縦持ちプレイで“ミステリーを読む”感覚でプレイできるアドベンチャー:「アナタヲユルサナイ」レビュー(1/2 ページ)
「アナタヲユルサナイ」はPSPを縦に持って遊ぶスタイリッシュな探偵アドベンチャー。探偵業を仕事と割り切れない、まっすぐな女探偵・竹内理々子になって、浮気調査や奇妙な暗号文の真相を探る。そして次第に明らかになる所長失踪の謎……。感動のラストは必見だ。
縦長の画面を生かしたスタイル
ファミコン期、ジャンルとして確立された「探偵アドベンチャー」も、ハードが進化するにつれ徐々に下火に……。ところが、ニンテンドーDSのヒットで、再び探偵アドベンチャーが見直されてきたように思う。携帯ゲーム機は電車での移動やちょっとした空き時間にプレイすることが多く、凝ったゲーム性よりも、ストーリーを読むことに主眼が置かれる探偵アドベンチャーは相性がいい。今後ますます活躍の場面が増えるだろう。
AQインタラクティブから発売された「アナタヲユルサナイ」は、PSPには珍しい正統派の探偵アドベンチャー。比較的シンプルなシステムで、ライトユーザーや女性層をターゲットにしているようだ。実写のイメージを残した背景と、洗練されたポップなキャラデザイン。探偵アドベンチャーといっても地味さはなく、都会的でおしゃれなテイストを醸し出している。
なんといっても驚かされるのは、方向キーを下にしPSPを縦に持つ、アドベンチャーでは今までなかった仕様。左上のRボタンが決定とメッセージ送り、右下のアナログパッドが、選択肢を選んだり視点を動かしたりする役割を担う。これはユニークな発想だ。
何しろ、ほとんど初めての経験なので、最初はどう持ったらいいか戸惑うと思う。しかし、慣れてくると縦長の画面が持つさまざまなメリットに気づかされる。
普通、横長の画面ではどうしても人物の顔を中心にしたバストアップのイラストになってしまう。しかし縦長は、2人を1画面に並べるのは難しいものの、1人の立ち姿をまるまる描写できる。実際の会話を思い浮かべれば、全身をチェックするのがどれだけ重要か、分かると思う。
会話は顔だけ見てするものではない。手の動きひとつ取ってもいろいろな発見がある。手をポケットに入れていれば横柄な感じがするし、ギュッと握りしめていれば緊張しているのかなあと判断がつく。
身につけているものも相手を知る重要なヒントだ。服やアクセサリーが高そうか安そうかで、その人の生活レベルもなんとなく伝わってくる。このゲームではそうした、私たちが普段何気なく行っている“探り”の行為を会話システムに生かそうとしているのだ。
アナログパッドを上下左右に動かし、目の表情や指輪などチェックしたい部分を観察する。これでその人の性格や考え方もしっかりと把握できるのだ。探偵アドベンチャーは、登場人物が多いため、あとあと「これ誰だっけ?」なんてことになりがちだが、本作は1人1人チェックするので印象が強く残る。縦長の画面は、システム面、また、シナリオを深めるという意味でも機能している。
欲を言うなら、もう少し多くの個所をアナログパッドでチェックできてもよかったかなあと思う。面白いシステムなのに、脇役としてあっさりと使われているのがもったいない。シナリオのデキがいいので、そちらを優先したいというのも分かるが……。
開発は、人気ブログをもとにした「実録 鬼嫁日記」で、すでにアドベンチャーゲームの実績があるツェナネットワークスが担当。ツェナネットワークスには名作サウンドノベル「街」に関わったスタッフも在籍している。シニアプロデュースには、チュンソフトで「弟切草」「かまいたちの夜」を手がけた麻野一哉氏、音楽には「ファイナルファンタジー」シリーズの植松伸夫氏を起用している。制作陣はアドベンチャーファンも納得の布陣だ。
探偵・理々子が暴走する!?
では、注目のシナリオを紹介しよう。主人公は、女探偵の竹内理々子。女性が主人公というのは珍しいが、性格的にもサバサバしていて、男女どちらのプレイヤーでも感情移入できると思う。
――竹内理々子は父親が設立した探偵事務所の調査員。就職するまでの腰掛けのつもりだったが、意外と性に合っていたみたいで、5年間探偵として浮気や身辺調査に当たってきた。
ある日、浮気調査の依頼を受けた理々子。最初はよくある仕事だと思っていたが、わがままな依頼人の静香の態度に憤慨し、浮気を疑われる彼女の夫・神谷に同情する。
「あれだったら浮気したくなるのも当然よね。でも……たぶん、手は抜けないわ」。
理々子は探偵のルールを破ってターゲット本人に直接接触しようとし、職場の上司でもある夫の草薙に怒られる。
「いいか、おまえのやり方は絶対に認めないからな。おまえがやってるのは探偵ごっこだ!」
そう言われても自分なりの手法で調査を進める理々子。やがて、浮気の裏側に潜む、意外な闇に気がついた……。
1章「SATIN DOLL」を皮切りに、全5章で構成される本作。2章以降、探偵事務所の所長である父の武雄が行方不明となり、夫の草薙にも別れを告げられてしまう。
求心力を失った事務所は次々と調査員が辞め、残ったのはゲイの調査員・木崎ユウジと、事務の佐藤真弓、理々子の3人だけ。理々子は探偵業と所長探しをどうにか続けていく……。
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