アニメ「勇気爆発バーンブレイバーン」序盤レビュー “気持ち悪い”魅力と隣り合わせの問題(1/2 ページ)

タイトルとビジュアル詐欺

» 2024年02月08日 21時00分 公開
[ヒナタカねとらぼ]

 放送中のテレビアニメ「勇気爆発バーンブレイバーン」が話題沸騰だ。タイトルやビジュアルのパッと見では少年向けの熱血ロボットアニメに思えるかもしれないが、実際の内容はかなり大人向けで、SNSで取り沙汰される理由の筆頭は「気持ち悪い」ことである。

アニメ「勇気爆発バーンブレイバーン」レビュー “気持ち悪い”魅力と隣り合わせの問題 「勇気爆発バーンブレイバーン」第2弾キービジュアル

 作品の魅力や“気持ち悪さ”については「見ればわかる」ことを前提として、ここではその理由を記すと共に、「笑ってすませていいのか」という、表現上の危うさについても立ち止まって考えてみたい。

「勇気爆発バーンブレイバーン」第2弾PV

※以下、「勇気爆発バーンブレイバーン」の4話までの内容に触れています。

「バトルシップ」からストーカーもののホラーアニメに

 あらすじは「軍人たちが宇宙から飛来した侵略者と戦う」という、日本でカルト的な人気を得ているハリウッド映画「バトルシップ」を思わせるもの。そして、大ピンチに突如として現れた巨大ロボットのブレイバーンがいろいろな意味で規格外だった。初対面(?)のはずの主人公・イサミに執着する様が、端的に言ってストーカー的でキモいし怖いのである。

 いきなり登場して「私の中に早く乗るんだ!」と叫ぶ様からイヤな予感がするが、熱血主題歌「ババーンと推参!バーンブレイバーン」に合わせ戦闘が繰り広げられる中で、イサミが「さっきからなんなんだこの歌は!」とツッコミを入れる様に戦慄した。アニメによくある「戦闘シーンで主題歌が流れる」アツい演出かと思いきや、劇中でブレイバーンがアツく(暑苦しく)歌う様をマジで流しているのだ。

「勇気爆発バーンブレイバーン」OPノンテロップ映像

 そして、決定的な恐怖を覚えたのは、第1話ラストの会話。イサミは「どうして、俺の名前を知って……?」と当然の疑問をぶつけるのだが、その返答は「ああ! そうか、まだ私の名前を言っていなかったな!」「私の名前はブレイバーンだ!」なのである。「相手の質問にまったく答えずに自分の言いたいことだけを言う」会話のドッジボールぶりは下手なホラーより怖い。

 それでいて、相手の会話を全く認識していないわけではなく、お偉いさんたちの会議シーンでも相手の話をさえぎりつつも、しっかり仲裁役をこなす描写もあり、「意図的に都合の悪いところだけ無視している」ように見えるのもタチが悪い。

 初戦闘後に「イサミーッ! 来てくれるよなぁああー!」と、イサミの再搭乗を一方的に信じ込んでいるのも恐怖だ。イサミは正体不明の不審なロボットと共謀した疑いをかけられ、味方からひどい拷問を受けるのだが、そこから開放された直後でさえ「イヤだ! もうあいつに乗りたくない!」と告げるのも当然だ。

 そのブレイバーンが準主人公のスミスに「君を乗せることは生理的に無理だ」と告げるのも「おまいう」で絶妙に神経を逆なでてくる。ブレイバーン役の鈴村健一の声と演技が素晴らしいだけに、そのキモさも青天井だ(褒めている)。

「勇気爆発バーンブレイバーン」第2話「イサミィーーッ!そろそろだよな、イサミィーーッ!!」予告映像

 こうしたこともあって、X(旧:Twitter)では放送後に「イサミかわいそう」がトレンドに。「新世紀エヴァンゲリオン」の碇シンジを超えて、ロボットに乗りたくない気持ちにこのうえなく共感できる主人公として不動の地位を築きつつある。

 また、大張正己監督は複数の「勇者シリーズ」への参加でも知られており、本作はそのセルフパロディーともいえる。勇者シリーズの巨大ロボットと人間との絆や「あるある」な関係性を“気持ち悪い”方向へとズラし、笑いと恐怖は紙一重……と言うよりも恐怖がやや上回ったホラーコメディーに仕立てたのが、この「勇気爆発バーンブレイバーン」というわけだ。

ホモフォビアにつながるという指摘も

 そんなわけでよくも悪くも“気持ち悪い”ことが話題を集めた「勇気爆発バーンブレイバーン」であるが、ホモフォビア(同性愛嫌悪)を助長するのではないか、という指摘もある。ブレイバーン自身が男性の声でしゃべり、男性への熱い思いを“気持ち悪い”ものとして示すことで、差別的ないし差別を助長する描写になっているのでは、という指摘には納得できる。

 また、各話のエンディングでは、イサミとスミスが上半身裸になってミュージカル調で歌い出し、手を握る指の動きまで丹念に描いていた。個人的には、このエンディングはかつてニコニコ動画で流行したゲイビデオの動画への揶揄(やゆ)にも近い印象を持った。人によっては、同性愛をちゃかす、はたまた嘲笑をしていると不快に感じられるのではないか。

「勇気爆発バーンブレイバーン」EDノンテロップ映像

 さらに、ブレイバーンは「イサミが操縦かんを上下に動かすたび、私も上下する!」と、あからさまに性的なニュアンスもあるセリフも放っており、そちらも“気持ち悪い”と話題を集めたのだが、それもまた危うい。

 他にも、スミスが謎の少女・ルルに懐かれ、裸のまま抱きつかれたりする様が、ブレイバーンからイサミへの一方的なアプローチと対比(あるいは一致)するように描かれているのも、悪い意味で居心地の悪さを感じる方もいるだろう。これらの描写の賛否は、議論されてしかるべきだろう。

力ある者に一方的に迫られる恐怖を示す意義

 こうした危うい描写があることを前提として、筆者個人は「力ある者に一方的に迫られる」「それが性的な意味合いも含む」恐ろしさを、フィクションで示すこと自体には意義があると思っている。

 例えば、同性愛を扱った漫画作品「BANANA FISH」の第15巻(テレビアニメ版では第21話)では、ゲイバーに同行した男性が、周りの空気や主人公の言葉を踏まえて「俺も女の気持ちがよくわかった」「セックスの的になるってのはえれぇプレッシャーだ」と口にするシーンがある。

アニメ「BANANA FISH」予告| #21「敗れざる者 The Undefeated」

 これは、異性愛者の男性こそがハッと気付かされる言葉だ。女性は男性から一方的にアプローチされることが多く、そこには性的な欲求を含んでいることもある。異性愛者か同性愛者に関わらず、それがプレッシャーもしくは恐怖にもつながるというのは、当たり前ともいえるが重要な指摘だ。

 加えてブレイバーンは、(たとえ心からの善意で人間たちを助けてくれるのだとしても)強大な戦闘力により現時点で世界の命運を握っており、周りもブレイバーンおよびイサミに頼るしかない状態になっているのもまたタチが悪い。現実でも権力を盾にした性加害の問題が報道される今、ブレイバーンから(性的な意味合いはなかったとしても)一方的に迫られる恐怖を相手の立場になって自覚させてくれる本作は、重要な視点を提供していると思うのだ。

「束縛をしない」ブレイバーンも怖いのかもしれない

 いずれにせよブレイバーンが“気持ち悪い”ことには変わりないのだが、第4話では少しモードが変わってくる。何しろ、彼はふさみ込みがちだったイサミに「彼(スミス)も共に戦う仲間だ、多少は興味を持ってもいいのではないか」と促したり、「どうだ、少し気晴らしをしても」と提案をして、イサミが仲間と打ち解ける後押しをしたりもするのだ。

「勇気爆発バーンブレイバーン」第4話「イサミ、キミはまだ、人というものを分かっていないようだ」予告映像

 ストーカー的に一方的な思いをイサミにぶつけるブレイバーンだが、「相手を束縛しない」配慮も一部見せており、今後はイサミと本当にいいコンビになっていくのかもしれない(それはそれでサイコパスに言いくるめられているようで怖いけど)。

 “気持ち悪さ”を更新し続けるブレイバーンと、ずっとかわいそうなイサミの関係性の変化も含め、今最も続きが気になるアニメだ。

ヒナタカ

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/25/news174.jpg 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  2. /nl/articles/2404/26/news154.jpg 元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
  3. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  4. /nl/articles/2404/12/news174.jpg 築年数不明の平屋にある、ボロボロ床板をはがしてみたら…… 発覚したヤバい事実に「ビックリ!」「大丈夫でしたか?」心配と驚きの声
  5. /nl/articles/2404/26/news022.jpg ママの足にくっつく生後7カ月の赤ちゃん、甘えてるのかと思いきや…… 計算された行動と「ちいこい後ろ姿がかわいすぎ」て目が離せない
  6. /nl/articles/2404/25/news016.jpg 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  7. /nl/articles/2404/25/news069.jpg “作画軽減ガンダム”をガンプラで作成 → 使用パーツも最小限の再現ぶりに「完全に一致」「部品軽減ガンダム」
  8. /nl/articles/2404/23/news090.jpg 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  9. /nl/articles/2404/18/news134.jpg 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  10. /nl/articles/2404/26/news024.jpg 0歳赤ちゃん「(ママ来たっ!)」→喜びが抑えきれなくて…… 尊すぎるダンスが300万再生「心が浄化されていく」「朝から癒やされました」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」