「飴細工」とは熱して柔らかくした飴を棒の先に丸め、握り鋏や素手を使って様々な動物や植物のかたちに造形するもので、江戸時代に飴を売るためのパフォーマンスとして広く庶民に広がりました。個人的に飴細工というと“お祭りの屋台”のイメージ。ちょっとチープで味のあるかわいさのある食べ物、というイメージを長らく持っていました。そんな飴細工を、生きているような繊細な造形で金魚やカエルなど再現し飴細工を芸術の粋まで広げている「浅草・飴細工アメシン」。
「アメシン」は後継者が少なくなり衰退しつつあった飴細工の伝統を保持するとともに、今まで誰も見たことがないような革新的な飴細工を生み出すべく手塚新理さんが立ち上げた飴細工師集団。2013年に東京・浅草に本店工房を構え、2015年には東京スカイツリータウン・ソラマチに2号店をオープン(関連記事)。そして2018年6月17日には、体験工房機能を移転し“体験をメインとした店舗”として花川戸店が新たにオープンしました。
今回は6月15日に店舗オープンに先駆けてお邪魔しました。そして「アメシン」代表の手塚さんにもいろいろ聞いてみました!
「アメシン」花川戸店
「アメシン」新店舗花川戸店。各線浅草駅からは徒歩約5分です。都内最古の寺院である浅草寺(せんそうじ)からも100メートルくらいなので、浅草観光の際に立ち寄るのにもぴったり。花川戸店は体験教室がメインとなる店舗で、既存の店舗では最大20人ぐらいまでの体験だったのが、花川戸店では最大で40人くらいまで体験できるとのこと。これは観光バスで1台分くらいの人数です。
また、入り口に販売エリアもあるので、体験なしでも綺麗な飴細工のお買い物を楽しむことができます。
1代で飴細工集団「アメシン」を築いた手塚新理さん
「アメシン」代表の手塚さんは20代前半で「アメシン」のお店を持ち、前職は花火職人(!)という経歴の持ち主。また手塚さんが飴細工師を志したころには専門にしている職人はほとんどおらず、飴細工については独学で勉強したといいます。手塚さんと「飴細工」について聞いてきました。
手塚:もともと子どものころからものづくりが好きで、放っておくと何か作っているような子どもでした。なので、ずっとそういう世界で生きていくんだろうなぁと思っていました。中学卒業後は国立高専に進学し、在学中にもっと刺激のあるものづくりがしたくなり「花火師」を志しました。とりあえず在学中に火薬の国家資格を全部取り、学生のころから花火師の門をたたいてアルバイトで花火師をやってました。
―― 学生花火師……もうその時点で経歴面白いですねえ。かっこいい。
手塚:夏休みはシーズンなのでずっと花火を打ってましたね。学校をサボって花火を打ちに行ったりとか。卒業後はそのまま花火師の道に進んで就職しました。でも職人の世界のものづくりに憧れて、実際に花火師になったんですけど、花火って大量生産、大量消費の世界で場所によっては外国産や中国産の花火がほとんどだったり、たくさんの花火が上がり賑やかだけど「花火」というもののクオリティー自体はそこまで問われていないのではと思うようになったんです。それで自分がしたいものづくりとは違う気がして花火屋を辞めてしまいました。
花火師から飴細工の道へ
手塚:花火屋を退職し、いったん花火からは離れて打ち込める面白いものづくりはないかなと探し始め、昔から気になっていた飴細工を思い出しました。でも興味を持って調べ始めると、当時は教わるような環境もなく、言い方は悪いけど絶滅寸前みたいな状態で飴細工をしっかり本業としてやっている人がいないような世界でした。
―― 意外です。浅草とかも何軒もありそうなイメージあるのに。
手塚:お祭りとかになると屋台が出るから、そのイメージでしょうね。お店を持つ前はイベント出張をして、昔ながらの飴細工の実演を行ってたんですけど、「東京から来た」と言うと十中八九「浅草から来たの」と聞かれました。その時浅草には一軒も飴細工屋はなかったのですが、「東京で飴細工=浅草」というイメージがあったんでしょうね。でもその状況ってある意味チャンスだなと思って。飴細工ってみんな結構存在は知っているもので、なおかつ自分が興味を持って魅力的だと思うものなのに、ちゃんとやっている人が少ない、競合らしい競合がいない分野だったんです。
―― そこから独学で勉強を……独学で勉強されてる時ってどういう生活だったのでしょう。
手塚:とりあえず花火師を辞めてからは1年くらいこもって研究していました。完全にこもっていたのはそのうち半年くらいですね。最初はイベントに出張で出向いて実演をする仕事からスタートしました。でもいきなりそれでご飯は食べられないので、平日昼はデザインの仕事、夜は配達の仕事で週末は飴細工屋さんというトリプルワークの生活を2年くらいしていました。お店を構えたのは24歳のころで、5年ほど前なんですけど、徐々に他の仕事の割合を減らしていって店を出す直前くらいには飴細工でごはんが食べられていました。
―― 下積み期間ってことですね。そして念願の店舗を浅草にオープンした。
手塚:依頼を受けてイベントに行くという仕事はすごく受け身なんですよ。それだとあまり広がりがないなと思って、飴細工を見に行きたいと思った人が常に見に来ることができる場所が必要だなと思った。なのでどこかにお店を構えたいと考えた時に、イベントの職種の仕事をしているうちに増えていた浅草下町の知り合いづてで、引き寄せられるようにして地元の人が物件を紹介してくれたんです。それで1店舗目をオープンすることができました。
―― おお、浅草を選んだというか浅草に選ばれたようなエピソードですね……。
力を入れたいことは「文化を作ること」
―― これから手塚さんが考えている展望についても教えてください。
手塚:いろいろ考えてはいるんですけど、現代は伝統工芸といったものが失われていっています。でもせっかく魅力があって何十年、何百年も続いたものが失われていくのはもったいないですよね。飴細工の世界に限らず、もっといろんな日本のものづくりが盛り上がってほしいと思うし、そのためには職人がそれで食べていけなければならない。職人の世界でものを作っている人たちが稼げて、しかも「かっこいい」って思われるものじゃないと、誰もやりたいと思わなくなってしまう。だから自分自身も、職人としてものづくりに携わる人たちのスタープレイヤー、憧れることができるような存在にならなければならない。そういうのがないと、次の世代の子供達もやりたいと思わないわけですから。
そのために今弟子の育成にも力を入れていて、現在は8人弟子がいます。実際に造形物を生むというだけではなく、飴関連のお土産製品など、弟子たちのレベルに応じて作れるようなものを開発したり、体験教室も私でなくても回せるようにしたりと、学びながら職人が食べていける環境を作っています。そんな中で自分が飴細工の業界以外でも何かお手本になればと考えてやっています。ただ、これはまだ途中だと思っていて、例えばまた世界で何かできれば、日本国内でもそういう活動をしてみようかと思う若い世代の子が出てくるかもしれない。そんな流れや文化を作っていくことが、今後1番やらなくちゃいけないことだと思っています。
「浅草 飴細工 アメシン 花川戸店」
オープン日:2018年6月17日
所在地:東京都台東区花川戸2-9-1 堀ビル 1F
営業時間:営業時間:10:00〜18:00
定休日:毎週木曜日(臨時休業有り)
アクセス:各線浅草駅より徒歩約5分(つくばエクスプレス浅草駅からは徒歩約10分)
(ちぷたそ)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ひらひらと舞う1000匹の金魚 すみだ水族館の金魚づくしの夏まつり「東京金魚ワンダーランド」7月10日から
夏の風物詩になりそう。 - 無色透明のネバネバが美しい金魚に変わるまで 飴細工の妙技に触れられる「飴細工・アメシン」に行ってきた
伝統工芸のひとつである飴細工を身近に! - 金魚やカエルがまるで生きているみたいな飴細工 「浅草 飴細工 アメシン」が東京ソラマチに出店!
飴細工って美しい……! - 豪華絢爛な“国宝級”の「猫」作品 百段階段「猫都(ニャンと)の国宝展」で時空を超えてきた
歌川国芳や河村目呂二の猫作品も。 - ひらひらと舞う1000匹の金魚 すみだ水族館の金魚づくしの夏まつり「東京金魚ワンダーランド」7月10日から
夏の風物詩になりそう。 - えー、毎度ばかばかしいお笑いを……じゃなくてガチャを 落語業界公認「落語ガチャ」登場
おあとがよろしいようで。