しめるのであれば、ぜひそのひと時を楽しんでいただきたい』という思いが強くあります。
『大浴場を楽しみたいのに叶わない』そのようなことが無い様に、ご本人のためにもご家族のためにも、一人でも多くの方の癒しと笑顔につながる、ほんの少しのお手伝い。ヒューマンメンテナンスを謳う、当社ホテルグループにピッタリな取り組みだと思いますので、全面的に協力したいと思っています!」
開始から約3カ月後に400着も追加した専用入浴着。取り組みは順調に進んでいるようですが、現在はどのような状況なのでしょうか。
「3月1日に262着導入後、3月から6月末までで450着の配備を行いました。『専用入浴着』の配備は全館で合計712着となっております」(共立メンテナンス)
専用入浴着の販売については、今後ドーミーイン、共立リゾート全棟のフロントや売店で販売するために、オリジナルパッケージを考案中。共立ホテルグループが運営する通販サイト「DOMINISTORE」での販売も検討しているとのことです。
このような取り組みから、専用入浴着で入浴することも、専用入浴着を着ている人と同じ浴場で入浴することも、当たり前のことだという認識が広がっていくと、より多くの人が入浴を楽しめるのではないでしょうか。
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