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『映画クレヨンしんちゃん 奇々怪々!オラの妖怪バケ~ション』が劇場公開中。公開3日間で興行収入5.3億円を突破する大ヒットスタートとなっており、レビューサイトでは「映画.com」で5点満点中3.9点、「Filmarks」では3.7点(記事執筆時点)と、全体的にはそれなりの好評を得ている。
実際に本作は「夏休みに家族で観るアニメ映画」として「真っ当」な出来栄えで、安心しておすすめできる。しかし、筆者個人が真っ先に抱いた感想は、良くも悪くも「無難」だった。
本作が無難な内容になった理由は、近年の『映画クレヨンしんちゃん』が迷走していたからこそ、「置きに行った」ところがあるのではないか、と推測できる。生真面目な作りには好感が持てるが、それこそが欠点にもなっていた。
さらに、2021年の『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』が、『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の呪縛から完全に解放された大傑作だったのに対し、今回は『オトナ帝国』だけでなく、他の有名作品からの影響も良くも悪くも感じられたのだ。内容に触れつつ、その理由を記していこう。
※以下、『映画クレヨンしんちゃん 奇々怪々!オラの妖怪バケ~ション』の決定的なネタバレは避けていますが、一部の展開に触れています。
ライター:ヒナタカ
アニメとインディーゲームが好きで映画ならなんでも観る雑食系ライター。「All About ニュース」「マグミクス」「NiEW」のほか、新たに「ダ・ヴィンチWeb」でも連載を開始。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』
X:@HinatakaJeF
note:@hinatakajef
『千と千尋の神隠し』×『平成狸合戦ぽんぽこ』のおトク感、しかし既視感も
あらすじから紹介しよう。秋田に帰省したしんのすけたちは、なぜか家の中でばらまかれたチラシを見て「おばけーしょん村」へとやってくる。そこは、人間が立ち入ることを禁じられた「妖怪の国」への入り口であり、ひろしとみさえは突如として妖怪へと姿を変えられてしまうのだった。
まず、家族が異世界(国)に足を踏み入れてしまい、両親が姿を変えられるという導入部が、かなり『千と千尋の神隠し』に近い。さらに、妖怪たちのコミカルさや、人間たちとの確執の原因に「環境問題」がある様は『平成狸合戦ぽんぽこ』を思わせる。よく言えばジブリ映画を一挙に味わえるような“おトク感”があるのだが、悪く言えば大人は既視感を強く感じる物語運びではあるだろう。
さらに、「異なるコミュニティにいる者たちの交流と冒険」「生真面目なゲストキャラとの共闘」「クライマックスでの大スペクタクル」といった要素は、これまでの『映画クレヨンしんちゃん』にもあった要素であるし、特に2022年の『もののけニンジャ珍風伝』に近い。そちらではクライマックスで「かすかべ防衛隊」の面々の大活躍があったのだが、今回の彼らは少しだけ再登場するに止まってしまっているので、相対的に物足りなさを覚えてしまうのだ。
『オトナ帝国』では「親世代」だった昭和は、今や「祖父世代」となった
一方で、本作には『映画クレヨンしんちゃん』のファンが感慨深くなる新基軸もある。それは、しんのすけの父方の祖父である「野原銀の介」にスポットライトが当たっていることと、その幼少期が描かれていることだ。
その銀の介の子ども時代の出来事と友達との交流は、とてもささやかでほほまえしい。それらがメインプロットというほどではなく、回想としてごく短く示されているのも、むしろ好ましい。必要最低限の描写かつ、セリフに頼りすぎない演出で示していることがスマートだ。
また、銀の介の子ども時代の光景は、『オトナ帝国』におけるひろしの子ども時代と重なるところがある。2001年の『オトナ帝国』では、「昭和」は「親世代」の時代だったのが、四半世紀が過ぎた今では「祖父世代」の時代になったのだと、現実の時の流れを感じるのだ。さらに、最終盤のしんのすけの奮闘や、ひろしやみさえのリアクションなども、はっきりと『オトナ帝国』の「余波」を感じるものだった。
とはいえ、画や設定ではしっかり『オトナ帝国』との差別化はできている。例えば、劇場パンフレット掲載の渡辺正樹監督のインタビューによると、「60年前に人間界と妖怪の世界は交流を閉ざしてしまった」ことから連想して、「妖怪の世界は60年前の日本の面影が比較的残っている感じ」かつ「城下町は完全に昭和の日本という感じだけではなく、江戸時代の雰囲気と西洋の建物なども少し取り入れている」という塩梅の設定にしているのだ。
他にも劇場版パンフレットでは、美術監督たちによるこだわりがたっぷりと語られており、今の秋田と昔の秋田を対比した美術の他、妖怪のお城の一部は建築家のアントニ・ガウディの仕事がモチーフになっていることも記されている。『オトナ帝国』『もののけニンジャ珍風伝』『千と千尋』『平成狸合戦』に似ているところはあれど、しっかりした独自の美術が構築されているのは、確かな評価点だろう。
無難、しかし感じる“詰めの甘さ”
さらに、物語は理路整然と作られているし、ちゃんとした伏線回収もしているし、盛り上がりどころもある……と評価をしたいのだが、やや詰めの甘さを感じるところもある。
例えば、妖怪になったひろしとみさえを人間の姿に戻すまでのタイムリミットが設定されているのだが、それに関連した展開の説得力に欠けている。作り手も「時間がないのにのんびりしすぎでは?」という問題はわかっているようで、妖怪たちと野球対決をする時に、やたらとその言い訳をしてしまっていたりもする。
他にも、敵キャラの「つちこ」に「電流が効かない」からこそ工夫して倒す展開は、なまじ理屈を付け加えているぶん、むしろ説得力を失ってしまっているのではないか。ラスボスの倒し方も、クレヨンしんちゃんの「おバカ」な印象を先行してしまったためか、やや強引さを感じてしまった。
さらに、『映画クレヨンしんちゃん』でかなり重要とも言えるおバカなギャグも、今回は全体的にスベっている印象が否めない。つちこが口癖で「つっちり」と何度も言うのは何も面白くないし、準レギュラーキャラが妖怪化した姿の名前は、おおむねストレートすぎてひねりがない。「ひろしの靴下の悪臭」は劇場版で散々擦り倒されたネタで今回も面白くはあるのだが、もはやお約束を超えて「アリバイ」的に入れているように思えてしまうのだ。
だが、子ども時代の銀の介が秋田名物の「いぶりがっこ」にかこつけて「いぶりぶりぶりぶりがっこ」の芸をするのは面白かった。また、今回のゲストキャラクターの「やこ」がクールでカッコよく、しんのすけだけでなく、銀の介というおふざけが大好きなキャラと好対照になっているのも確かな美点だ。
『映画クレヨンしんちゃん』は「袋小路」に来ているのかもしれない
それよりも大きな問題は、やはり全体的な物語運びがやや類型的で、種々のイベントを段取りよくこなしているような印象が否めないことだろうか。それこそが「置きに行った」と思ってしまう最大の理由であり、『映画クレヨンしんちゃん』というシリーズが無難を通り越して、いよいよ「袋小路」までやってきた印象もある。
ただ、その無難さの中で、物語はちゃんとまとまっているし、共生と相互理解のメッセージは子どもの教育上とても良いものであることは間違いない。袋小路でありつつも、その「真っ当さ」に行き着いたことは支持したい。
何より、2023年の『しん次元! クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』と、2024年の『オラたちの恐竜日記』は、筆者を含む大人から激烈な酷評が届いた作品であり、子どもに見せたくないレベルの倫理的な問題があった。劇場版で初めて監督と脚本を手がける者たちの人選は「挑戦」だったのだろうが、はっきり失敗していた。
また、昨年2025年の『超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』は、その前2作での厳しい評価を踏まえたためか、橋本昌和監督と脚本家のうえのきみこを呼び戻していた。だが、こちらも残念ながら世評は伸び悩んでいたため、やはり迷走から抜け出せたとは言い難い。
また、今回『オラの妖怪バケ~ション』の渡辺監督と脚本を担当した中村能子は、劇場パンフレットでお互いに「しんのすけはとにかく複雑で難しいキャラクター」「しんのすけらしくどうやってずらしてユニークに面白く持っていくのかを悩んでいた」と語り合っており、実際に出来上がった映画も「真っ当な物語を構築する生真面目さ」の中に「しんのすけらしさ」を入れ込むことに苦慮している印象があった。
それは作り手の誠実さそのものとも言えるが、結果的に『オトナ帝国』や『戦国大合戦』のような、突出した面白さには届いていないのは事実だ。この「真っ当」「無難」を安易に続けてしまうと、『映画クレヨンしんちゃん』シリーズは訴求力を失ってしまうかもしれない。次回作は大きな挑戦をしつつ、『花の天カス学園』のように過去作の呪縛からも逃れた、革新的な作品を期待したい。
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