テクノロジーは「自分を見つけるための可能性」――ケヴィン・ケリー『テクニウム』書評「WIRED」創刊編集長が語る

テクノロジーは、今よりもほんの少し良い未来を作っていく。

» 2014年12月12日 11時30分 公開
[宮本裕人,ITmedia]
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 インターネットやスマートフォン、原子力発電に人工知能……テクノロジーは僕たちの生活を豊かにする一方で、本当の意味で人類を幸せにしているのだろうか。

 SF小説やSF映画の永遠のテーマに対して、『WIRED』創刊編集長ケヴィン・ケリーは、「テクノロジーの良い部分は、悪い部分よりもほんの少しだけ大きい」と言う。彼の著書『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』を読んで、テクノロジーの可能性を信じてみたいと思った。

「紙」と「Web」――2つのテクノロジーを知悉する人物

 先日放送されていたテレビ番組「ニッポンのジレンマ」で、俳人で編集者でもある伊藤寸さんが、1968年にアメリカで創刊された雑誌『ホール・アース・カタログ』を引き合いに出し、「Webも紙から生まれたもの」だと言っていたのがおもしろかった。

 『ホール・アース・カタログ』とは、暮らしに役立つ道具や知恵を、辞書のように索引できる形で並べたカタログである。そういえばスティーブ・ジョブズも、あの有名なスタンフォード大学でのスピーチで「『ホール・アース・カタログ』は当時のGoogleのようなものだった」と言っていたっけ。

(『ホール・アース・カタログ』についての話は13分07秒付近から)

 ケヴィン・ケリーは、1980年代にその『ホール・アース・カタログ』の編集に携わった後に、90年代には『WIRED』の創刊編集長を務めた人物だ。つまり人間が太古から使い続けてきた道具としてのテクノロジーと、1995年以降爆発的に普及したデジタルテクノロジーの両方の世界をよく知っている。そんな彼がテクノロジーのシステム全体を「テクニウム」と名付け、「テクノロジーというものは一体何であるのか」を人類の歴史をさかのぼって解き明かしたのが本書である。

 400ページを超える長い本だが(読むのにちょうど1カ月かかった)、つまるところ彼が言いたかったことは、テクノロジーは進化しながら、今よりもほんの少し良い未来を作っていくということだろう。なぜならそれは、僕らの可能性を拡げてくれるものだからだ。

 もしモーツァルトが生きていたときにピアノというテクノロジーがなかったら、もしゴッホの時代に油絵というテクノロジーがなかったら、もしヒッチコックが映画撮影のテクノロジーがないときに生まれていたら、人類にとってどれほどの損失だっただろうかと彼は言う。テクノロジーは使い方次第で善にも悪にもなり得るけれど、可能性を拡げてくれるという意味で、その天秤は1%だけ良い方に傾いている。それは「自分自身を見つけるための可能性」である。

 「Tech makes possibilities, design makes solutions, art makes questions, leadership makes actions」というジョン・マエダの言葉を思い出す(この言葉はかなり本質を突いていると思っている)。possibility があるからこそ、僕たちはquestionからsolutionを考えたり、actionを起こしたりすることができるのかもしれない。本書を読んでそんなことを思った。

オプティミストが未来を作る

 今年10月、ケヴィン・ケリーが来日した際のイベントで話を聞くことができたのだが、彼は本当にオプティミスト(楽観主義者)だった。彼はイベントの最後に、参加者に向かってこんな質問を投げかけた。

 「もし一方通行にしか行けないタイムマシンがあったら、未来に行くか、過去に行くか」

 彼は間違いなく未来に行くと言い、オプティミストが未来を作るとも言った。僕の答えは過去だったけれど、彼のオプティミズムが少しは移ったのか、彼が本書の中で解き明かした“テクノロジーの可能性”は信じてみたいと思った。

 昔の人はメールのない時代にどうやって女の子をデートに誘っていたのだろうと不思議に思うし、ロミオとジュリエットだって携帯電話を持っていたらあんな死に方をせずに済んだだろうなと思う。Twitterを手にした人々は政治革命までをも起こし、YouTubeは無名のアーティストを有名にすることを可能にしている。

 僕たちは今、歴史上最も可能性のある時代に生きている。その可能性を、テクノロジーの恩恵を存分に楽しむことで、自分の才能を発揮するための“何か”を見つけることができるのだと思う。

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