パパ活、整形、ホス狂い―― “夜の街”が熱狂する漫画「明日カノ」作者×オタクホスト「阿散井恋次」対談
リアルすぎる描写で大人気の『明日、私は誰かのカノジョ』。作者の「をのひなお」さんと現役ホストの「阿散井恋次」さんが本音トークを繰り広げました。
いま、“夜の街”で圧倒的な人気を誇る作品――それが漫画『明日、私は誰かのカノジョ』です。「サイコミ」で2019年5月に連載が始まるとじわじわと話題になり、半年前に4章「ホスト編」に入ると大ブレイク。直近1カ月では更新するたびに平均3700件以上のコメントが寄せられ、サイコミの中でもダントツ人気となっています。
彼女代行として日々お金を稼ぐ女子大生と彼女に魅せられた男達の“恋愛”を描くビターラブストーリーとして始まった本作。章ごとに主要キャラが変わり、さまざまな「カノジョ」が登場しますが、ポイントは“妙にリアル”なこと……。
今回、ねとらぼでは最新5巻の主要キャラが「ホス狂い」ということで、ホストの阿散井恋次さんと、作者のをのひなおさんの対談を企画。サイコミの担当編集・梅崎さんも同席の上、どのようにリアルな作品を生み出しているのかを聞きました。
(取材:大原絵理香 編集:高橋史彦)
もともと人気でしたが、整形依存のあやなと美容男子の翼が出てきてからの“加速”がすごいですね。
キャラクターはもちろんなんですが、引きの強いネタやパワーワードをちりばめた方が反応がいいので、どんどん取り入れていったのが良かったのかな……と。結果どんどん過激になってしまいましたが(笑)。
2019年5月に連載が始まって、1巻の発売日に1話をツイートしてもらったらバズったんです。でも、そこからすぐにサイコミの読者が増えるとか、コミックスが売れるとかはなくて。
だから、最初は打ち切られないようにしないとね〜なんて言っていたんですが……。
最近だと更新日には25万人以上が来てくれます。ありがたいことです。
すごい……! もうサイコミの柱ですね。「明日カノ」は、他のサイコミ作品と比べても、コメント数が桁違いですよね。いいねもカンストしていましたし……。そんなことあるんだ(笑)。
3章まではその界隈の人――例えば、パパ活や整形の経験者が中心になって盛り上げてくれていました。4章以降はさまざまな夜の街関係者がコメント欄に集結していて、もうカオスになっています。
バラエティに富んでいます。でも、大切な読者の方同士で殴りあうのは困るなぁって……。キャラクターがディスられるのは全然いいんですが「喧嘩はやめてー!」って担当さんといつも言っています(苦笑)。
あとは「意味深なメッセージがあるんじゃないか」とか、作者はこのキャラクターが好きなんでしょ、嫌いなんでしょ、このキャラクター肩入れしてる、といったコメントをもらったり、またそこでバトルが巻き起こったりして……。でも、全くそんなことはなくて。みんな平等です。
議論が巻き起こるのはいいことだと思いますが……多分その要因の一つが、リアルすぎるんじゃないかと。一体どこまでリアルなのかをぜひ聞きたくて、今回は池袋のホストクラブ「Aravan Lilian」の阿散井恋次さんと一緒にお話を聞かせてください。……ようやく来ましたね(笑)。
ごめんなさい! ○○していたら遅くなってしまって(笑)。
【遅くなって】実際に15分くらい遅れてきた
絶対ウソだ……。
ごめんなさい、ウソです! じゃあちょっとえらそうに仕切っていきますが、をのひなおさんは実際にホストクラブに行くんですか?
個人でハマったことはないですね。若い頃に初回に行くことはありましたが……。
【初回】初めての店に行くこと。多くのホストクラブでは初めてのお客さん向けに割引コースが設けられている。
じゃあ、ゆあてゃのようなホス狂いではなかったんですよね?
はい。そうですね。
僕の一番聞きたいところってそこだったんですけど、僕の指名の女の子が「明日カノ」をみんな読んでいるんですよ。「分かるー!」って共感している子も多くて。この人一体何者なんだ? って話をしていて。で、ホス狂い編が始まってからはさらに「めっちゃくちゃ分かるー!」って(笑)。
心理描写までここまでリアルに描くのってめちゃくちゃすごいですよね。
そう言ってもらえるとすごいありがたいです。私はパパ活女子やキャバ嬢、ホストに通う方、みんな普通の女の子だと思っていて、だから感情もいまのところうまく描けているのかもしれないです。
それぞれに取材をするんですか? パパ活女子、整形依存、ホス狂いとか。そういえば、整形の話もめちゃくちゃ共感していました(笑)。
お店とかには取材しますが、姫に直接聞くことはないですね。でも、3章の整形については自分自身の経験に基づいています。私が初めて整形をしたのが2016年頃なんですが、そのあたりからあやなのように整形情報の収集アカウントは持っていて。だから説得力があったのかもしれないですね。
逆にそれ以外はある種、想像ってことですもんね。すごいなー。
そういう意味でいうと、打ち合わせの際に我々が気を付けているのは「これはリアルか、リアルじゃないか」です。
その判断はどうやってしているんですか?
こういう人間がいたらどういう行動をとるか、逆にどういう行動はとらないのかを経験則に基づいて描いていますね。例えば、萌が初めてゆあてゃに連れられてホストクラブに行ったとき、面白くないと感じたのは、取材で初めて行ったときに思ったことなんですよね。
あとは、ホストにハマったことのない萌だけど、多分ホストさんにこんなことをされたら私だったらハマるな……っていうものを描けばいいだけだから、想像し得る範囲なんですよね。私たちもそれなりに歳を重ねてきているので、そういう年齢に伴う経験が生きているのかな、とは思っています。
取材すればよりリアルになるかもですね。うちのお店とか全然来てくれていいですよ(笑)。
それでいうと、店舗の取材はもっとしたい! でも、お客さんの取材は怖いですね……。こないだ知人から「お店にゆあてゃのモデルの子が来た」と聞いて。特定の子をモデルに描いていないから、え?? となって。
「『明日カノ』の次の展開はこうなるって作者から聞いた」という話もありましたね。でも、それは僕たちしか知らないし、僕たちは誰にも話すことないし……。
あと「をのひなお」がどんな人物なのかうわさがあるみたいなんですが、章ごとにステータスが追加されていくんですよ(笑)。
そうそう(笑)。明日カノのテーマは、「1章:レンカノ」「2章:パパ活」「3章:整形」「4章:ホス狂い」なんですけど……。
最初は私が元レンカノ、パパ活女子だったってうわさから始まって、その次は整形アカを持っている整形マニア、さらにその次は某ホストクラブの準エースとなっているらしくて(笑)。
【準エース】ホストを指名しているお客さんのなかで2番目にお金を使っている子のこと
この世界のことをこれだけ知っているなら、実際に体験しているはず……と思われているのかもですね。
なぜか描写がエグすぎるから作者はおじさんとか、最近だと現役の学生なんじゃないかってうわさもあったよね。
現役学生で週刊連載できていたら大変ですよ(笑)。作業量がすごいので。だから、あまり知らない人に話を聞かないようにしようと思っています。
夜の街は怖いから……。うそがいっぱい……。
ホストクラブの怖い話、聞かせてください(笑)。そうそう、怖い話に関して、いま痛マイクの描写を考えているんですが、「痛い、または怖いセリフ」ってありましたか?
【痛マイク】一定額のシャンパンを注文すると「シャンパンコール」が発生し、その最後でお客さんにマイクを渡して「一言」求めるのが通例。その際に「痛いこと」を言うこと
僕、何度も痛マイクされたことがあるんですが(笑)。例えば「靴下裏返しにするのやめてください(ヨイショ)」っていう……。
どういうことですか?
同棲を匂わせているんですよね(苦笑)。
あああああ!
他には「恋次くんのママが作ったごはん、おいしかったでーす!」とか(笑)。当たり前ですが実際はそんな関係ではないです。女の子が悪ふざけでウソを言って被りを切らそうとしたんですよね。もちろん叱りました。
怖いですね。すごい、痛マイクだ! めっちゃいいですね(笑)。それ、作中で使っていいですか?
大丈夫です!
そういうのから発展して、お客さんと言い争いになることってあります?
うーん。言い争ったり、いい関係性を築けていないホストは、結局ホスト側の仕事ができないんですよ。担当は姫の鏡、姫は担当の鏡だから。
名言ですね。
意図的に争いごとを作って競争心だったり、執着心だったりを煽って売り上げをあげるホストもいるんですが、そういうときはお客さんとの関係は長続きしないし、炎上しやすいホストだと思います。
なるほど。ということは、はるぴはホストとしては二流ってことかあ。でも、確かに一流のイメージでは描いてないですね……(笑)。
少し話が変わるのですが、「ルッキズム」について聞いてもいいですか。本作では、雪はアザにコンプレックスがあって、あやなは整形を繰り返して、翼は男性でメイクをしていて……。「見た目とその評価」に焦点を当てている印象があります。そういうことは意識しています?
【ルッキズム】容姿の美醜によって人を評価し、身体的に魅力的かどうかで差別的な取り扱いをすること。外見至上主義とも訳される。
個人的にはそれをフォーカスしたのは、「3章のあやな」のみだと思っているんですが、読者からは雪もそうだし、「パパ活をやっているリナがかわいすぎる!」とか、ルッキズムをテーマにしていると言われがちではありますね。
ちなみに、ご自身としては外見のプライオリティが高めなんでしょうか。
私もやっぱり多くの女性と同じく見た目の良しあしでいろいろ言われた経験があって。特に引きこもり時代に体重がいまより16キロくらい太っていた時があって、周りの反応が全然違ったんですね。その後痩せて、キャバクラで働いたらそこでもまたアレコレ言われることが多くてがくぜんとして……。それから整形するようになって……外見はやっぱり気にしちゃいます。
コンプレックスが芽生えたのは大人になってからだったんですね。
そうですね。それで、一度整形をしてみたら、コンプレックスをお金で解決できることが分かって。この話はまさに3章で描いているんですが、「ここが嫌だな」「ここをこうしたい」みたいなのを全部お金が解決してくれるんです。「ほうれい線を1センチ引き上げるのに何十万もかかって、ダウンタイム中の痛みと失敗のリスクもある」って言われても、本当に気になっているならやる価値がある。
「顔のパーツが1ミリ違えば生き方すべてが変わってしまう」ですね。
はい。本当にその1ミリのために命をかけているんです。でも、必ずしも自分の理想が、他者からの評価とイコールではない。
整形は自分との戦いですからね。でも、「前の方がよかった」とか言われると「うるせー!」ってなっちゃいますよね。
そうですね(笑)。私は八重歯がコンプレックスで、歯を8本抜いて歯列矯正をしたんですが、そしたら元カレからは「前の方がよかったよ、(八重歯が)なくなったのは寂しいね」って言われたんですが、「じゃあ前のゴリラみたいに歯が出た口元と、いまの口元、どっちが好きになるんだ?」って突っかかりましたもん(笑)。
あやなも「見た目を良くして何が悪いの? (私が)デブスでも抱けるわけ?」と言っていました。
それは当時の私の気持ちが出ていたと思うので、一番リアルな描写かもしれないです(笑)。
次の整形も考えているんですか?
ちょっと前までは、ルフォーをやろうと思っていたんですが、この仕事(連載)をはじめてから冷静になってしまって。「ちょっと妄信的になっていたのかな」と省みています。いまは容姿以外にも仕事も含めていろいろ楽しいことあるよなって考えていて。
【ルフォー】顔の骨を切り縦方面に短くする整形手術のこと
いい話ですね。作品がこれだけヒットすると、プレッシャーや忙しさも相当なんじゃないですか。
そうですね。本当に読んでくれる皆さまのおかげだと思います。忙しいんですけど、ストレスがたまらないようには気をつけていますし、基本、土日は休んでいます。
週刊連載なのに!?
休めるようにスケジュール管理しています。その代わり平日は会社に来てもらって、すし詰めで頑張ってもらっています。
すごい! 管理って、ホストと一緒だ(笑)。
【管理】お客さんにお金を使ってもらえるよう、ホストがお客さんの出勤を管理したり、お金を管理すること
そうなんですか?
ホストも、例えば「(お客さんが)地方へ出稼ぎに行く」となったら、新幹線のホームはもちろん、なんならお店まで同行して。「頑張ってこいよ」って送り出して、帰りも迎えに行く。それで、そのまま同伴です(笑)。
ホスト、怖い(笑)。
でもそうですね、話を聞いているとちょっと近いところもあるのかなって思って……恋次さん、漫画編集者やりません?
唐突なスカウト来た(笑)。
ホストって、めちゃくちゃ漫画編集者向いているなと(笑)。コミュニケーション能力あるし、メンタル含めてフォローできるし、たぶん原稿回収もちゃんとやってくれる(笑)。
僕らも、売掛を必死に回収するんで(笑)。本当に四六時中連絡を取り合って、関係性を築かないといけないので大変でしょうが……。
【売掛】ホストクラブで使った代金をツケにすること
それこそお手のものじゃないですか! ぜひ真剣に考えてください!
分かりました(笑)。
スカウトの話でなんとなく一段落ついたので、そろそろ終わりにしますか。最後に聞きたいんですが、「ホスト編」の結末は見えているんですか?
そうですね。いつも章のプロットとラストをまず決めて、それに沿って描いているんです。だから今回の流れは既に決まっています。いま一番考えているのは「次の章をどうするか」ですね。
めちゃくちゃハードルが上がっていますからね。
ホント「それな」です(笑)。章が進むにつれてどんどん強烈な話になっていますし、担当さんとはその度に「次はどうしよう」って話していました。もっと強いエピソードがほしい……! 恋次さんには今後もお話伺いたいです。
もちろんです! ぜひいつでも!
をのひなお先生と阿散井恋次さんはこの後すっかり意気投合し、後日、恋次さんがネームを添削したり、恋次さんのバースデーイベントに取材に行ったとのこと。ホストのネットワークが強化されたことにより、明日カノがよりリアルに、よりエグくなるかもしれません……。怖い……。
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