ちらほらと見ごろが訪れはじめた紅葉の季節。色づいた葉が秋晴れの空に映える様は、何度見ても美しいものです。ところで、野山で紅葉を観賞することは、なぜ「紅葉狩り」とよばれるのでしょうか。見るだけなのに「狩り」という理由を、『新明解国語辞典』『大辞林』などの出版で知られる三省堂に聞いてみました。
なお、※印の部分は、出典元の書籍を後述しました
「紅葉狩り」はどうして「狩り」というのか
―― そもそも、紅葉はなぜ「モミジ」というのでしょうか?
三省堂 辞書出版部 山本さん(以下、山本さん): 「紅葉・黄葉する」(※1)という意味の古語「もみつ」に由来するといわれます。「動詞『もみつ』の連用形が名詞化したもので、奈良時代は『もみち』と清音だった」(※2)そうです。「もみ出す」や「もみ出づ」を語源とする説もありますが、動詞「もみつ」からの派生とすると、これは成り立ちがたいものです。ただし、「もみつ」の語源は不詳です。
※1 村松明編『大辞林』第4版(三省堂、2019年)
※2 小松寿雄・鈴木英夫編『新明解語源辞典』(三省堂、2011年)
―― 紅葉狩りは、なぜ生き物を「狩る」わけではないのに「狩り」というのでしょうか?
山本さん: 特定の解に行き着いているわけではないのですが、「狩り」の語源は「追い立てる」の意味の「駆る」が名詞化したものと考えられるので、鳥や獣を追い立てるのと同様に、花や紅葉などの美しいものを追い求めるという気持ちのあらわれがあるのかもしれません。
ちなみに、『暮らしのことば 新語源辞典』(※3)の「紅葉狩り」の項目には、以下の説明があります。
「狩り」は、もともと山野で鳥や獣を捕えることだが、山野に分け入って薬草などを採取することもさし、「薬狩り」という朝廷の行事も上代から存した。このような用法がさらに、植物等を採るのでなく、その美しさを鑑賞する場合にまで及んだものであろう。
※3 山口佳紀編『暮らしのことば 新語源辞典』(講談社、2008年)
―― 「紅葉狩り」という言葉はいつから使われていますか?
山本さん: 『日本国語大辞典』(※4)の「もみじがり」の項には、1310年ごろ成立の『夫木和歌抄』の用例があります。また、室町時代の能楽師、観世信光(1450-1516)の作品に「紅葉狩」がありますので、このころには完全に定着していたと考えられます。
なお、同じく『日本国語大辞典』の「さくらがり」の項には、平安時代中期の物語『宇津保物語』(970-999頃成立)からの用例がありますので、「紅葉狩り」と同様の用法が平安中期にはすでにあったことになります。
※4 日本国語大辞典第二版編集委員会『日本国語大辞典』第2版(小学館 2003年)
―― 「紅葉狩り」に似た用法の言葉はありますか?
山本さん: すぐに見つかるところでは「桜狩り」「蛍狩り」があります。それぞれ、春の季語、夏の季語でもあります。ちなみに、「紅葉狩り」は当然、秋の季語ですね。
おなじみの季節の風物詩にも、長い歴史があるのでした。ぜひこの秋も、美しい景色を追い求めて「紅葉狩り」をしたいものですね。
※取材協力:三省堂
文:近藤仁美(こんどう・ひとみ)
クイズ作家。国際クイズ連盟日本支部長。日本テレビ系「高校生クイズ」「クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?」など、各種媒体に問題を提供する。クイズの世界大会「World Quizzing Championships」では、日本人初・唯一の問題作成者を務める。
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