異例づくしの「ひろがるスカイ!プリキュア」 なぜ「悪役会議」が描かれないのか?:サラリーマン、プリキュアを語る(1/2 ページ)
「悪役会議」、個人的には大好きなシーンです。「せーの! ブンドルブンドルー!」
「プリキュアのお約束」を描かない「ひろがるスカイ!プリキュア」。
なぜ、ひろプリでは「悪役会議」が描かれないのか? 4人目はなかなか変身しないのか? その理由はシリーズ構成、金月龍之介氏のある思いにあったのです。
kasumi プロフィール
プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。
- これまでのプリキュア連載一覧
大好評「ひろがるスカイ!プリキュア」
プリキュア20周年記念作品「ひろがるスカイ!プリキュア」も放送開始から4カ月がたちました。毎週のように日曜日のTwitterのトレンドに上がるなど、2023年のプリキュアも子どもたち(そして大人にも)大人気となっているようです。
その「ひろプリ」、これまでのプリキュアシリーズで見られた数々の「お約束」が描かれないことでも話題となっています。
初期設定の「青色プリキュアで異世界人が主人公」や「初のレギュラーの男の子プリキュア」「成人女性プリキュア」なども異色なのですが、放送開始後に初めて判明した「パターン崩し」もたくさんあるのです。
主人公はいわゆるどこにでもいる普通の女の子ではなく、生身で大きな岩を砕く力を持った女の子ですし、これまでに登場した3人のプリキュアは全員、異世界人の血が流れているのも異例です。4人目「キュアバタフライ」は16話を経てもいまだに変身していません。
免許持ちで車を運転するプリキュアも(おそらく)生まれそうですし、異世界とはいえプリキュアが「国を守る護衛隊」に入隊するのもある意味異色な出来事です(“公”のために力をふるうプリキュアはあまり見掛けませんよね)。
この19年間、プリキュアのお約束であった「異世界から来た妖精を助けるため、ごく普通の中学生の女の子がプリキュアに変身して日常を守るために戦う」ことが、本作ではあまり描かれていない印象を受けます。
そんな「パターン崩し」の一つに「悪役の描かれ方」もあります。
「悪役会議」が描かれない理由
「ひろがるスカイ!プリキュア」では、いわゆる「悪役会議」が描かれていません。
悪役会議とは「悪役キャラ同士が敵のアジトで掛け合いをしたり、ボスからの指示を仰ぐ」といった、ヒーローもののアニメや特撮でも定番のシーンです。
作劇上、子どもたちに悪いキャラは誰で、これから何が起きるのか? を説明するストーリー進行でも重要なシーンです。
2022年「デリシャスパーティ・プリキュア」(・はハートマーク)では、敵組織ブンドル団の「悪役会議」での決めぜりふ「ブンドル ブンドルー!」が子どもたちにも人気となっていました。
本作「ひろがるスカイ!プリキュア」では放送開始から4カ月間、その「悪役会議」が一切描かれていません。さらには「敵組織」の詳細すらも描かれていません。
開始から3カ月、ずっと悪役は「カバトン」1人が戦い続けてきました(第14話からようやく2人目が登場)。さらに敵組織アンダーグ帝国の内情も全く描かれず、そもそも何を目的とした組織なのか? ボスの名前は? なども16話を経た今でも謎となっています(1回だけ謎の女性の声だけが聞こえました)。
この「悪役会議」を描かないのは、もちろん製作サイドの意図です。
「ひろがるスカイ!プリキュア」のシリーズ構成を務める金月氏は、アニメ誌のインタビューで、悪役会議がないのは「悪役会議は子どもが楽しんでいるのか?」「その分プリキュア達のシーンを増やした方が良いのでは?」という考えに基づいていることを明かしています。
金月 いわゆる「悪役会議」のシーンってお子さんたちは本当に楽しんでいるのかなあ? その時間があるならプリキュアたちを見たいのでは? というのが僕の意見です。もちろん敵サイドの事情を描かないことで、ストーリーが推進力を失うリスクがあります。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2023年6月号(P70)
悪役側の事情を描いても子どもが楽しんでいるのかと疑問視し、子どもたちに喜んでもらうように、意図的に「プリキュアの出番を増やす」方向に舵を切っていたのです。
確かに本作では、悪役の物語が全く描かれない代わりにプリキュア側のストーリーが濃密に描かれている印象を受けます(これはプリキュア側の露出を増やすことにより「関連商品の売り上げを回復させる意図」もあるのかもしれません)。
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