「ひろがるスカイ!プリキュア」がソラ・ハレワタールに託したヒーロー像 「説教+名ぜりふ=論破」ではなく「行動」で伝えることの重要性サラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)

» 2024年01月25日 18時00分 公開
[kasumiねとらぼ]
前のページへ 1|2       

最後までひろプリを見てくれた子どもたちへの信頼

 そして「悪役会議」を中盤までに描かなかったことにより、終盤、一気に「悪役」の事情が描かれ、物語が動き始める構成となりました。

 第44話で今作のボス、カイゼリン・アンダーグが出てきたと思いきや、そこからは怒濤(どとう)の展開。プリンセス・エルレイン、キュアノーブル、カイザー・アンダーグなど重要なキャラが一気に出てきて、「なぜカイゼリンはプリンセス・エルレインを憎むようになったのか」といった謎が、残り5話になってから急に突きつけられることとなったのです。

ひろがるスカイ!プリキュア 終盤になって怒涛の展開をみせた「ひろプリ」

 プリキュアの姿を描きたいから「悪役会議」を減らしたはずなのに、終盤はプリキュアの活躍よりも「悪役」とその周りのお話が数話にわたり展開される構成になったのは、序盤に「悪役会議」を無くしてしまった弊害の一つといえるのかもしれません。

 では、なぜこのような構成になったのか?

 これに対し、金月氏は「続き物のお話はお子さんがついてこられなくなるリスクがあるので避けている」としながら、「最後までひろプリに付き合ってくれたお子さまであれば、続き物のお話を描いても大丈夫であろう」との信頼により、終盤に怒涛の展開を集約したようなのです。

金月 続き物のお話はお子さんがついてこられなくなってしまうリスクがあるので、基本的に避けています。でも、ソラたちの冒険に1年間付き合ってくれたお子さんたちなら……と。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)

ひろがるスカイ!プリキュア 子どもたちを信頼し、終盤に「続きもの」のお話を展開した

 つまり、ひろプリでは序盤に「悪役会議」を描かずプリキュアの活躍を増やし、子どもたちに認知させ、そんな「終盤までひろプリを見てくれた子どもたち」であれば、続きもののストーリーで「悪役の事情」を高密度で語ってもついてこられるであろう、という判断があったのです。

また、お子さんへの配慮はもちろんしつつ、「子供向けだから」という悪い意味での手加減はこれまでしてこなかったつもりなので、そのラインを突き詰める形で、第44話以降は高密度な続き物になっています。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)

「説教+名ぜりふ=論破」はやめよう

 また金月氏は、ひろプリに「説教+名ぜりふ=論破、で問題解決するのをやめよう」、という方向性があったことも語っています。

金月 言動というものは「言」と「動」でできているわけですけれども……
「説教+名ゼリフ=論破、で問題解決するのをやめよう」「何を口にしたかではなく、どう行動したかを大事にしよう」が、企画の立ち上げ時にメインスタッフ間で共有された本作の方向性です。
「言」よりも「動」を重視するということですね。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)

 ひろプリでは「言葉」ではなく「行動」で示すことの重要性を描きたかったのです。

 今の時代の傾向として、言葉だけで「はい、論破」としてしまう風潮があるとし、「行動」を伴わない薄っぺらな「言動」だけでは何も解決しないどころか、新たな禍根(かこん)を生むだけなのでは? との懸念があったようです。

ひろがるスカイ!プリキュア 「説教+名ぜりふ=論破、で問題解決するのをやめよう」という方向性があった

もちろん「言」は大事です。でも今の時代「はい論破」的な風潮が前に出すぎていて、それって新しい禍根を際限なく生んでいるだけなんじゃないかという思いがあって。
たとえ遠回りで、気持ちよく割り切れなくても、そして結局のところ平凡な結論にしか至らなかったとしてもーーその“車輪の再発明”をする過程は無駄じゃないんだ、そこを経た肌感覚的な理解こそが信じるに足るものなんだ、それをエモーションを込めて描こうと心がけています
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)

 「論破」をする人がヒーローとして、子どもたちに持てはやされる時代になりつつある中、たとえ行動を起こした結果が平凡なものであったとしても「行動を起こすこと」自体に意味があるのだとして、その思いを「ひろプリ」に込めたのです。

 だから「ソラ・ハレワタール」は常に考え続け、常に悩み続け、行動し続けるのです。

ひろがるスカイ!プリキュア 言葉だけでなく行動し続けるヒーロー、ソラ・ハレワタール

「ひとりで戦わない」ヒーロー

 また、本作では「私たちはひとりではない」ということも強く描かれました。

 終盤、スカイランドに侵攻してきたカイゼリン・アンダーグの攻撃を抑えるため、ひろプリの5人が立ち向かいます。

「私は一人で戦っているんじゃない!」という、よくあるヒーローのキメ台詞を、ポエムを超えた、実体のあるものとして扱いたいという意図も強くあります。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)

ひろがるスカイ!プリキュア それぞれの「役割分担」が描かれた終盤の「ひろプリ」

 キュアウィングがスカイランドを守るバリアを修復し、キュアバタフライが指示を出しながらサポート役に回り、キュアプリズムがプリズムシャインを作る時間を稼ぐために、キュアスカイとキュアマジェスティが肉弾戦で戦う、といった「役割分担」が明確に描かれました。

 みんなで1つのことをするのではなく、1つのことのためにみんなが役割を果たすことが本作では描かれたのです。

「誰かと触れ合うことで自然と考え方は変わっていく、その奇跡が『ひろがる』ということ」が、本作のキャラおよび関係性の描き方です。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)

ヒーローをカリスマとして描かない

 そして、ひろプリでは、主人公ソラ・ハレワタールをカリスマヒーローではなく「未熟なヒーロー」として描き続けました。

金月 はい「心の力」と「仲間」はプリキュア不変のテーマなので……。
また、本作はソラをカリスマ主人公としては描いておらず、むしろ未熟な、わたしたちに近い弱さを抱えた人間として描いているので、本来主人公が担うべき美点を仲間たちが「分担」している側面が旧来よりも強いのかもしれませんね。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)

ひろがるスカイ!プリキュア ソラ・ハレワタールは「未熟なヒーロー」として描かれた

 ソラ・ハレワタールを「未熟なヒーロー」として描くことにより「役割分担」の大切さを強調させ、プリキュア5人の関係性をより濃密なものとして描いたのです。

 前を向き続け、悩み続けながらも言葉だけでなく行動し続けるヒーロー。

 悪を倒す力ではなく、誰かの心の支えになるヒーロー。

 そんなヒーロー像を「ひろがるスカイ!プリキュア」は子どもたちに示したのです。

 ソラ・ハレワタールはこの先も悩み続けながら、誰かのために走り続けるのでしょう。

 立ち止まるな! ヒーローガール!

ひろがるスカイ!プリキュア

(C)ABC-A・東映アニメーション

関連キーワード

プリキュア | アニメ | 東映


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2405/12/news021.jpg 「900円は安過ぎる」 喫茶店でプリンアラモード購入→見本と違いすぎる“激盛り”に仰天 「逆写真詐欺」
  2. /nl/articles/2405/10/news140.jpg 「怖すぎ」「絵面つよい」 “あの果物”が発火!? 知らないとヤバい「電子レンジに入れてはいけないTOP10」がためになる
  3. /nl/articles/2405/10/news123.jpg 「世界一好きな顔かも」 70万再生の“5分メイク”がスゴすぎる……! ゴージャスな仕上がりに驚き【海外】
  4. /nl/articles/2405/12/news002.jpg 8歳兄が0歳赤ちゃんにぴったり添い寝→2年半後の現在は…… 尊すぎる光景に「かわいい〜!」「成長はやい」
  5. /nl/articles/2405/08/news177.jpg プログラミング言語で書かれた謎の広告→「分かる人」が見ると……? 粋なアイデアが「おしゃれ」と話題 東急に制作背景を聞いた
  6. /nl/articles/2405/12/news004.jpg 9歳長女の連絡帳にサインしようと見てみたら…… こっそり書かれたママ宛てのメッセージに「ママ幸せだね」「胸がぎゅうってなった」と200万表示
  7. /nl/articles/2405/11/news023.jpg 【今日の計算】「899×9」を計算せよ
  8. /nl/articles/2405/12/news016.jpg 海の危険生物“ゴンズイ”を水槽に入れてみたら…… ヒヤリとする光景に「毒は絶対やばい」「ガチ草」
  9. /nl/articles/2405/12/news008.jpg 幼稚園の「名札」を社会人が大量購入→その理由は…… 斜め上のキュートな活用術に「超ナイスアイデア」「こういうの大好きだ!」
  10. /nl/articles/2405/02/news008.jpg ジャングルのようだった庭が…… 12時間かけた掃除の成果に「感動的な変貌」「素晴らしい」と称賛の声
先週の総合アクセスTOP10
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評