「月50万使う太客には“獲りやすく”アシスト」「裏側を見たら絶対プレイしない」 元従業員が語るオンラインクレーンゲームの闇と法の未整備(3/4 ページ)
――Bさんはどのようなオンクレで働かれていたのでしょうか。
Bさん:中古クレーンゲーム関連の事業をやっている会社のオンクレ部門で、アルバイトとして数年前まで勤務していました。
――勤務先の雰囲気はどのような感じでしたか。
Bさん:建物内にクレーンが並んでいるという形でサービスが運営されていたのですが、エアコンが壊れていても修理しないので、建物内なのに夏は暑く、冬は寒いのが当たり前でした。またパワハラも日常茶飯事でしたから、アルバイトが連絡なしで飛ぶことも日常的にありましたね。
――筐体の設定についてはどうでしたか。
Bさん:おそらく他社のオンクレサービスよりは景品が獲得しやすかったのではないかと思います。というのも、素人ばかりのアルバイトが調整をしていたからです。アームパワーが強すぎたら下げていましたが、全く獲れない設定にするということはなく、むしろ獲れづらそうなお客さまに対してはアシストもよくしていたと思います。
ただし、複数アカウントを所有しているお客さまや明らかに転売目的のお客さま(配送先の住所が毎回異なるなど)の場合については、多少厳しい設定にしていたかもしれません。
――確率機は導入していましたか。
Bさん:はい、元勤務先でも導入していた「トリプルキャッチャー」と呼ばれる3本爪で景品を持ち上げるクレーンゲームについては、特に有名な確率機として知られていると思います。
――景品の配送について、気になったことなどはありましたか。
Bさん:手違いで景品が在庫切れになってしまった際、メーカーに問い合わせてももう在庫がないような人気景品については、オークションで落札したものをお客様へ発送していました。
従業員からの証言の他にも、ネット上ではオンクレを楽しむプレイヤーからさまざまな報告が上がっています。
筆者が注目したのは2020年12月に発生した2件のトラブルで、景品獲得後に「こちら賞味期限が過ぎております為、ご賞味の際は十分ご思案頂きますようお願い申し上げます」との注意書きが添えられたお菓子が届いた人には、「常識としてありえない」「ひどすぎない…?」と、同情の声が多数集まりました(後に運営会社から謝罪と補償等の提案及び再発防止の徹底についての連絡があったとのこと)。
そして「獲得景品が1年以上にわたって届かない」と訴えるユーザーに対して、運営会社が「時間経過のため事実確認ができなかった」と補償を行わない旨が通知されたという事案については、該当ユーザーがTwitter上で助けを求め、結果的に運営会社は謝罪し、獲得までのポイント返還を申し出るに至りました。
経済産業省関東経済産業局と消費者庁表示対策課を取材
このように、問題が表面化するまでは運営会社のやりたい放題な対応が目立つオンクレ業界。関連する法整備については一体どうなっているのか、ねとらぼ編集部では経済産業省関東経済産業局と消費者庁表示対策課、そして消費者問題に詳しい弁護士に話を聞きました。
関東経済産業局によると、「必要事項を正しく明記すること」「広告内容に正しい表現を用いること」といった広告に関連する決まりは存在するものの、それ以外(編注:ゲーム内容や景品など)でオンクレを規制する法等は整備されていないのではないか、とのこと。
また消費者庁表示対策課は、「景品表示法の中で、景品類の上限額や総額に関する規制を行っている」としつつ、「オンクレにおける『景品』は、法規制を受ける『景品』にはあたらない」とのこと(※)。あくまでも、クレーンゲームは「クレーン操作をすること」が課金の主たる目的であり、その過程で獲得できる景品については規制の対象外となるとの認識なのだそうです。
(※)法律で定められている「景品類」とは「顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する物品、金銭その他の経済上の利益」を指すため。
また、利用規約等を盾に、「筐体のクレーンが正常に動かないのに補償をしない(明らかな不具合を認めない)」というような場合には、消費者が一方的に不利益被る契約条件を無効とする「消費者契約法」「消費者契約法」に触れる可能性があるとのこと。そもそも企業側が用意している約款の内容が不当な可能性もあるため、心配な場合は弁護士等に相談するのがよいだろうとのことでした。
なぜオンクレは風営法の対象外? 弁護士の見解
最後にお話を伺ったのは、ひかり総合法律事務所の板倉陽一郎弁護士です。オンクレはなぜ24時間営業できるのかなどについて見解を伺いました。
―一般的なゲームセンターは深夜営業を行えないのに、なぜオンクレは24時間営業が可能なのでしょうか。
板倉弁護士:まずゲームセンターの定義は、風営法の2条1項5号で、「スロットマシン、テレビゲーム機その他の遊技設備で本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの(国家公安委員会規則で定めるものに限る)を備える店舗その他これに類する区画された施設(旅館業その他の営業の用に供し、又はこれに随伴する施設で政令で定めるものを除く)において当該遊技設備により客に遊技をさせる営業(前号に該当する営業を除く)」とされています。
そして、同法13条1項では「風俗営業者は、深夜(午前零時から午前六時までの時間をいう。以下同じ。)においては、その営業を営んではならない。ただし、都道府県の条例に特別の定めがある場合は、次の各号に掲げる日の区分に応じそれぞれ当該各号に定める地域内に限り、午前零時以後において当該条例で定める時までその営業を営むことができる」としているため、ゲームセンターは24時間営業できないのが原則です。
しかし、オンラインクレーンゲームについては、産業競争力強化法に基づく「グレーゾーン解消制度」により、経済産業省が2016年7月に「店舗内において客に遊技をさせることが想定されないことから、風営法第2条第1項第5号に規定する営業に該当せず、同法の規定による規制を受けない」との回答が公表されています。
したがって、「既存商業施設内のゲームセンター施設において営業時間外(営業時間内は通常のクレーンゲームとして稼働)に行う営業、及び既存店舗とは別の場所(当該事業専用に機材を設置した施設・倉庫)において終日行う営業」に該当するオンラインクレーンゲームであれば、風営法上の規制は受けず、24時間営業が可能になるわけです。
――なぜオンクレは800円以上の景品を投入できるのでしょうか。
板倉弁護士:まず、風営法上のゲームセンターが、800円を超える景品を提供してはいけないというのは、法律で定められているわけではありません。風営法23条2項は、「第二条第一項第四号のまあじやん屋又は同項第五号の営業を営む者は、前条第一項の規定によるほか、その営業に関し、遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない」としていますので、原則、商品は提供してはいけないのです。
しかしながら、日本アミューズメント産業協会「JAIA」が「アミューズメント施設における景品提供営業のガイドライン」を定めており、「景品の内容・景品の価額」については、「景品として提供する物品は小売価格でおおむね800円以下のものとする。小売価格とは、景品専用に開発された物品を除き、一般市場における価格とする。なお、景品専用に開発された物品であっても1個あたりの価格はおおむね800円を超えてはならない」としています。
800円までは「賞品」ではないなどというのも、別に法律に書いてあるわけではありませんが、警察庁は、2017年2月に開かれた衆議院予算委員会第一分科会にて警察庁生活安全局長答弁として「営適正化法では、財物をかけることなくカジノを体験できる、いわゆるアミューズメントカジノを含め、ゲームセンター営業を営む者は、その営業に関しまして、遊技の結果に応じて賞品を提供することが禁止されているところでございます。なお、ただいま委員も御指摘のクレーン式遊技機等のように、遊技の結果が物品により表示される遊技設備に関しましては、当該物品が少額である場合につきましては、これを提供する行為は賞品の提供には当たらないものと解しているところでございますが、いずれにいたしましても、当該物品を営業所のすぐ近隣で買い取る業者がいるということは承知をしていないところでございます」と答弁しています。
この「当該物品が少額である場合」について、業界団体が800円という基準を示し、今のところ警察も800円までであれば違法とはしていないという関係になります。そして、風営法2条1項5号のゲームセンターには該当しないオンラインクレーンゲームは、800円という基準とも無縁というわけになります。
――オンクレがもしも、“獲れない設定の台”を提供しているとしたらどうなりますか。
板倉弁護士:リアルなクレーンゲームにおいて絶対取れないように設定して詐欺罪で刑事事件になっている例がありますので、風営法の規制を受けないオンラインクレーンゲームであっても、景品を獲得できると書いてあるのに常に獲得できないのであれば、風営法の規制とは無関係に、刑事事件として適切に処理されればよいのではないでしょうか。
また、景表法も、風営法や刑法とは別に当然順守しなければなりませんので、優良誤認や有利誤認に該当する表示をしていれば、景表法上の処分等が行われることになります。
(Kikka)
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