元刑事カイル・ハイドの過去と現在を紡ぐ物語:「ウィッシュルーム 天使の記憶」レビュー(2/2 ページ)
ホテルに集った訳ありの人々
たまたま同じホテルに居合わせた宿泊客が出会うことで、いくつものドラマが生まれる。これはアメリカの映画でよく見かけるパターンだ。本作でも映画を思わせる個性的な人物が多く登場する。彼らが抱えた秘密を知り、真相へ近づこう。
カイル・ハイド:元刑事のセールスマン 「刑事屋根性ってやつは簡単には抜けないらしい」
33歳。自分と警察を裏切った親友のブラッドリーの行方を追い続ける。クールそうに見えて、意外とムキになる性格。昔は細身の黒いスーツがよく似合うバリバリの刑事だったが、今はボサボサ頭に会社のロゴ入り革ジャンという、くたびれたおっさんになってしまった。「おい」、「ちょっと待て」、「俺を甘く見るな」など、横柄な刑事口調が抜けない。願いが叶うという215号室に宿泊する。
ミラ:謎の少女
口がきけない少女。カイルがホテルへ向かう途中に目撃し、のちにホテルで再会する。ミラという名前は彼女がしていたブレスレットに刻まれていたもの。ブラッドリーがしていたものと同じだが……。謎を秘めた本作のヒロイン。
ダニング・スミス:ホテルのオーナー 「実は、あんたが泊まる215号室は、願い事が叶う部屋なんだ」
好きなものはアイスホッケー、嫌いなものは警察と悪党と面倒ごとという親父さん。部屋に「希望」、「愛」、「天使」と名前をつけるなど意外とロマンチストな面もある。
ローザ・フォックス:メイド 「まったく、しょうがない男だよ」
口は悪いがさっぱりした性格の働き者。掃除、洗濯、コックと一人で何役もこなす。特に料理はかなりの腕前。
ルイス・フランコ:ボーイ 「いまのあんた、あんたらしくないぜ」
3年前にマンハッタンから逃げ出し、西海岸にやってきた元スリ。何度かカイルにパクられたことがあり、カイルのことを「ハイドの旦那」と呼ぶ。怠け者だが、バーの仕事だけには熱心。マンハッタンから逃げた理由とは……。
マーティン・サマー:211号室の客、作家 「ハイドさん、あなたは不思議な人です」
10年前にデビュー作「秘密の言葉」がベストセラーとなったミステリー作家。その後は今ひとつ……。配達間違いでカイルの荷物を受け取ってしまう。古いノートに執着するが……。
ジェフ・エンゼル:213号室の客、若者 「どうせ、僕のことなんて誰にもわかりやしない」
わがままな性格の青年。お坊ちゃん育ちのようで、こんな安ホテルには泊まったことがないという。終始、人をバカにしたような笑みを浮かべ、時折、不審な行動を取る。
メリッサ・ウッドワード:219号室の少女 「おじさんには、おしえないもん」
父と2人で、家出した母を探す旅をしている女の子。最初は生意気だが、愛情に飢えているのか、構ってやったカイルに懐く。母の手がかりは見つかるのか?
ほかには、212号室の眼帯の老婆ヘレン・パーカー、216号室の自意識過剰な美女アイリスと、ユニークな人物がゲームを彩る。ボーイもメイドも客たちも、ヒント係のためにいるわけではない。それぞれが歩いてきた人生がセリフの端々からにじみ出ているのだ。その中でもやはり一番魅力的なのが主役のカイルといえる。
男前だがやさぐれていて、複雑な想いを抱えるカイル。時として子供のように笑ったりムキになったり、その一方で大人の余裕も見せる。33歳という若くもあり中年でもある男の微妙さがうまく描けていると思う。
客商売なのに態度は横柄。しかし、挫折した過去があり、人の痛みがわかる媚びない男に、客もスタッフも心を開き、つい話をしてしまう。
「大人はみんな、ときどき悲しい嘘をつく」。「たいていの願い事には秘密が隠されているものさ」。さらっと交わされる洗練された会話は古いアメリカ映画を見ているようだ。流れる空気のカッコよさが、「ウィッシュルーム」の本質ではないだろうか。
ニンテンドーDSならではの謎解きも健在
「アナザーコード」よりも比重としては少な目だが、本作にもタッチパネルやニンテンドーDSの構造を利用した謎解きがある。今回はシナリオとマッチしていて、解く必然性が感じられるのがいい。ジグソーパズルを組み立てたり、鍵を開けるための針金を作ったり、暗証番号を推理したり……。初めてのプレーヤーだけでなく、「アナザーコード」の経験者でもビックリする仕掛けも多い。1、2個、難度の高い謎があり、結構迷ったものの、基本的にはいろいろ試行錯誤すれば、必ず解けるようにできている。無茶なものは少なく謎解きのバランスはいいといえそうだ。
プレイ時間は15時間程度で、シナリオのテンポはゆったりとしている。ただし一度中断すると次に何をするべきか分からなくなってしまう、といった問題点も見受けられた(これは、ほかのアドベンチャーにもよくあることだが……)。ちなみに、本作はタッチペンでメモが取れるので、やめる前に次にやることを書いておくといいだろう。
ニンテンドーDSが発売された当初は、マイクやタッチ機能を使いこなさなければ物足りない、という風潮があった。だが、ことさらにその制約に縛られず、作品性が高いアドベンチャーがリリースされたことはとても意義深いと思う。「アナザーコード」、「ウィッシュルーム」と続いて、次はどんな謎に出会えるのか。早くも次回作が待ち遠しい。
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