ガシャポンに宿る友情――ポケモンがつなぐもの矢野渉の「金属魂」Vol.7

PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。第7回はポケモンフィギュアの思い出だ。

» 2009年12月25日 11時11分 公開
[矢野渉(文と撮影),ITmedia]
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唯一の共通言語は初代ポケモン

 昔から子供が苦手だ。赤ん坊を抱くことはできるが、「あやす」ことができないのだ。意思疎通のできない生き物をどう扱ったらいいのか、僕はいつも途方に暮れるのである。

 自分に娘ができてからも、それは変わらなかった。自分の子供はもちろんかわいい。愛情もあるつもりだ。お風呂に入れたり、抱いて寝かしつけたりもする。でも、それ以上何をすればいいのかが分からない。僕は無言で娘を見つめているだけだった。たぶん、娘の目には、僕はただただ怖い存在に映っていたはずだ。

 そんな時、突然、ポケモンブームが始まった。娘が小学校1年生だったから、1997年のことだ。

 任天堂を始めとする小学館(コロコロコミック)、イトーヨーカドー(コロコロショップ)、そしてテレビ東京(アニメ)の包囲網はすさまじく、子供を持つ親や祖父母から金を“税金”のように上納させた。ゲームソフトにとどまらず各種のキャラクター玩具やCD、ビデオなどがこれでもかと発売され、そのどれもが売れていたのだ。

 なにしろ初代ポケットモンスターは151匹のキャラクターがあるので、そのフィギュアを集めるだけでも大変だ。加えて、人気のあるキャラは数種類のパターンが発売されるため、それを追いかけて購入することになる。また、時々「波乗りピカチュウ」などの「限定品」がそれに混じる。当時は娘にねだられるままに買っていたが、今考えるとかなりの出費だった。

 でも娘と同一言語をもてることが、ひたすらうれしかった。そのころの名残りとして、今も僕の部屋には原寸大のピカチュウ(体長60センチ。ゲームキャラに忠実な初代)のぬいぐるみがある。

 もちろん僕自身もゲームに熱中した。娘はポケモンの赤、僕は緑、と分けてプレイしていた。普段はゲームなどしない僕が、このゲームにだけはのめり込んだ。

 40がらみの男が電車の中でプレイするのには、色々と気を使う問題があった。まずゲームボーイポケットは渋い銀色のものを使う。レアなポケモンをゲットしてもガッツポーズはしない、などだ。

 時間をやりくりしてゲームを進めていたが、やはり娘の進度に遅れはじめる。ゲットしたポケモンの数が全く違うのだ。そこで僕は受け狙いを始める。誰も持っていないようなポケモンを作ろうとしたのだ。

 まず、捕まえたピカチュウを鍛える。ライチュウには進化させない。がんばってレベル100まであげる。そして必殺技は「じごくぐるま」だ。この極悪ピカチュウは近所の子供にけっこう受けた。

 また、イベントではなく、自力でミュウを捕まえる方法はないのかと考え(今ならDSダウンロードで手に入れられる……)、娘に聞くと「セキエイ高原で50回連続勝利すると、オーキド博士がミュウをくれる」って言うから、ほんとに50回行ったさ。レベル100ピカチュウとギャラドスで、出てくる敵をほとんど粉砕した。でもオーキド博士は「おめでとう」と言うだけで何もくれなかった……。

 ある日、お向かいの家で遊んでいた娘が泣きながら帰ってきた。手にはゲームボーイポケットがある。理由を聞くと、電源のオン/オフのときにどういうタイミングなのか、データが消えてしまったらしい。「つかまえたポケモン 0」の文字がむなしく表示されていた。

 娘の気持ちは痛いほどよく分かる。僕は自分のゲームボーイポケットを取りに行き、電源を入れた。

 「お父さんもデータを消すから、また2人で最初からやろう」

 そして『さいしょからはじめる』の選択ボタンを押し、ゲームをはじめた。

 さよなら、僕のピカチュウ……。


そして訪れたサプライズ

 そのころ出入りしていた編集部でも、ポケットモンスターはブームだった。雑談の最中に、このデータが飛んだ話をした時のことだった。編集部のF氏はちょっと考える仕草をして、編集部員にこう促した。

 「みんな、こういうことなんで、あれを全部だして」

 「これを」と言って僕の手のひらに乗せられたものは少し冷たく、重みのあるものだった。

 「これを娘さんにあげますから、元気を出すように言ってください」

 それはガシャポンのポケモンフィギュアだった。鋳型に流し込んで作ったものは、確かこのシリーズだけだったように記憶している。当時の編集部で、皆が競うように集めていたものだ。

 泣けました。娘より僕のほうがうれしかった。おじさん、もう涙で前が見えない。

 人生の中の感動的なひとコマに金属がかかわることによって、またひとつ味わいが深くなる。そして金属は、決してその輝きを失うことはないのだ。

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