「わたしの手術料は世界一高いぜ!」――手塚キャラ総出演の「マンガ アドベンチャー」:「ブラック・ジャック 火の鳥編」レビュー(2/2 ページ)
難病・奇病がブラック・ジャックを待つ
ストーリーは、中盤から後半にかけてどんどん広がり、一気に盛り上がる。少年時代のブラック・ジャックこと間黒男を爆発事故に巻き込んだ5人の男、謎の組織「バンパイヤ同盟」、そしてブラック・ジャックを手こずらせる奇病……。これらがどのようにつながるのか、そしてサブタイトルの意味は? このあたりは、ネタバレになるので秘密。ここでは冒頭のエピソードを少しだけ紹介しよう。
カルテ01:大渋滞で1時間も足止めされ、イライラするドライバーたち。追い打ちをかけるように大事故が発生した! 被害者の探偵・伴俊作は全身打撲に複雑骨折、急性硬膜外血腫を起こしているようだ。そこに現れたひとりの男。彼こそは世界一高い報酬を取る無免許医、ブラック・ジャックだった……。
「普段なら、こんな金になりそうにない手術はやらないんだが、仕方ない」
渋滞の中、路上でエアーテントを使った脳の緊急処置が始まる……。
路上でヒゲオヤジこと伴俊作の開頭手術を行うカルテ01。まずは小手調べ。矢印が出るペースは遅いので、すんなりクリアできるはず。後半パートは矢印が次々と出現する「集中治療」。こちらもパニックにならなければ大丈夫。
カルテ02:「なんだこれは! これでも人間なのか!」。怪しげな洋館に呼ばれたブラック・ジャックは、まるで狼のように変化したクランケに絶句する。依頼主の不気味な男いわく、「これは『バンパイヤ病』だ」……。とりあえず言われたままに、人間の外見へと整形手術を行うブラック・ジャックだったが……。
矢印がジグザグした「骨ノミ」など、ちょっと複雑な線が登場するカルテ02。後半に待つのは「整形手術」のミニゲーム。狼男の顔に引かれた線の順番と方向を記憶して、見本通りに再現する。これがなかなか難しい。筆者は油断して何度も間違えて、ゲームオーバーになりました。ダメですなぁ。
ここまでがオープニング。これ以降は、岬に立つ診察室を拠点にシナリオが展開する。次のオペはチョコラ(「ドン・ドラキュラ」より)の虫垂炎か鋼玉すみれ(「リボンの騎士」のサファイヤ)の先天性心臓疾患のどちらか。すみれのエピソードは……。
心臓を患うお嬢様のすみれ。シルバーランド開発の会長だった父を突然、心筋梗塞で亡くし、副社長のジュラルミンに会社を乗っ取られて無一文になってしまった。「あんたに金がないならもう診療はできない。それだけだ」。むげに断ったブラック・ジャックだが、すみれが目の前で倒れてしまう。やむなく心肺蘇生術を行うことに……。
強心剤の曲線を描く部分が少し難しい以外は割と簡単なオペ。後半パートではマイクに息を吹きかけ、心臓部分をタッチでマッサージする。サファイヤファンにはちょっとうらやましい!?
前半はこんな感じで次々と舞い込む依頼をこなしていく。一見バラバラに見えた個々のエピソードが、シナリオがひとつにつながる。なかなか凝った作りだ。ゲーム進行に詰まったら、ピノコと会話したり、「外出」を選んで七色いんこの探偵事務所で情報を買ったりしよう。
きら星のような手塚キャラに会える
本作では、40人以上もの手塚キャラがにぎやかに活躍する。原作のエピソードをうまくシナリオに取り込んでいるキャラや、驚きのアレンジがされているキャラもいて、ファンの心をくすぐる。知らないキャラが出てきたら、ネットで調べて原作を読んでみる、そんな楽しみもある。筆者もこれまで知らなかったタクシー運転手のマンガ「ミッドナイト」を読みたくて、マンガ喫茶に足を運んだ。ここからは、このゲームで活躍するキャラを何人か紹介してみたい。
ミッドナイト(「ミッドナイト」より):ブラック・ジャックと同様、無免許という設定の深夜タクシー運転手。本名は三戸真也。もとは暴走族だったが恋人が植物状態となり、金を稼ぐためドライバーとなった。ブラック・ジャックと同じく、「週刊少年チャンピオン」に連載されたこのマンガは1話読みきり方式で、ミッドナイトがかかわった乗客たちとのドラマを描いている。重要な役回りでブラック・ジャックも登場する。衝撃的な最終話は今でも語り草だ。
写楽保介(「三つ目がとおる」より):普段は額に大きなバンソウコウを張った子供っぽい印象の中学生。しかし、バンソウコウをはがすと第三の目が現れ、自称“悪魔のプリンス”を名乗る超天才に変わる。オカルトブームのころに描かれた「三つ目がとおる」。アニメ化もされ、こちらも人気が高い。
今回のゲームでは、お目付け役の和登千代子に連れられて、おでこの皮膚性潰瘍の切除のためやってくる。ブラック・ジャックによって、第三の目が取られ、写楽も普通の男の子になってしまうのか?
トリトン(「海のトリトン」より):海に住む少年トリトンが、イルカのルカーと一緒に、敵のポセイドン族と戦う海洋冒険ロマン。アニメ版は「ガンダム」の富野由悠季の初監督作品。原作を大きくアレンジし、アニメファンからは「富野節炸裂!」と評される。
ゲームでは、内臓疾患で弱っているトリトンとルカーをブラック・ジャックが同時にオペする。ブラック・ジャックの原作にあった、シャチ(その名もトリトン)を治療するエピソード「シャチの詩」と絡めてあるのが心憎い。
ちょい役も含めればまだまだたくさんのキャラが登場する。何人知っているか、自分の手塚治虫マニア度を確かめてみては?
原作を脇に置いてぜひともプレイを
クリア時間は10時間前後。ライトに遊べて敷居も低い。欲を言えば、ひとつひとつのエピソードがもう少していねいに描かれていればよかったか。それでもブラック・ジャック好きとしては満足だ。
純粋にブラック・ジャックのゲームと考えるとややストーリーがにぎやかすぎる印象があるものの、手塚作品でおなじみのスター・システム(他の作品の主役級キャラが脇役としてゲスト出演する豪華な方式)をさらに発展させたものと考えれば納得も行く。
どういう状況になっても、ブラック・ジャックの格好良さは変わらない。遊んでいるうちにすっかりその世界というか美学に、ハマり込んでしまった。原作のパロディやオマージュもたっぷりなので、ぜひとも原作マンガを用意して、プレイしてほしい。いろいろな発見が待っている!
原作:(C)手塚プロダクション
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