「シリーズ物みたいなヒーロー名だな!」(That sounds like a fucking franchise.)と1作目で自嘲した通り、史上最高興行収入のR指定映画がついに帰ってきた。
ボブの絵画教室を盛大にパロった予告、セリーヌ・ディオンとのコラボMV、「ウルヴァリン: X-MEN ZERO」「ローガン」のヒュー・ジャックマン主演作「グレイテスト・ショーマン」の人気に嫉妬する日本特別映像、デヴィット・ベッカムとのコラボCM……と、トレイラーが公開されるたびに世界中のアメコミファン、メディア、そして何よりヒーロームービーファンを沸かせてきた「デッドプール2」。
暴力、流血、Fワードはもちろん、おなじみのパロディーや小ネタも満載。おしゃべりで不死身、強いのに脆い。ふざけているかと思ったら突然のシリアス。そんな最強無責任ヒーローこと"俺ちゃん"主演作は前作にも増してアクセル全開、フルスロットルの最強コメディーだった。
どこが面白いかを指摘するのは難しい。全部面白い。
「隣人のような」ヒーロー
本作はとにかく自由だ。いきなり他作品のヒーローのフィギュアを灰皿がわりにするわ、忽那汐里扮するユキオのキャラクターに某お馬さんアニメを引き合いに出すわ(しかも後半になって初めて分かる二段オチである)、怒涛の勢いで放たれる軽口に仕込まれたユーモラスなギャグとパロディー。
映画、コミック、アニメなどで“おきて破りのヒーロー”というキャラクターが珍しくなくなってきた昨今にあっても、これほどキュートで魅力的なヒーローは珍しい。というのも(例えば)マーベル・シネマティック・ユニバースの面々と比べ、なぜだか彼はとても身近だからだ。彼が戦うのは国家レベルの陰謀ではなく、宇宙規模の侵略者でもない。敵に捕らわれた恋人を救うためであり、悪の道に落ちようとする少年を救うためである――彼がウルヴァリン(というよりヒュー・ジャックマン)に次いでライバル視している、スパイダーマンのように。
仮面の下の人間らしさ
前作「デッドプール」はヒーロー誕生の物語であり、コメディーでありながらも全体のストーリーを包んでいた雰囲気は悲痛なものだった。荒れた人生の中、ようやく出会った運命の女性と恋に落ちたという幸せの絶頂に不治の病が発覚。怪しげな治療法の誘いに乗って訪れた先で肉体を改造され、不死の醜いミュータントへと変えられてしまう。
X-MENのいうミュータントとは、作中でも語られるように、迫害されてきた民族、マイノリティーの象徴だ。フードをかぶり、醜い顔を見られないよう身を隠す彼に感じ取れるのはピエロの陽気さではない。自らの痛みを客観的に見て、笑い飛ばすことでなんとかそれを受け入れるという彼なりの自己防衛だ。
しかしそれは同時に、自らが手にしている幸せも遠くから見つめてしまうことにほかならない。それを表していたのが前作のラストシーンであり、そのペシミストぶりとポップアイコンとしての両立が、彼を「最もふざけているように見えて、最も人間らしい」キャラクターにしている。
「2」は彼のその先を描いている。自分の幸せを自分のものとして素直には受け止め切れなかったウェイド・ウィルソンが、ついに自分の幸福と向き合い、真の幸せを手に入れるための物語だ。
ある意味本作におけるヴィランは、過去のデッドプール自身ともいえる。徹頭徹尾ふざけきっている彼だからこそ、そのマスクを脱いだときの悲哀は胸を打つものであり、そしてその効果を最大限に発揮するために全編にわたって畳み掛けられるジョーク・下ネタ・不謹慎ギャグの連打は、分かっていてもとてもじゃないが笑いをたえられるようなものではない。
現実世界で起こったディズニーによるFOX買収、マーベル・シネマティック・ユニバースへの言及、(ちょっとばかりの)人種差別問題、イースターエッグ。それら全てを一度の鑑賞で拾うのはとても不可能だ。屈指の原作ファンであり、主演・共同脚本・製作を手掛けたライアン・レイノルズが「デッドプールだけに専念した」と語る通り、演技、演出、撮影、編集、音楽、全てのクオリティーが非常に高い、最高に満足のいく119分だった。
さて全編にわたって笑い通しとなる本作、その最大の笑いどころはこの物語最大の功労者、彼もまた幸せを奪い取るところだ。知識ゼロでも十二分に楽しめる本作だが、余裕があれば上であげたような関連作にも目を通してほしい。
緑のヤツも、言われてるほど悪くはないぞ。
(将来の終わり)
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