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これ「働かせたい言葉」? 阪急炎上「はたらく言葉たち」批判殺到の理由を考える

働くことを熱く語ればOKというノリは過去のものではないかと。

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 阪急電鉄の広告ジャック企画「ハタコトレイン」が炎上し、中止になった問題で、ネットの批判は企画のもとになった「はたらく言葉たち」にも向けられています。

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中止になった「ハタコトレイン」(ニュースリリースより)

 中止に追い込まれた「ハタコトレイン」は、企業ブランディングを手掛ける「パラドックス」(東京都港区)と阪急電鉄がコラボした企画。パラドックスがまとめた書籍『はたらく言葉たち』から選んだ言葉を車内広告として掲出する──というものでした。ニュースリリースでは「平成の時代に紡がれた働く人々の熱い言葉たちを、新しいワークスタイル(仕事=志事)を再発見するきっかけとして令和の新時代に提供いたします」と意気込んでいました。

 その1つとして列車内に掲げられたのが「毎月50万円もらって生きがいのない生活、30万円だけど仕事が楽しい生活、どっちがいいか(研究機関 研究者/80代」という言葉。これがTwitterユーザーによって投稿されると、「やりがい搾取」「若い世代の給与を知らないのか」など批判が集まる事態に。Twitterのトレンドに入るなど、結果的に大いなるレピュテーション(悪評)リスクを取りに行ってしまった形の阪急電鉄は企画を取り止めることになりました(関連記事)。

 同時に注目を集めたのが「はたらく言葉たち」という企画です。企画主のパラドックスによると、

会社の中核を担う社員様のヒアリングの中で毎回のように紡ぎ出されるのは、働くことにまつわる名言たち。これを自分たちだけで、とどめておくのはもったいない。この言葉を、もっと多くの人に届けることで、働くことにやりがいや誇りを見出だすきっかけにならないだろうか

──と、こうした“言葉”をまとめて発信しているのだそうです。阪急の車内に掲示したのは「選りすぐった熱い志を持って働く人々の言葉」(ニュースリリースより)とのことなので、前出の「毎月50万円〜」という言葉は選りすぐられたものだったということになります。

 この「はたらく言葉たち」ですが、Twitterを見ると阪急電鉄の企画取り止めが発表された後も批判が収まっていません。サイトではリロード(更新)するたびにさまざまな“言葉”が現れるのですが、その中でも、

甲子園に行きたかったら、

朝から晩まで、土日だって練習するでしょう。

でも、社会に出たとたんに、それは「ブラック企業」になってしまう。

人材サービス/経営者・50代

仕様書どおりにつくる

エンジニアはいらない。

まだ世の中にないものを、

作ろうとしているのだから。

半導体製造装置メーカー/経営者・60代

上司がイケてないって?

その上司にちゃんと向き合えていない

お前がイケてないんだろ。

飲食/経営者・40代

──といった“言葉”への強い違和感がTwitterでは多く投稿されています。

 確かに、「社会に出たとたんに、それは『ブラック企業』になってしまう」って「そりゃそうだろ」としかいいようがありませんし(野球にもルールがあるように、社会にもルールがあるのだから)、むしろ「仕様書どおり」にきっちりと作るエンジニアは尊いものだと思いますし(仕様書通りに作らずに取引に穴を空けたらこの人許してくれるのでしょうか)、上司ガチャに失敗したのは部下の責任だと言われましても──といったところでしょうか。

 共通しているのは「経営者」、使用者側の言葉だということです。問題の「50万円〜」もそうですが、「はたらく言葉たち」というよりは経営者にとって都合のいい言葉、つまり「働かせたい言葉たち」、あるいは「働かせたいものたちの言葉」として響いてしまっているのではないかと思います。

 もちろん経営者も「働く人」なのですが、働けば働くほど、リスクを取れば取るほど大きなリターンを得られる可能性がある経営者の視線を、裁量も報酬も限られたサラリーマンに当てはめたところでちぐはぐになるのは当然で(いわゆる「社員も経営者目線で」なんて経営者と同じ報酬を約束しない限り無理ですよね)、これを「熱い言葉たち」などと気軽にくくってしまった無理がたたったということではないかと思われます。仮に同じ言葉でも「誰が言ったか」で捉え方は変わりますよね。

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言葉は「誰が言ったか」で捉えられ方が変わってくる(「はたらく言葉たち」Webサイトより)

 もちろん、「はたらく言葉たち」には経営者だけではなく、若手ビジネスパーソンなどの言葉も収録されています。中には被雇用者としてもいいこと言ってるなと思えるものはあるのですが、口当たりのいいものの中にちょいちょい「本当に言いたいこと」を挟んでいくやり方はライトな思想PR手法のあるあるでもありますし、コンサル会社がお金をもらう相手が誰なのかということも考え合わせ、この企画全体に何やら近づきがたい雰囲気が漂ってしまうのだろうと思われます。

 東京都港区あたりのきれいなオフィスで働いている人にはいまだにピンと来ていないのかもしれませんが、「働くこと」は「令和の新時代」にはかなりセンシティブな問題なのだと思います。東京のコンサル会社の「熱い言葉」に乗った結果、真偽不明ながら「社員だが30万円も給料もらってない」という苦言がTwitterでつぶやかれてしまうことになった阪急電鉄ともども、反省したり、考えたりすべきことは多そうです。

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