「ひろがるスカイ!プリキュア」がソラ・ハレワタールに託したヒーロー像 「説教+名ぜりふ=論破」ではなく「行動」で伝えることの重要性:サラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)
最後までひろプリを見てくれた子どもたちへの信頼
そして「悪役会議」を中盤までに描かなかったことにより、終盤、一気に「悪役」の事情が描かれ、物語が動き始める構成となりました。
第44話で今作のボス、カイゼリン・アンダーグが出てきたと思いきや、そこからは怒濤(どとう)の展開。プリンセス・エルレイン、キュアノーブル、カイザー・アンダーグなど重要なキャラが一気に出てきて、「なぜカイゼリンはプリンセス・エルレインを憎むようになったのか」といった謎が、残り5話になってから急に突きつけられることとなったのです。
プリキュアの姿を描きたいから「悪役会議」を減らしたはずなのに、終盤はプリキュアの活躍よりも「悪役」とその周りのお話が数話にわたり展開される構成になったのは、序盤に「悪役会議」を無くしてしまった弊害の一つといえるのかもしれません。
では、なぜこのような構成になったのか?
これに対し、金月氏は「続き物のお話はお子さんがついてこられなくなるリスクがあるので避けている」としながら、「最後までひろプリに付き合ってくれたお子さまであれば、続き物のお話を描いても大丈夫であろう」との信頼により、終盤に怒涛の展開を集約したようなのです。
金月 続き物のお話はお子さんがついてこられなくなってしまうリスクがあるので、基本的に避けています。でも、ソラたちの冒険に1年間付き合ってくれたお子さんたちなら……と。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)
つまり、ひろプリでは序盤に「悪役会議」を描かずプリキュアの活躍を増やし、子どもたちに認知させ、そんな「終盤までひろプリを見てくれた子どもたち」であれば、続きもののストーリーで「悪役の事情」を高密度で語ってもついてこられるであろう、という判断があったのです。
また、お子さんへの配慮はもちろんしつつ、「子供向けだから」という悪い意味での手加減はこれまでしてこなかったつもりなので、そのラインを突き詰める形で、第44話以降は高密度な続き物になっています。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)
「説教+名ぜりふ=論破」はやめよう
また金月氏は、ひろプリに「説教+名ぜりふ=論破、で問題解決するのをやめよう」、という方向性があったことも語っています。
金月 言動というものは「言」と「動」でできているわけですけれども……
「説教+名ゼリフ=論破、で問題解決するのをやめよう」「何を口にしたかではなく、どう行動したかを大事にしよう」が、企画の立ち上げ時にメインスタッフ間で共有された本作の方向性です。
「言」よりも「動」を重視するということですね。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)
ひろプリでは「言葉」ではなく「行動」で示すことの重要性を描きたかったのです。
今の時代の傾向として、言葉だけで「はい、論破」としてしまう風潮があるとし、「行動」を伴わない薄っぺらな「言動」だけでは何も解決しないどころか、新たな禍根(かこん)を生むだけなのでは? との懸念があったようです。
もちろん「言」は大事です。でも今の時代「はい論破」的な風潮が前に出すぎていて、それって新しい禍根を際限なく生んでいるだけなんじゃないかという思いがあって。
たとえ遠回りで、気持ちよく割り切れなくても、そして結局のところ平凡な結論にしか至らなかったとしてもーーその“車輪の再発明”をする過程は無駄じゃないんだ、そこを経た肌感覚的な理解こそが信じるに足るものなんだ、それをエモーションを込めて描こうと心がけています
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)
「論破」をする人がヒーローとして、子どもたちに持てはやされる時代になりつつある中、たとえ行動を起こした結果が平凡なものであったとしても「行動を起こすこと」自体に意味があるのだとして、その思いを「ひろプリ」に込めたのです。
だから「ソラ・ハレワタール」は常に考え続け、常に悩み続け、行動し続けるのです。
「ひとりで戦わない」ヒーロー
また、本作では「私たちはひとりではない」ということも強く描かれました。
終盤、スカイランドに侵攻してきたカイゼリン・アンダーグの攻撃を抑えるため、ひろプリの5人が立ち向かいます。
「私は一人で戦っているんじゃない!」という、よくあるヒーローのキメ台詞を、ポエムを超えた、実体のあるものとして扱いたいという意図も強くあります。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)
キュアウィングがスカイランドを守るバリアを修復し、キュアバタフライが指示を出しながらサポート役に回り、キュアプリズムがプリズムシャインを作る時間を稼ぐために、キュアスカイとキュアマジェスティが肉弾戦で戦う、といった「役割分担」が明確に描かれました。
みんなで1つのことをするのではなく、1つのことのためにみんなが役割を果たすことが本作では描かれたのです。
「誰かと触れ合うことで自然と考え方は変わっていく、その奇跡が『ひろがる』ということ」が、本作のキャラおよび関係性の描き方です。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)
ヒーローをカリスマとして描かない
そして、ひろプリでは、主人公ソラ・ハレワタールをカリスマヒーローではなく「未熟なヒーロー」として描き続けました。
金月 はい「心の力」と「仲間」はプリキュア不変のテーマなので……。
また、本作はソラをカリスマ主人公としては描いておらず、むしろ未熟な、わたしたちに近い弱さを抱えた人間として描いているので、本来主人公が担うべき美点を仲間たちが「分担」している側面が旧来よりも強いのかもしれませんね。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2024年2月号(P79)
ソラ・ハレワタールを「未熟なヒーロー」として描くことにより「役割分担」の大切さを強調させ、プリキュア5人の関係性をより濃密なものとして描いたのです。
前を向き続け、悩み続けながらも言葉だけでなく行動し続けるヒーロー。
悪を倒す力ではなく、誰かの心の支えになるヒーロー。
そんなヒーロー像を「ひろがるスカイ!プリキュア」は子どもたちに示したのです。
ソラ・ハレワタールはこの先も悩み続けながら、誰かのために走り続けるのでしょう。
立ち止まるな! ヒーローガール!
(C)ABC-A・東映アニメーション
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