赤ちゃんが泣き出したらどうする? エンジニアパパが対応法をフローチャートでマニュアル化 育児と開発の相似点(1/3 ページ)
システムの障害対応と泣く新生児への対応は案外似ている?
育児に不慣れなうちは、赤ちゃんに激しく泣かれると、何をすべきかと慌ててしまうもの。そこで、なだめる方法をマニュアル化できないものかと考案された、「新生児ギャン泣きオンコール対応フローチャート」がX(Twitter)で話題です。「オムツが汚れている?」といった問いに対し、「はい」か「いいえ」で答えていけば、泣き止まなかったとしても次に打つべき手が提示される仕組み。
考案者のakkie(@akkie30)さんは、3月に第1子を授かったばかりのシステムエンジニア。初めての育児に苦労するなか、特にいつ起こるか分からない、“子どものギャン泣き”への対応に悩んでいたといいます。
そんなときに思い出したのが、本業で経験したシステム障害対応。24時間いかなるときでも迅速な対応が求められる点で、業務と育児に類似性を見いだしたakkieさんは、その勤務形態になぞらえて、「オンコール」でギャン泣きに対応するフローチャートの開発を思い立ちました。
※オンコール:医療現場や介護施設、IT企業などでみられる、緊急事態にいつでも対応できるよう待機する勤務形態
フローチャートは「泣く」に始まり、オムツや空腹の要因など基本的なチェック項目で分岐。オムツが汚れておらず、おなかも空いていなかった場合は、「口をちゅぱちゅぱさせているならばおしゃぶりを与える」「いきみやうなり、太鼓腹といった挙動があればげっぷを出させてみる」といった細かいチェックが続きます。
その後は主に、「ここまでの対応をもってしても泣き止まないときのあやし方」。「抱っこした状態で足踏みやスクワット」「子の口元に手を当てて小刻みに動かし『アワワワワ』と言わせる」「ホワイトノイズや子守歌、タケモトピアノのCM、ビニール袋をカシャカシャ鳴らした音を聞かせる」といったポピュラーな方法が次々と提示されます。
なお、ルートをどうたどったとしても、最後は「泣き止んだ?」の設問へ。「いいえ」の場合はもちろん最初からやり直しとなります。……チャートをなぞるだけで育児の苦労がしのばれるな……。
フローチャートは開発途上ということで、akkieさんが「レビューしてほしい」と公開したところ、ポストは広く拡散。「抱っこしている状況では、よく効く反復横跳びを選択肢に入れるのがオススメ」「太鼓腹は便秘の可能性もあるので、便間隔のチェックも追加してほしい」といった育児経験に基づいた提案や、「赤ちゃんが泣き止まない限り無限に布で包まれてしまう」「前回の授乳から2時間経過後、ミルクを与えても泣き止まない場合は無限ループに入る」といったロジックの不具合への指摘など、多くのレビューが寄せられました。
akkieさんは「到底1人では修正しきれない反響を頂いた」として、フローチャートのオープンソース化を決定。関連ファイルをGitHubで公開し、レビューコメントを元にアップデートへ取り組んでいます。
現段階でも、「これから出産するので参考になる」「これさえあれば母乳を与える以外の対応は全部父親でできるので、諦めずにやれって意味で広まってほしい」と期待がかかるこのフローチャート。編集部はakkieさんに、開発の経緯や進捗(しんちょく)など、詳細を聞きました。
―― 「新生児ギャン泣きオンコール対応」を投稿するに至った経緯を、あらためて教えてください
akkie 3月中旬に妻が第1子を出産して、夫婦で慣れない育児に取り組んでいるのですが、最も体力と時間を削られるのが「子どもを泣き止ませる」ことでした。ギャン泣きは24時間いつ起きるか予想ができないうえ、声が裏返るほどの大きさで、目の前で悲壮な顔で泣かれると、寝不足も重なっていますし、私のような育児に慣れていない親は特に、焦って冷静な対処ができなくなってしまいます。
ただ、自分には似たような体験を、「オンコール対応」業務でした記憶がありました。現在は育休中ですが、私は普段システムの開発・運用を行うエンジニアをしています。24時間稼働することが求められるシステムの運用においては、緊急対応が必要なシステム障害やセキュリティ問題が発生した場合に即座に対応できるよう、対応者や対応方法をあらかじめ決めておく仕組みを「オンコール対応」と呼び、私も日々担当していました。
システムに障害が起きるとスマホが大音量で通知し、PCには顧客からの問い合わせやシステムエラーのログがリアルタイムに流れます。それでも担当者は障害の原因を冷静に1つずつ潰し、なるべく早く障害を解決しようと試みるのですが、この状況になぞらえて、同僚が以前「育児は24時間オンコール」と言っていたんです。
ギャン泣きは赤ちゃんにとって正常なことで、システム障害とは異なります。ただ、対応方法のマニュアルが有効なのは、障害対応も育児も同じじゃないかな、と思ったのが作成のきっかけです。
―― 実際に制作してみての手応えはいかがでしたか
akkie Web上で「泣き止ませる方法」を調べるとさまざまな情報が出てくるものの、方法を列挙しているだけのものが多くて優先度が分からないし、いまいち自分が納得できるほどには整備されていなかったため、自分でフローチャートで整理すると決めました。
不確実なものを、たとえ完成品がベストなものでないとしても仕様に落とし込む作業は業務の1つなので、その経験が助けになったとも思います。できたものを俎上(そじょう)に載せることで、色んな人から意見をもらえるのも結果として大成功しました。「情報を発信するところに情報は集まる」という言葉を再確認した気持ちでした。
―― 作成後、育児に変化はありましたか
akkie チャートができてからは、「さて、次はげっぷ出すか……」「一度オムツチェックに戻るか…あ、またウンチ出てるじゃん……」と頭の中で作戦を練れるようになり、前よりも少しだけ冷静になれたような気がします。
これがどの家庭にも当てはまるものではないことは重々承知ですが、このチャートのおかげで泣き止んだ赤ちゃんや、笑ってくれた親が1人でもいればいいなと思います。
―― スレッドでさまざまな意見や提案が寄せられていますが、印象的なものがあれば教えてください
akkie 「抱っこ中に反復横跳びするとめっちゃ効きます」といった提案は、実際に息子で試した際に高い効果があったので、印象に残っています。
うちで一番効果が高いのは小刻みなスクワットなのですが、5分もやってるとひざが壊れそうになる問題があります。今は抱っこ中の動きに関して早歩き、スクワット、反復横跳び、阿波踊りのステップなどをバランスよく使っています。バランスボールの購入も検討しています。
そのほか、主に同業者のかたから「全裸で泣き始めた場合はオムツチェックができないがどうするのか」「泣き止まない限り何度も布でくるむことになるフローだがいいのか」といった、ロジックの不具合に関する指摘があったのもよかったですね。
―― 既に見えている修正不可能なバグは顕在化しているのでしょうか? 対策の状況など教えてください
akkie 「母乳は欲しがるだけ与えてもよいが、ミルクは胃腸に負担をかけるので頻繁にあげるべきではない」「片手で抱っこしながら掃除機をかけるのは危険度が高い」「体温を測るなど、病気の兆候をチェックしていない」など、既に多くのバグ報告が上がっています。直せないものではないので、フローチャートのシンプルさを失わないよう気を付けながら日々修正中です。
取材から数日後、akkieさんは「発病兆候のチェックが必要」や「反復横跳び法」といった、レビューでの指摘や提案を反映した「新生児ギャン泣き対応フローチャートv1.1.0」を公開(関連リンク:リリースノート)。引き続きGitHubでレビューを募集しています。
画像提供:akkie(@akkie30)さん
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