南米チリ沖のロビンソン・クルーソー島で、野生ではたった1本しか確認されていない樹木「デンドロセリス-ネリフォリア(Dendroseris neriifolia)」の種子の採取に成功しました。
研究者らは険しい崖に生育する最後の個体から種子を回収。英国の種子保存施設で発芽にも成功しており、絶滅寸前の植物を未来へ残すための取り組みが進められています。

世界に1本だけ残る“ツリーデイジー”
デンドロセリス-ネリフォリアは、チリのフアン・フェルナンデス諸島固有の植物です。キク科に属し、木のように伸びた幹の先にデイジーに似た花を咲かせることから、「ツリーデイジー」や「キャベツツリー」と呼ばれています。
デンドロセリス属は世界でも珍しい樹木状のキク科植物として知られ、フアン・フェルナンデス諸島にのみ自生しています。独特な姿から植物学的にも高い価値を持つグループです。
かつてはロビンソン・クルーソー島の渓谷や低地に広く生育していました。しかし森林伐採や生息地の改変に加え、持ち込まれた外来植物や外来動物の影響によって個体数が減少。1980年代には野生個体がわずか8本まで減少し、その後も回復には至りませんでした。
1990年代以降には保護活動や再導入も進められましたが、保護対策が機能しなくなったことで、再び外来種の被害が拡大。現在確認されている野生個体は、崖の斜面に生える1本だけとされます。
そのため、デンドロセリス-ネリフォリアは国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧IA類(CR)に分類されており、世界で最も絶滅に近い植物の一つに指定されています。

命綱をつけて崖へ―― 研究者たちが種子を回収
最後の1本が生えている場所は、人が近づくことさえ難しい急峻な崖。木は転倒を防ぐためロープで支えられており、種子の採取は危険を伴う作業となっています。
採集チームはロープを使いながら幹を慎重によじ登り、成熟した果実から種子を回収します。種子が熟す毎年3月には採集作業が行われており、今年は約400粒の種子が集められました。

そのうち29粒は、英国サセックス州にあるキュー王立植物園のミレニアム・シードバンクへ送られました。X線検査の結果、29粒中25粒に発芽の可能性があることが判明。研究者らはすぐに発芽試験を開始しました。
現在までに8本の苗が育っており、そのうち3本はスコットランドのローガン植物園へ移される予定とのこと。研究者たちは、複数の施設で育成することで、病害や事故などによるリスクを分散しながら将来的な個体群回復につなげることをめざしています。

島の生態系を守るための重要な挑戦
デンドロセリス-ネリフォリアの保全が注目される理由は、その希少性だけではありません。
生育地であるフアン・フェルナンデス諸島は、チリ本土から約760キロ離れた海上に位置する生物多様性の宝庫です。この地域の植物の約65%が固有種とされ、世界でも特に独自性の高い生態系が残されているとされます。
デンドロセリス属の花は、絶滅危惧IA類に指定されている固有種、フアン・フェルナンデス・ファイアクラウンハチドリとも関わりがあるとされています。こうした植物が失われれば、島の生態系全体にも影響が及ぶ可能性があります。
一方で、この種の保全は簡単ではありません。過去に栽培された個体の一部では交雑が確認されているほか、採取された種子の多くが発芽能力を失っていることも課題となっています。さらに、チリ国内で行われた域外保全の取り組みの中には、気候条件などが原因で失敗に終わった例もありました。
それだけに、今回の種子採取と発芽成功は大きな前進と受け止められています。関係機関は来年以降も種子の採集を継続する予定で、国際的な連携のもと保全活動を進めていく方針です。
野生に残されたのは、たった1本。その未来は決して楽観できる状況ではありません。今回発芽した苗が無事に成長し、新たな種子を残せるかどうかに注目が集まっています。