『ぼっち・ざ・ろっく!』から生まれた異端の「酒クズ」スピンオフ 『廣井きくりの深酒日記』作者くみちょう&原作者はまじあきインタビュー(1/3 ページ)
飲キャならロックをやれ!
「飲キャならロックをやれ!」という一部の層にぶっ刺さるコピーで登場した漫画『廣井きくりの深酒日記』。アニメも大ヒットした人気漫画『ぼっち・ざ・ろっく!』に登場する天才ベーシスト・廣井きくりを主人公としたスピンオフ作品です。
バンドマンとしての才能はピカイチなものの、ステージ上で酔っては機材を壊し、常に抱える借金や将来の不安を忘れるためお酒で「幸せスパイラル」状態にならずにはいられないという正真正銘の“酒クズ”。本作ではそんな彼女のロックだったりろくでもなかったりする日常が描かれます。
今回は単行本1巻の発売を記念して、作者のくみちょう先生と原作『ぼっち・ざ・ろっく!』の生みの親であるはまじあき先生にインタビュー。『ぼっち・ざ・ろっく!』本編と密接に絡み合い、本家“廣井きくり”のキャラクターにも影響を与えたという異色のスピンオフ制作について聞きました。
酒を飲まない作者が“酒クズ”漫画を描く理由
――『ぼっち・ざ・ろっく!』のスピンオフをやろうとなったのはどういう経緯だったんですか?
はまじあき(以下、はまじ):以前から編集部で「スピンオフをやりたいね」って話はしてくれていたんです。本格的にプロジェクトチームができて話が進み始めたのは、『ぼざろ』のアニメが人気になったのがきっかけでした。
くみちょう:私は前の連載が終わったタイミングでちょうど『ぼざろ』のアニメにハマってSNSでファンアートを描いてたんです。それを見ていた担当さんから「スピンオフやらない?」って声をかけていただいて。
はまじ:伊地知姉妹推しでしたよね。私もファンアート見て「いいね」とかしてました。
くみちょう:見つかっていた(笑)。虹夏ちゃんが好きです!
――廣井きくり推しというわけではなかったんですね。
くみちょう:でもスピンオフをやるならきくりさんかなというのは、お話をいただいたときから思ってました。虹夏ちゃんは「結束バンド」のメンバーで主要キャラなので本編で出番がありますし。
はまじ:アニメでも廣井はすごく人気があったキャラなんですけど、本編では意外と深掘りしてなかったんですよね。
くみちょう:主人公たちより実力のあるバンドのリーダーで酒好きで大人キャラで……「アナザー主人公」として描くのに1番ちょうどいいポジションでした。
はまじ:廣井はぼっちちゃんの次くらいにアニメの反響があったキャラで、普段は絶対きらら系のファンアートを描かない人も廣井のファンアートは描いてたりしたんです。アーティスト気質の人とか海外のファンも多くて。酒でロックで、ってキャラがいいんですかね。
――確かにここまでハードな酒キャラはきらら系では珍しい気がします。ちなみにお2人もお酒は好きなんですか?
はまじ:1杯しか飲めないです。2杯以上飲んで失神したことがあって(笑)。
くみちょう:私もほとんど飲めないです。きくりさんは「幸せスパイラル」とか楽しそうですけど、私は飲んでも頭痛いし楽しくなくなっちゃう。
――意外な事実が(笑)。それだと「酒クズ」みたいな描写ってどうやって考えてるんでしょう?
はまじ:バンドマンってやっぱりライブでお酒飲んで伝説になるみたいなエピソードがあるのでそういうのを膨らませて。あと担当の瀬古口さんはすごい飲む人です。
瀬古口(ぼざろ担当):廣井きくりのモデルは僕とはまじ先生の好きな「八十八ヶ所巡礼」というバンドのマーガレット廣井さんなんですが、その方もすごい酒豪なんです。『ぼざろ』の企画段階で最初に作ったキャラ表の段階から廣井の構想はもうありましたね。
――「サイゼ飲み」や「磯丸水産で朝を迎える」といった“酒クズ”のディテールの細かさがすごく印象的だったんですけど、あれも実体験ではない?
くみちょう:行ったことはありますけど、実体験というよりは周りの人たちに聞いたあるあるネタとかから想像をふくらませてる感じですね。
はまじ:瀬古口さんもサイゼいいって言ってましたね。
瀬古口(ぼざろ担当):よく飲んでます。ワインがあの値段であの量飲めて、あったかいつまみが出てくる店ってちょっと他にない。
――めっちゃわかります。
くみちょう:どっちかというと自分がそんな飲めるタイプじゃないので、飲み会でも酔い潰れた人に水とか買ってくる立場なんですよ。だからむしろ酔っ払いの行動とかをちゃんと覚えてるというのはあるかもしれません。
――確かに酔っ払った側は基本忘れてますね……。
はまじ:瀬古口さんもよく「覚えてない」って言ってますね。
瀬古口(ぼざろ担当):すいません……。
――そういう意味だと“酒クズ”の漫画を描くのは飲まない人のほうが向いてるのかもしれませんね。
はまじ:飲み会にはよく行くけど自分は飲めないっていう。私も廣井みたいに気持ちよく酔えるのうらやましいな、って思いつつ、こうはなりたくないなと思います(笑)。
くみちょう:憧れるけどなりたくはない(笑)。
きらら好き以外の層に刺さった“酒クズ大人キャラ”
――『深酒日記』の制作はどんな風に進められてるんでしょう。
くみちょう:私もはまじ先生も担当さんもこういうスピンオフをやったことがないので正しいやり方かわからないんですけど……私が「志麻とイライザの会話はこんな感じかな」とか想像しながらネームを作ってます。
――え、じゃあ全部くみちょう先生発信で考えてる……?
くみちょう:そうなんですよね。「SICK HACK」の結成とかについても本編では細かく触れられてないので、いったん私のイメージで作って。違ったら直してくださると思ってるんですけど、それが結構スルスル通ってしまって。
はまじ:直すところないんですよ。くみちょう先生、自分より漫画うまいからそういう人に何も言うことない。
――『深酒日記』って「本編の裏側で実はきくりたちはこんなことをしていた」みたいに、結構本編と絡むような描き方も多いのが特徴ですよね。原作者として気になることとかないんですか?
はまじ:こんなことがあったんだー、すごいなーって思ってます(笑)。
くみちょう:私も『ぼざろ』ファンなので本編を何度も読み返して辻褄が合うように話や設定を考えてるんですけど、これってやってること完全に2次創作なんですよ。しかも原作者のはまじ先生という「神」に見られるわけで……。
――2次創作的に作った話がどんどん公式に採用されていく(笑)。くみちょう先生ももう神の一部になっているんですね。
くみちょう:「お前が勝手にやってたんかい」と思う『ぼざろ』ファンの方もいるかもしれないので、そこは悩みながら作ってますね。
はまじ:でもスピンオフってそうやって作品世界を広げてもらうものだからアリだと思ってます。本編はやっぱり「結束バンド」の話がメインなので、なかなかそれ以外のキャラを掘り下げるのって難しくて。くみちょう先生にいろんなキャラを補完してもらえてうれしいです。
――確かに本編で「PAさんが実はVtuberでコラボカフェに行く話」をがっつり1話は描けないですね。
はまじ:それも最初に渡したキャラ設定で「PAさんとイライザはゲーム仲間」って1行書いただけなんです。あとはくみちょう先生がそこからふくらませてくれて。
――なるほど、本編で描かれていないけどそういう設定は考えてあったんですね。
はまじ:スピンオフが決まって急いで考えた部分も多いんですけど。本編で使う機会ってなかなかないので「これはフリなのでどんどん描いちゃってください」ってお話してました。
くみちょう:イライザと志麻は原作でも登場が少ないので連載前に詳細なキャラ設定を考えてくださいました。でも、きくりさんについては連載が始まってしばらくしてからいただいた感じでした(笑)。
――主人公なのに……!
はまじ:くみちょう先生なら分かるかな、と思って(笑)。
――信頼がすごい。逆にはまじ先生が『深酒日記』から影響を受けた部分なんかもあるんですか?
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