五十嵐孝司氏「2Dゲームよ永遠であれ」――2Dゲームの未来はどっちだ?GDC 2007(1/2 ページ)

3Dゲーム全盛の今、あえて2Dゲームにこだわる「キャッスルバニア」シリーズプロデューサー 五十嵐孝司氏がGDCにおいて万雷の拍手に迎えられ「The Light and Dark Sides of 2D Game production(2Dゲームの光と闇)」と題したセッションに登壇した。

» 2007年03月12日 00時02分 公開
[加藤亘,ITmedia]
コナミ 五十嵐孝司氏

 世の中の市場が3Dゲームへと支配されている現在、コナミの五十嵐孝司氏はあえて2Dゲームの光と闇を提示する。海外で絶大な人気を誇るニンテンドーDS用ソフト「CASTLEVANIA:Portrait of Ruin」(日本語タイトル:「悪魔城ドラキュラ ギャラリーオブラビリンス」)の開発経験を例として、GDCで初の講演に挑んだ。

 次世代機のラインアップも出揃い、映像の表現方法も3Dがメインストリームとなっていると五十嵐氏。しかし、五十嵐氏はあくまでも2D表現にこだわっている。それは、自身が関わるアクションゲーム製作における有益性を選択した結果ともいえる。五十嵐氏は2Dゲームと3Dゲームの相違点を紐解くのに、まずアクションゲームにおける4つの遊び方を分析してみせた。


「タイミング」、「距離」、「位置取り」、「方向」があくションの要素

 曰く、アクションゲーム(ゲーム性)は、画面の情報から何が起こるのかを推測する「タイミング」と、画面の情報から位置関係を把握してそれに対してアクションをする「距離」の遊びであり、画面の全体の中からどの位置にいれば有利に進められるかを考え、その位置をキープする「位置取り」の遊びであり、一定の方向を向く、もしくは移動、攻撃するという「方向」の遊びである。

 3D表現は仮想で作られている3Dモデルを2Dモニターに投影し、人間が認識するのだが、3Dモデルはたいていリアルなスケールに基づいて作られている。ところが、そこにゲーム性であるとか、(特に画角等の)演出とかは、普段の生活で認識している距離感や空間感とは、必ず違って感じると、これを3Dゲームでもっとも大きな問題点として挙げる。

 人は右と左の目で、見る角度を変えることで、無意識に対象物の位置と距離をはかっている。2Dに投影された3D映像は、作り手のさまざまな思いにより距離感を作り出されており、2Dに投影されたときに実際の意識している空間とのギャップが生まれるはずだというのだ。

 例えば、3Dモデルでのアクションにおいて、ギロチンをかわす仕掛けがあるとする。2Dでは気にすることもないが、3Dではギロチンのところにあざとく筋を入れ、位置を判別できるようにしなくてはならない。敵と戦う場合も、宙に浮いたり武器が射程があるものだと、影の位置を見て敵の位置を把握してプレイすることになる。

 つまり、距離ということだけでゲーム性を比較すると、3Dは画面の情報から距離感を認識するための演出を確認し、そして空間を認識して実際のアクションをするという流れとなる。これが2Dの場合だと、画面の情報から空間を即認識し、すぐにアクションを起こすことができる。つまり2Dは3Dよりも距離の遊びの導入が簡単といえるというのだ。

 3Dのゲームは上記の4つのカテゴリーからすると、タイミングと位置取り、大まかな方向というゲーム性で、“距離”の概念が大雑把といわざるをえない。だから、距離感を強いるようなゲーム性を求めるのは酷となる。飛んでくるオブジェクトを画面上で認識してからではなく、敵が襲撃のポーズをとったのを確認して、物陰に隠れるという遊びになるわけだ。

 2Dのゲームにおいては、上視点か横視点かで大きくゲーム性が変わる。2Dの上視点は、3Dに似ているが、4つの構造をフルに使っており、遊びの選択肢が多い。だが、プレーヤー側は最初に何をしていいか分からず、作り手側は意図的に遊びの幅を狭くしたり、明確に遊び方が分かる演出をして提供する必要がある。また、横視点の2D視点のゲームの場合、重力による制限を受ける場合がある。4つの遊び方を振り分けると、タイミングと距離は、重力の制限を受けないものの、位置取りと方向が制限されてしまう。しかし、制限を受けることで“重力”という特有の遊びを作り出しており、位置取りは重力加速度によって行ける場所が制限され、方向は横に強く縦に弱いと、ほぼ固定された遊びになる。ここをわざと変え、別の遊びを提供する場合もあるが、本作の場合はほぼ固定されているのが特徴といえる。

 また、制限を受けないタイミングと距離の遊びは、より緻密な遊びを要求することができる。それは、重力による遊びの制限があるため、この部分を強化するがゆえに遊びの幅を狭くしているが、代わりに緻密に作ることが可能となる。

 タイミングと距離はどうだろうか? これらは、アクションゲームに攻撃を避けるという遊ぶを提供している。3Dは距離の概念が曖昧なために、タイミングと演出を重視した“かわす”というよりは、“なんとなくかわしている”という雰囲気を味わう。しかし、2Dの場合、距離の概念が明確化しているため、きちんと見てから避けるというアクションができる。これは昔ながらのゲームに頻繁に見られ、「キャッスルバニア」シリーズでも多用される遊びとなっている。

 2Dでは「見て避け攻撃する」という駆け引きが存在する。それが大きな魅力であり、これこそが2Dゲームにこだわる理由であり、なくしたくない理由でもあると五十嵐氏。

ドット絵について

 2Dゲームを製作するにあたり、ドット絵は大きな意味を持つと五十嵐氏は切り出す。ざっとシリーズのリストを公開し、それぞれいくつの色数から構成されているのかを明かしたのだが、ファミコン版が4色で作られているのを除けば、ほかはすべて16色で作られていることが分かる。このわずか16色のドット絵がシリーズのキモとなるのだとか。

 というのも、シリーズは軒並み同じ倍率で描かれている。横幅も一緒で、アスペクト比もほぼ変わらない。色数が一緒で、アスペクト比が一緒ということは、過去の資産が有効に使えることを意味する。この資産は、単純にボリュームアップするにも活用されるが、ヒューマンリソースをほかに使用することができ、クオリティアップにも貢献したという。また、コストの削減にも役立った。

左はニンテンドーDS用「CASTLEVANIA:Portrait of Ruin」のジョナサン、右はXbox 360用ソフト「CASTLEVANIA:Symphony of the Night」のアルカード。ジョナサンの方が若干小さい

 過去の資産を利用するメリットとの1つとして、使用した作品のクオリティレベルも一緒にしないとならず、底上げが自然とできる点も挙げる。クオリティの底上げなどは通常チームリーダーが引っ張る形となるが、過去の資産があると少なくともそれ以上を要求することになり、よい意味でプレッシャーになり最低クオリティを底上げしてくれる傾向にあるという。つまり、過去の優秀なタイトルの資産を使用できるということで、チーム内のクオリティコントロールと教育が兼用できるというわけだ。コスト削減以上の大きなメリットとして五十嵐氏。

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