映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」レビュー ゲームを、フィクションを、人生をここまで愚弄する作品を私は他に知らない(2/2 ページ)

» 2019年08月10日 11時00分 公開
[将来の終わりねとらぼ]
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 例えば占いババがラストの合戦に参戦し、主人公の目の前でモシャスを解いてフローラに戻る。主人公を更に苦しめるための手段としてゲマが映像を見せつけるなど、である。

 これは何のきっかけもなしにゲレゲレの正体に気が付く主人公のシーンにもいえる。幼年期、屋根のうえに登って姿を消したベビーパンサーと同じ行為をキラーパンサーがとる、といったような描写を入れれば、原作のようにリボンがなくても少なくとも作中の違和感はグッと減ったはずだ。


 本作はとにかく随所に「ファンは知ってるだろうからこの程度でいいだろう」という、それこそ「副読本」に甘んじた手抜きが感じ取れる。幼年期の主人公に会いに行くシーンについても、もっと言うべきセリフが原作にはあるだろう? 天空の剣に「ダイの大冒険」オマージュを入れたりする前に、原作を大切にしていただきたい。

 更に細かいところでは「V」以外のBGM、例えば同じく天空シリーズである「IV」「VI」からの選曲は許すとしても他シリーズからの使用が目立つ。使用曲を被らせないようにする工夫かと思いきや、序曲を何度も流す。それなのになぜか妖精の国での専用BGMは使用されず、エンディングで流れるのはご丁寧に「II」の名曲「この道 わが旅」である。

 何よりラスボスに切りかかるための武器は「仲間たちとの思い出」であるはずだが、本作のそれは極めて劣悪なダイジェストだ。さらにその象徴として使用する武器は本作に一切の関係がないロトの剣である。パパスの剣どころか、天空の剣ですらない。


 キャラアニメーションについても同様だ。モデリングには確かに力が入っているものの、そこかしこで入る山崎色の「おどけ」の演技に拍車が掛かる。本ゲームがプレイ前にプレイヤーの記憶を消してゲーム世界に放り込むのは当然だ。記憶があったらゴーグルをぶん投げている。


5年ぶり2度目の涙

 本作の総監督・山崎貴は本作をして「ゲーマーに対する愛を伝えたい」と語っている。ゲーマーに対する肯定を伝える方法として、文字通りゲームを否定するだけのコンピュータ・ウイルスなどという到底理解に苦しむ仮想敵を登場させなければ表現できない時点で、彼はこのテーマに挑む域に全く達していない。

 歴史あるIPやポップカルチャーに対して誠心誠意向き合う必要があることは、これまでも「ピープルVSジョージルーカス」「レディ・プレイヤー1」といったドキュメンタリー、フィクション作品が提示してきた通りである。これは単純に「愛がある」「原作通り」というだけのことではない。文化として適切な敬意を払っているか、という全く別の問題だ。小手先のアイデアで煙に巻けるようなものではないし、本作をして何かを成し遂げたと考えているのであれば心底救い難い。

 ただ一点評価できるところがある。「感動お疲れさま。これはフィクションだ、現実に戻れよ」という本作の“敵”が語る説教とほぼ同じことを、5年前にしでかした作品がある。「STAND BY ME ドラえもん」というその映画のエンドクレジットでは「NG集」と称して、これまでの物語がすべて作り物であり、ジャイアンは台本を読み、のび太がカチンコを鳴らし、最後はいつものメンバーが「さつえい終り!」のくす玉を割って映画の幕は閉じる。

 この作品を監督したのは押しも押されもせぬ日本映画界のヒットメーカー・山崎貴と、同じく白組所属の八木竜一。偶然にも「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」の監督と同姓同名である。

「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」レビュー 「ドラクエ」となんの関係もない結末 2014年に公開された大ヒット作「STAND BY ME ドラえもん」(画像はAmazon.co.jpより

 本作の隠れたメッセージが、ビッグバジェットを利用して過去の名作を好き勝手に取り扱い、その思い出を人質に観客を劇場に招集し、シナリオをズタズタに切り刻んだ揚げ句、押し付けがましいメッセージと共に全ては冗談だったと笑ってのけるような作品に対するアンチテーゼであるならば、それは大変素晴らしい試みだろう。大いに続けていただきたい。

 ゲームを、フィクションを、人生をここまで愚弄する作品を私は他に知らない。

将来の終わり

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