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9月18日より劇場公開されている『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』(以下、『踊る大捜査線 N.E.W.』)を観て、驚きを隠せなかった。テレビドラマシリーズの面白さと魅力がどこにあったのか、それを作り手が30年近くも履き違え続けると、「ここまでのもの」が誕生したという事実に(褒めていない)。
そこそこ一見さんに向かない内容だった
それでも、この『踊る大捜査線 N.E.W.』は公開からわずか10日で観客動員数149万人、興行収入21.5億円と大ヒットを遂げている。さすがは『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』が『国宝』に抜かれるまで、実写邦画における歴代興行収入No.1の記録(173.5億円)を守り続けたことはある。作品の中身がどうであっても、一度培ったブランド力はここまで強力なのだと、十二分に思い知らされた(褒めていない)。
また、『N.E.W.(NEXT EVOLUTION WORLDの略とのこと)』というタイトルをつけているのだから、ここから観始める新規層を意識した内容になっていてもよさそうなものだが、実際はテレビドラマシリーズや劇場版の『踊る』、さらにスピンオフ映画『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』の2部作を鑑賞していることを前提とした展開や演出が多く、一見さんに優しいとは言えない。
それでいて、後述するように、過去シリーズを愛する人ほど怒りそうな要素がたっぷりある。つまりは「新規層でもファンでもダメ」という“とてつもないこと”になっていた(褒めていない)。
ライター:ヒナタカ
アニメとインディーゲームが好きで映画ならなんでも観る雑食系ライター。「All About ニュース」「マグミクス」「NiEW」のほか、新たに「ダ・ヴィンチWeb」でも連載を開始。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』
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劇場版『踊る2・3・4』や『室井慎次』2部作よりはマシ
しかし、この『N.E.W.』は、皮肉なしで良いところもしっかり見つけられる。少なくとも、劇場版『踊る』2作目以降、『室井慎次』2部作よりはマシな内容だ。
何しろ、今回は大規模なロケと撮影のおかげで、しっかりスクリーン映えする画が多い。織田裕二を筆頭に俳優の魅力もちゃんと打ち出されているし、見知ったキャラクターが次々に登場することにゴージャス感がある。
特に、恒例となっている冒頭の「事件」解決シーンは、シリーズの中でもかなり大がかり、かつ長尺で楽しめるし、実年齢で還暦間近な織田裕二の演じる青島俊作が、体に鞭打って奔走する様はそれだけでグッとくるものがある。
そのオープニングの前にサプライズが待ち受けているのも良い。お馴染みの耳に残るテーマ曲が「少しずつ聞こえてくる」演出も秀逸だ。クライマックスの舞台は、映画ではなかなかお目にかかれないし、「暗がり」も美しく見える。川越一成の撮影、棈木陽次の美術、松本晃彦の音楽など、各スタッフは最良の仕事をしていたと言っていいだろう。
とある大炎上した映画を連想したことがもはやホラー
そうした派手なシーンは本当に良かったのだが、問題は「コント的なギャグがダダ滑りな上に不快」かつ「もはや事件捜査ものとして成立していない難解な物語」にある。
ただ、脚本家・君塚良一の悪癖が、後述するような「諦観」の境地に達しているため、今まで感じた不快さは、これでもやや後退している。そのおかげか、もはやシュールを超えて、唯一無二のグルーヴをも感じられて、逆に面白く感じたような気がしなくもない。
だが、それを差し引いても「やっぱり脚本が酷い」としか言いようがない。さらに、個人的2026年ワースト1位が決定した、とある大炎上した映画を連想したことはもはやホラーだった。
ここからはネタバレ全開で本作の問題点を指摘していこう。もう手遅れかもしれないが、この『踊る大捜査線 N.E.W.』を文句なしに楽しんだ方は不快に感じられる可能性があるので、ご容赦の上でお読みになってほしい。
※以下より、『踊る大捜査線 N.E.W.』の結末を含むネタバレに触れています。また、過去の『踊る』のテレビドラマシリーズや『室井慎次』2部作の一部ネタバレにも触れていますので、ご注意ください。
もはや人気キャラクターへの冒涜レベルのギャグ
本作のわかりやすい問題点の筆頭は、ギャグがひたすらにつまらないどころか不快、しかもその割合がそこそこ多くてウンザリすることにある。
例えば、新任の管理官の真下勇気(増田貴久)が、「室井慎次(柳葉敏郎)のような管理官になってほしい」と頼まれたために、本当に室井のような髪型や口調で再登場し、イヤホンで聞いている青島の言葉をひたすら繰り返すという「遠隔操作」がされ、劇中で本当に「コントかよ」とツッコまれる場面がある。
さらに、その真下勇気の母親である雪乃(水野美紀)による「ママのスピーチ」が始まり、「本当は息子に平凡の凡という名前をつけようとした〜」といった内容が「心底どうでもいい話」のように演出される。
さらにさらに、和久平八郎(いかりや長介)がなんと「AIで復活」して、「正しいことをしたければ、偉くなれ」という名言が「偉……エラー、エラー」という「不具合」を来す、というギャグとして示されたりする。
それぞれが観客にも劇中のキャラクターにとっても「なんだこれ」となる、つまりは「つまらないこと」を前提にしたギャグだ。意図されたものにせよ、そのままただただつまらないのである。だが、それ以上に、室井さん、雪乃さん、そして和久さんという人気キャラクターをそれぞれ茶化している、なんなら侮辱しているようにすら感じられるのが問題だ。
そんな「もはや冒涜」なギャグの中でも、青島のニセモノが大量発生して、その中にモノマネ芸人の山本高広がいて事情聴取するのは、まだ面白いほうだった。ちなみに、劇場パンフレットで織田裕二は、この場面について「やりすぎだろう、バラエティ番組じゃないんだから、と思いました(笑)」などと、さわやかにツッコミを入れていたりもする。このあたりのギャグを笑えるか笑えないか、許せるか許せないかで、本作の評価は大きく分かれるだろう。
『踊る』テレビドラマシリーズの「なんだこれ」は、「それだけで成立する」ものではなかった
『踊る』におけるコメディ要素が、こんな安易なギャグに堕したことがショックだ。
そもそも、『踊る』のテレビドラマシリーズにおける、視聴者が青島と同調して「なんだこれ」と思える展開は、「刑事ドラマのようなカッコいい仕事をできると思ったら、サラリーマン的な上下関係のしがらみや、お役所仕事的な面倒くささに振り回される」といった卑近さを表現したもので、それに相対する形で青島の正義感や実直さが際立つという、エンタメとしてちゃんと面白い構図があった。
つまり、本来の『踊る』における「なんだこれ」なギャグは、元々は「それだけで成立するもの」ではなく、「刑事もののお約束を良い意味で裏切る」「その後の物語やキャラクターの心情にも密接に絡んだ」ものだったはずなのだ。
対して、この『N.E.W.』でのギャグは、ただただシンプルな「茶化し」や「おふざけ」である。警察という組織内でのしがらみなどは、もはや関係ない、ただただ「いらねぇ」と思える時間が続くというのが本当にキツい。これを作り手が「『踊る』らしいお約束の外し」として、面白いと思って描いているとしたら、これほど恐ろしいことはそうそうない。
エンドクレジットで福田雄一の名前を探してしまった
本作を見て思い出したのは、今年6月に公開され、阿鼻叫喚の大炎上となった『新劇場版☆ケロロ軍曹 復活して速攻地球滅亡の危機であります!』だった。こちらも本筋の物語から脱線しまくりで、おふざけが擁護できる臨界点を突破しまくっていた。
こちらは脚本を手がけた福田雄一監督本人はもちろん、「私物化して怒られるんじゃないか」という監督本人の懸念に対して、「喜んでもらえると思いますよ!」と押し通したプロデューサーの責任も重大だった。
そちらと同じ特徴を持ち、しかも福田雄一監督作で常連の佐藤二朗も出演しているとなれば、「もしかして……」と、本当に福田雄一の名前をエンドクレジットで探してしまったのだが、もちろんその名前はない。監督:本広克行、脚本:君塚良一という、本家本元の作り手がこれをやっているのである。これほど恐ろしいことが、この世にあるだろうか。
捜査の過程や顛末が「脱線しただけ」
ギャグのつまらなさは置いておいて、本筋の物語は楽しめるかといえば、そんなことはなかった。「あれ? いま、なにやっているんだっけ? これはどういう事件なんだ?」とムダに頭を使わされる上に、捜査過程で上述したようにふざけたギャグを仕込んでいるせいで「人が死んでいるんだぞ!」とムダに怒りが湧いてくるし、さらに結末もひどかった。
「女子高生が連続殺人を犯している」という非常に切迫した事態のはずだが、死体がほぼ映らない(死体に被せた血がにじんだシーツが後ろに映る程度)こともあって、危機感があまり伝わってこない。それはまだしも、「新型コロナウイルスのようなウイルスは結局ありませんでした!」「劇中オリジナルアニメ『セブンベア』から「七つの大罪」を表しているという考察も示されるけど、結局は関係ありませんでした!」といった、ミスリーディングとも呼べない、これまた「外し」と言える顛末が用意されているのだが、それぞれが「ただ脱線しただけ」なのでイライラするのだ。
さらに、その犯人である女子高生の指紋を採取する、つまり物的証拠まで手にいれる展開があるのだが、それでも逮捕状を出す出さないで、捜査第一課長・北丘雲斗(佐々木蔵之介)との議論を続けるのが難解だった。しかも、その女子高生を実際に逮捕できた理由は「現行犯逮捕」という、逮捕状がもはや関係のないことで、「今まで観てきたことはなんだったんだ?」という徒労感も半端なものではなかった。
ただ、これでも劇場版『踊る3』や『踊る4』での「もう事件が解決しているように思えるけど、なんでまだ続いているの?」「犯人たちは、何に不満を持っていて、何をしたいの?」「何もわかっていない状況で、お前はどこ行くんだ?」「なんでそれを伏線として回収できると思っているんだ?」などなど、ただただムダに考えさせられて疲弊する、何もかもが事件捜査ものとして成立しないめちゃくちゃさに比べれば、最低限の「スジ」があるだけ、やっぱりまだマシなのである。このレベルで「少しは改善されている」と思えるというのも、本当に恐ろしい。
『ちいかわ』を思わせるアニメの作り込みに助けられている
脚本家・君塚良一の作品では、浅い知識だけで社会的な問題を糾弾している、さらには露骨な偏見や蔑視も表れているケースも多く見受けられる。約30年前の『踊る』のテレビドラマシリーズから、いくら誇張されたものとはいえ「オタク」や「プロファイリング」の扱いが「悪」方向へ傾きすぎていることも気になったが、劇場版『踊る3』や映画『誰も守ってくれない』に至っては、「インターネットが大嫌い」という気持ちがありありと伝わってきて感心してしまった(もちろん褒めていない)。
今回の『N.E.W.』では、『ちいかわ』を思わせる「かわいいキャラクターでダークな作風」のアニメ『セブンベア』を、「連続殺人を犯している女子高生が好き」という設定で登場させているのが危うい。その犯人の部屋が『セブンベア』のグッズで埋め尽くされている様を明らかに「不気味」に見せているし、彼女たちが「考察」について話し合っている様子からは、「若者たちが作品の考察をする文化も嫌い」だと伝わってくる。
とはいえ、冒頭のサプライズとして映し出される、その『セブンベア』のアニメ(制作はWIT STUDIO)と、現在は閉館したイマーシブ・フォート東京における『セブンベア』の展示をちゃんと作り込んでいることは、大いに評価に値する。劇中のアニメ作品がちゃんと魅力的に見えるおかげで、これまでの君塚良一の脚本作品よりは、対象への蔑視や嫌悪といった印象はやや後退しているように思えるのだ。
もはや「諦観」の域に達していた
ただ、それでも「結局は若者をバカにしているのでは?」と思える部分もある。何しろ前述した管理官の真下勇気の能力が評価されることはなく、彼が打ち出した「七つの大罪」の考察は犯人の行動と関係なかったし、あまつさえ亡くなった室井慎次が遺した「室井モデル」がもてはやされるようでは、若者の力がほとんど関係ない、いや及ばないとさえ見せているので、「次世代への継承」などできていないのではないか。
かろうじて、ベテランの青島に、若手の芝田ひばり(趣里)と美浦秋(白洲迅)というトリオの「仲良くはしないけど、お互いに少しは歩み寄ろうとしている」関係が、それなりに魅力的に見えていたことだけが救いではある。
そのことも踏まえて、若者をバカにしているというのが言い過ぎだとすれば、「諦め」と言い換えよう。女子高生の殺人の動機について「理由がない」ような結論が言い渡されるのも、さらにはAIを活用した極秘システムで捜査が好転するのも、「自分たちの理解が及ばないものだけど、もう台頭してくるし、しょうがないよね」といった具合に提示されているように思えるのだ。
つまり、今回の『N.E.W.』では、作り手が「若者や社会的な問題のことがよくわかっていない」ことすらも、メタフィクション的に作品に表れており、それが「もういいや」的な一種の諦観のような境地に行き着いているように思える、というわけだ。それはそれでいかがなものかと思うが、劇場版『踊る2』での筆者が女性嫌悪的だと感じた描写や、『室井慎次 生き続ける者』での児童相談所に対する理解を欠いた描写が表れていることに比べれば、これでもまだマシだったのだ。これまた、本当に、ものすごくレベルの低い比較だが。
また、クライマックスのイマーシブ・フォート東京で犯人を追い詰める最中で、青島が「過去シリーズの幻影を見る」という展開も凄まじかった。人死にが出る可能性がある緊急事態で過去の幻影を見るシーンがあること自体が論外なのだが、これも「作り手が過去の栄光にすがって、いろいろな優先順位を間違えている」ことをメタフィクション的に示していたのかもしれない。
さらに余談だが、劇中のスベリまくりなギャグには、まったくクスリとしないどころか心の中で舌打ちをしまくりだったが、「女子高生だってヤクザと繋がれるんです!」と言いながらダークウェブを見せる場面で、本当に画面に「DARK WEB」と書いてあるのは笑えた。視覚的にわかりやすくする工夫と言えなくもないが、ダークウェブへの理解が十分に反映された描写とは思えず、それはもう笑うしかないのだ。
他の素晴らしい映画を観よう
最後になるが、今は素晴らしい日本映画が観きれないほど豊作なのだ。社会問題およびセンシティブなテーマを万人向けのエンタメに昇華した作品であれば、『時には懺悔を』『シャドウワーク』『ファーストボイス』を大推薦したい。AIの「功罪」を扱いながらも「悪」とも断じないサスペンスであれば、『5秒で完全犯罪を生成する方法』もおすすめだ。
先が気になる完成度の高いミステリードラマを期待するのであれば『白鳥とコウモリ』を、クスクス笑えるコメディが観たいのであれば『さとこはいつも』を、予測不能な事態に翻弄されるダークコメディであれば『藁にもすがる獣たち』を観てほしい。何より絶賛の嵐となっているアニメ『我々は宇宙人』は、他の何を差し置いてでも劇場で衝撃の映画体験をしてほしいと願う。
そんな風に日本映画のレベルが格段に高くなっている今、「全ての映画における最底辺よりはマシ」レベルの『N.E.W.』を選んでしまうのは、本当に悲しいことであるし、ある種の文化の喪失であるとも思う。少なくとも、本作を観る優先順位は絶対に最下位でいい。
結論としては、こんな作り手が過去の栄光にしがみついて醜態を晒し、次世代への継承もできていないような最新作は、『N.E.W.』ではなく『O.L.D.』と改題してほしいし、こんなものに踊らされるのは、もううんざりである。他の素晴らしい日本映画を観よう。
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