熱い! 濃い! ド派手! 中国製SFブロックバスター映画「流転の地球 -太陽系脱出計画-」がすごい(1/2 ページ)
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中国のSF映画「流転の地球 -太陽系脱出計画-」が、3月22日から公開されている。これがもう、空いた口がふさがらなくなるような超大作である。「ド迫力! 特攻! 感動!」という力押しの一方で、極大と極小を行ったり来たりするSFの面白みや、ガジェットやビークルのデザインの秀逸さも光る。現在の中国製SF映画の到達点といえるような、重厚長大な2時間53分である。
『三体』の原作者の書いた短編を原案にした、超大作SF映画シリーズ第2弾
「流転の地球」の原作は、ベストセラーSF小説『三体』の作者・劉慈欣による短編小説『流浪地球』。「太陽の燃焼が短期間で加速し、このままでは太陽系全域が滅亡することは確実。人類は地球にたくさんエンジンを搭載して太陽系を脱出し、プロキシマ・ケンタウリを目指す」という筋立ては映画版と同じながら、原作ではこの太陽系脱出までの経緯をある男性の目線からリリカルに描写。壮大ながら物悲しい読後感のある、独特な小説に仕上がっていた。
が、2019年に公開された映画版第一作「流転の地球」は、小説版の基礎的な設定のみを流用しつつ内容を大幅変更。予算をかけたド派手なブロックバスター映画に仕立てた。ストーリーは地球が木星をスイングバイして加速する際に発生した、全地球規模のトラブルにフォーカスしたものになり、そこに熱い家族愛の物語が重なるという構成。
「ハリウッドにブロックバスター映画が作れて、中国に作れんわけがあるか!!」という鼻息の荒さが全編から感じられる内容となっており、その辺りが中国内でのブームを後押ししたのか、興行収入46億人民元(当時のレートで約725億円)を超える大ヒットとなった。日本では公開されなかったものの、Netflixで配信されており、現在でも視聴できる。
で、その映画版の続編にして前日譚が、このたび公開される「流転の地球 -太陽系脱出計画-」である。前作「流転の地球」ではすでに地球が太陽系脱出をスタートさせた後の話だったが、本作は太陽系を脱出する計画が立てられてから実際に地球が動き出すまでの話となっており、ストーリー的にはこっちから見ても全く問題はない。中国では2023年1月に公開され、日本円にして700億円を超える興行収入だったという。700億って。すげ〜な。
前作同様、地球のピンチにさまざまな立場の人々が立ち向かう物語ではあるのだが、話の軸になる人物は3人。前作でも登場したウー・ジン演じるリウ・ペイチアン、そして名優アンディ・ラウ演じる量子化学研究者のトゥー・ホンユー、そして国際地球政府中国代表を務めるジョウ・ジョウジーである。
「とにかくすごい絵面とクールなメカと派手なアクションを見せるぞ!」という気合が充満
物語は太陽系消滅の危機が迫る時代から始まる。この危機を前に人類は地球連合政府を樹立して、巨大なロケットエンジンを使って地球を太陽系から脱出させるプロジェクト「移山計画」を発動する。しかし、計画は反対派のテロリストの攻撃や各国の思惑によって難航。さらに人間の記憶や人格をコンピュータ上に再現し、デジタル生命体として太陽系崩壊に備える一派もおり、地球の太陽系離脱は一筋縄ではいかない状況になっていた。そんな中、地球のために宇宙を目指すパイロットのリウ、事故で失った娘をデジタル生命体としてよみがえらせることに血道をあげるトゥー、そして国際政治の第一線で厳しい決断を迫られるジョウの3人を軸にして、人類が地球を動かすまでのストーリーが描かれる。
なんというか、前作以上に鼻息の荒い作品である。中国版「さよならジュピター」みたいな映画なので、地球の危機に対して中国人スタッフが中心に立って超頑張る話になっており、それ以外の国の出番はほぼゼロ。やたら気のいいロシア人パイロットが出てきたり、登場する有色人種は中国が経済的に進出しているアフリカ系の人ばっかりだったりと、近年の中国らしい政治的臭みもなくはない。
が、それ以上に強いのが、前作を上回る「すげ〜絵面を見せて客をビビらせるぞ!!」という気合である。冒頭の軌道エレベーターが離陸してケーブル伝いに宇宙ステーションへとカッ飛んでいくシーンに始まり、その後のドローンと戦闘機との大空中戦、軌道エレベーターでのアクション、そして展開自体は実質「アルマゲドン」ながら、投入される物量は数百倍という中盤以降の巨大トラブルなどなど、ギガ盛りのVFXで観客を圧倒するド派手なシーンが大盤振る舞い。デカい画面で見てこそ映えるシーンが多いので、映画館に行く価値はある。
どんなにVFXがすごくてもメカのデザインがショボいと萎えちゃうが、本作はそこにもしっかりとリソースが割かれている。画面に登場する数々のメカやセット、ガジェットのデザインは、むちゃくちゃ調子のいい時のジェームズ・キャメロンばりの緻密さで、特に箱型からメカナムホイールを備えた四脚のドローンに変形するサポートメカ「BENBEN」のデザインは秀逸。空港の金属探知機みたいなゲートがそのまま歩いて動く多目的ロボ「フレーマー」など、ありがちな既存のメカデザインから外れた見た目のものも多い。派手な見せ場とメカのクールさの間で、ちゃんと釣り合いが取れているのだ。
また、ガジェットに関して言えば、中国企業が開発した実物も使われているという。例えば兵士が貨物を運ぶシーンで装着している外骨格は、上海に本拠を置く上海傲鯊智能科技(ULSロボティクス)が提供したもの。これは実際に空港職員や重機エンジニアが現場で使っているものなのだそうで、このあたりからも「メイドインチャイナを舐めたらあかんぜよ」という鼻息の荒さが伝わってくる。
「セカイ系のアンディ・ラウ」が見られます
そんなド派手な「流転の地球」なのだが、実は非常にミニマムな家族の物語でもある。特に、事故で失った娘を量子コンピュータ上で再現し、今度こそ失うまいとするがゆえに極大のトラブルを招いてしまうトゥーに関するストーリーは、なかなか刺さるものがあった。コンピュータ上に娘を再生するべく血のにじむような努力を重ねても、結局画面を通じて会話ができるだけ。その状況が終盤大きく変化するのだが、そこに関しては演出も相まって「おお……!」と声が漏れるくらいの驚きがあった。
前作でも家族愛は大きなテーマだったが、本作ではそれにもうちょっとツイストをかけて作品内にうまく取り込んでいる。自分と愛する人の間のミクロの問題が、世界全体の運命を決するマクロの問題に直結する感じは、往年のセカイ系作品っぽい味わいを感じるところも。極大と極小の間を行きつ戻りつしつつ、最終的には個人の思いで超巨大な問題に立ち向かうあたりは(演出はところどころクドいんだけど)熱い!
このあたりを無理なく「う〜ん、熱いストーリーだ」と飲み込ませてしまうあたり、トゥーを演じたアンディ・ラウの力量もすごい。とにかく「娘を亡くして以降感情の振幅がうすくなっちゃったお父さん」の演技が板につきすぎており、常に佇まいが寂しげなのに量子コンピュータ上の電子生命のことを喋る時だけ妙に目がギラギラするという演じ分けが見事。"中国政府公認俳優"的に快男児を演じているウー・ジンよりも影のある雰囲気は、ド派手で鼻息の荒い本作の中でひときわ印象に残った。
ちょっと内容的に詰め込みすぎのきらいもあり、3時間近い上映時間には尻込みする人もいるであろう本作。ただ本当に「できること全部やったらこうなりました!」というところがあり、そこはちょっとチャーミングだと思う。非アメリカ製のパワー系ブロックバスターとしてはけっこう貴重な作品だし、「中国のSFって今盛り上がってるらしいやん」という野次馬根性で見にいっても、いい意味で度肝を抜かれるはず。演出に関してはしつこさもある作品だが、そこも含めて中国のSF映画の現在地を知ることのできる1本だ。
(しげる)
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