まさにディレクターズカット版――「ぼくなつポータブル」インタビュー(2/3 ページ)

» 2006年06月02日 11時30分 公開
[聞き手:今藤弘一,ITmedia]

――画角が4:3から16:9になったわけですが、ゲーム画面をめいっぱい広げることは考えなかったのでしょうか。

綾部 字幕も含めて横画面をフルに使っています。「ぼくなつ」の世界は、もともと横画面が長い方が向いていますので、そういう意味では違和感なく移植できました。ただしオリジナル版などで使われている背景は手描きの絵ですので、再度描き起こすことが難しいんです。こういった制約はありますが。

画像 背景などの資料

――背景は手描きなんですね。

綾部 家の中や庭の構成などの設計作業は、基本的にCGを使って行いますが、実際に背景として使っているのは、それをポスターカラーと筆によって描きなおしたものです。草薙という、アニメの美術を担当している会社にお願いしています。草薙に仕事を依頼したのは、オリジナル版を作成した当時につきあいのあったアニメ関係者の方に紹介してもらったのがきっかけです。

 背景の作成方法としては、まずは叔父さんの家の設計図など、美術設定を作ります。そこから遠近法が正しいように3DCGのワイヤーフレームで起こし、このあと視点の設定を試行錯誤しながら決定し、これをトレースして手描きの背景を作成します。このあと、上がってきた背景をコンピュータに取り込み、調整します。当時はプレイステーションでしたのでフルカラーが出せず、256色に減色することもありました。この過程で色味が変わりますし、それをTVに出力しても色味が変わります。これを、原画を見ながら細部を調節して、TV上でも同じように見えるように作業していくわけです。このやり方の場合、それぞれの段階で、通常のやり方で背景1枚を描くのと同じくらいの手間がかかっています。

 オリジナル版からの流れで、プレイステーション 2版「ぼくのなつやすみ2」や「ぼくらのかぞく」も草薙にお願いしました。最初のころは細かく指示を出しているのですが、いまは3つか4つ指示を出すだけで呼吸が分かるようになっていますね。

背景の作成過程

画像 (1)まずは舞台ごとに3Dモデルの作成と配置を行う
画像 (2)画面ごとのカメラ位置を決定
画像 (3)レンダリング

画像 (4)レンダリング結果から、細部を描き加えた鉛筆画を起こし、それを背景原図として美術スタッフに依頼
画像画像 (5)美術スタッフによる手書き背景画の完成
叔父の家 裏門付近:昼(左)、叔父の家 裏門付近:夜(右)

――手描きの絵を背景に使おうと思ったのはなぜですか?

綾部 それは非常に簡単な理由で、当時CGだけで作ったもので、やわらかい日本の風景というか、自然物を描くのに成功したものが世の中になかったんです。ただしアニメの世界では成功例がたくさんありました。この成功例の1つとして、アニメ業界の力を借りた、というところです。「となりのトトロ」など、スタジオジブリの作品は好きですし、日本固有の風景を題材にしたアニメが結構ありますから。

画像 ヨシコちゃん

――ところでキャラクターが新しく3人追加になっていますが、加えた“ポイント”はあるのでしょうか。

綾部 リメイク版の追加要素として、シナリオとキャラクターを追加するということは決まっていました。ただし実際にどのような部分に追加できるかを考えたときに、先ほど述べたようにオリジナル版が良くも悪くも“暇な時期”を用意してあるゲームですので、そこにはめ込んでしまおうと。そこから3人のキャラクターを決めました。

 ゲームをプレイすると分かると思うのですが、キャラクターやイベントが追加されてはいますが、「ぼくのなつやすみ」のニオイがしないものはまったく入っていません。そういう意味では幸運なリメイク版というか、ディレクターズカット版と言えるとものになったと思います。

――追加されたキャラクターで、綾部さんの思い入れがあるキャラクターはいますか?

綾部 ヨシコちゃんですね。シナリオを書いていたときに思い描いていたキャラクターと、実際に声優さんに演じてもらったキャラクターと、さらに演技を加えてゲーム画面で見たときのキャラクターが、どんどんテンションが上がって、パワーアップしているんです。キャラクターが勝手に動いて、勝手に育っているんですね。モノを作っていて、キャラクターが勝手に育つということはよくあることなんですが、今回はそういう意味でおもしろかったのはヨシコちゃんですね。

画像 アニキくん

 もう1人、アニキくんは、いろいろな謎を背負っているキャラクターとして登場しますが、声優さんに関しても謎といいますか、おもしろいしかけを用意しています。ゲームの中の彼は地味に見えるんですけど。

 実はアニキくんを演じている声優さんは、ボクくんを演じた進藤一宏くんなんです。オリジナル版収録時は小学校4年生くらいだった彼も、今や高校生です。なんと7年前の自分と共演していることになります。これはゲームのみならず、映画やドラマの世界でもかなりめずらしいことなのではないでしょうか?

 ぼくのなつやすみ2でもオーディションに彼は参加しているんですが、オーディションの1カ月か2カ月前くらいに声変わりをしてしまいまして。ボクくんの役で受けていたんですがさすがにちょっと……(笑)。じゃあ中学生の役を用意するから出演して、となって、洋兄ちゃんで登場してもらいました。今回もボクくんと共演したらおもしろいだろう、ということになりまして。オリジナル版で収録したボクくんのセリフは、およそ1000種類くらいのストックとして残っていましたから、実際、どんな話を新規に起こしても、工夫次第で対応することができました。進藤くんにとっても“過去の自分との共演”は、おもしろい体験だったのではないでしょうか。

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