個性的なミニゲームの数々。“鍛”えるのではなく“楽”しもう「タシテン +たして10にする物語+」レビュー(2/2 ページ)

» 2007年11月02日 00時00分 公開
[ITmedia]
前のページへ 1|2       

論理的な思考で隠された数字を探そう

画像 ピラミッドビルダーのブロック配列。すべてのブロックが2つのブロックによって支えられているのがポイント。

 いくつかタシテンゲームをご紹介したが、これらを見ただけでも、このソフトが単なる計算力を問うているわけではないことがお分かりだろう。ただ、計算力がいらないのか、といえばもちろんそんなことはない。ここではその代表格とも言うべき例をご紹介しよう。“ピラミッドビルダー“というゲームだ。

 ピラミッド状に積まれたブロックがある。最上段に1個のブロック。2段目は2個。3段目は3個。以下、同じように積み重なっている。これらのブロックのうち、隠されている部分の数字を当てるゲームだ。

 何を手がかりにするか。ここではすべての数字はそれを支える2つの数字の和となっている。ただし、10の位は関係ない。例えば7ならば、それが7の場合もあるが、17の場合もあるということだ。これは10の倍数はすべてタシテン、という大原則の応用になる。そして最上段のブロックは必ずタシテンになっている。

 例えば、2段目の一方が4だとしよう。この場合、2段目の残る一方は6になる。それ以外の数字では最上段の数字がタシテンにならない。次は3段目。4を支える数字は何か。足して4になる組み合わせは1−3、2−2、3−1しかないが、14の場合も考慮すると9−5、8−6、7−7、6−8、5−9もあり得ることになる。仮に8−6だとするなら、それを支えるのは、足して8か18になる組み合わせ……となるが、数字には10はないから、この場合は足して8になる組み合わせしかあり得ないことになる。

 このピラミッドビルダーは、全タシテンゲーム中でも論理性の高さにおいてトップクラスのゲームだ。手がかりが与えられているが、そこに複数のバリエーションがあるため、一筋縄ではいかない。しかし法則性は明確だから、隠されている数字がどんなに多くても1箇所突破口を見つければ、そこから芋づる式に答えが見つかっていく。快刀乱麻を断つが如し、抜群の知的爽快感を味わえる。

画像 適当な数字を書けば、当たらなくてもフジヤマさんの足が止まるので、その間に考えられる。

 もうひとつ、似た例を挙げておこう。その名も“フジヤマさん”。火山の妖精、フジヤマさんが隠し持っている数字を予想し、その数字と足してタシテンになる数字を書いていくという内容だ。

 ここでのヒントは、フジヤマさんはプレイヤーが書いた数字と自分が持っている数字を足して、タシテンにならない数字を吹き上げる、というルール。例えば8と書いて2と上がったとする。この場合、2が12の余り分なのは明らかなので、つまり、X+8=12。X=フジヤマさんが持っている数字は4というわけだ。ただし、答えは4ではない。“隠し持っている数字を予想し、その数字と足してタシテンになる数字を書いていく”だから答えは6。実際にやってみると、この2番目のステップが結構厄介で、頭が混乱してくる。この手のゲームは一度混乱すると焦りが出てきて上手く行かなくなるのが相場。制限時間に比較的余裕があるので、クリア自体はさほど難しくないのだが、やはり暗算力が高いほうが有利なのは間違いない。

イマジネーションの豊かさが生み出す優れたゲーム性

 数字というのはロジックの世界だから、ピラミッドビルダーやフジヤマさんのようなゲームを繰り返しプレイしていれば、確かに計算力は高くなるかもしれない。しかし、タシテンには、前述したナンバー狩りや10秒フィッシングなど、どう考えても計算力と関係ないゲームも入っている。こうした点を考えると、タシテンを単純に計算力を高めるだけのソフトと見なすのは違っているだろう。

 そう、ここにあるのは数字を使って遊ぼう、というエンターテイメント的な精神なのだ。まず何よりも楽しいこと。よく遊び、よく学べ、ではなく、とにかく遊べという発想なのである。

 ニンテンドーDSが開拓したエデュテイメントというジャンルは社会的な意義も高く、業界の活性化という点でも無視できない功績を持っている。いっさいのゲーム性を排した完全な教育あるいは教養ソフトも数多く発売されていて、広い意味でニンテンドーDSが従来の携帯ゲーム機の枠を超えたキャパシティを持っているのは間違いないだろう。それが空前の大ヒットへと繋がったことも疑いない。

 しかし、その反面、やはりニンテンドーDSは携帯ゲーム機でもある。先ほど導入部の部分で、ストーリーが伝統的なファンタジーの設定に従っていることに触れた。そうしたゲームファンにはおなじみの設定、いわゆるお約束はこのゲーム全体にあふれている。具体的な例はプレイして確かめて戴きたいが、ファンタジーRPGが好きな人なら、戦闘を数字ゲームに取り替えているゲームであることがすぐに分かるだろう。

 ここから、タシテンというソフトの位置づけに関して、ある種の仮説が導き出せるように思う。

 このソフトが実際には伝統的なファンタジーRPGの形式を採りながら、表面的にはエデュテイメントのような形を取っている理由はどこにあるのだろか。これは、このゲームのメインターゲットがどこに設定されているか、という問題と言い換えてもいい。そして筆者が思うには、タシテンは純粋にゲームが好きなユーザー、俗に言うゲーマーに向けた作品ではない。もちろん、それらのユーザーもこの作品を楽しんでプレイできるだろうが、それはおそらく副次的な対象だ。メインターゲットは、おそらくこれまでゲーム、特にファンタジーRPGなど知らない層だと考えられる。そうした層は、ファンタジーRPGの約束事など知らない。突然異世界に呼ばれ、王様の命令を受けて冒険を始める。ゲーム好きには何の違和感もない設定だろう。しかし、ゲームの約束事を知らない人には、これは通じない。なぜ異世界に行くのか、なぜ王様は自分に頼んでくるのか、なぜその命令に従わねばならないのか、といったことが意外に引っかかって、やる気を削がれてしまうのである。

 非ゲーマー系のユーザーにとって、タシテンはそうした約束事を了解していくステップになり得る。そしてそうした経験がファンタジーゲームへの抵抗感を下げるのに役立ち、さらに一歩進んで関心へと繋がっていけば、ゲーム業界にとって大変な福音である。もし、ニンテンドーDSの持つ非ゲーマー系ユーザーがゲームに関心を抱き、教育・教養以外のソフトも買うようになれば……。

 さらに言えば、数字というシンプルな素材からこれだけのエンターテイメントを生み出せることを証明しているタシテンは、ゲームの持つ創造性や可能性を示す好例でもある。こうした作品が増えれば、単に業界が活性化するだけでなく、いわれのないゲームバッシングを抑制する点でも役立つだろう。……まあ、こういうことを考えること自体、タシテンというソフトに似合わないのかもしれない。何よりも、このソフトは難しいことなど考えず、シンプルに楽しむためにあるのだから。ただ、決してそれだけのソフトではない。エデュテイメントと一般ゲームを繋ぐ接点。タシテンはそこに立っている。

関連キーワード

ニンテンドーDS | 任天堂


(C)2007 Nintendo / muu muu


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/14/news189.jpg 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  4. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  5. /nl/articles/2411/15/news016.jpg 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  6. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  7. /nl/articles/2411/15/news009.jpg 高2のとき、留学先のクラスで出会った2人が結婚し…… 米国人夫から日本人妻への「最高すぎる」サプライズが70万再生 「いいね100回くらい押したい」
  8. /nl/articles/2411/15/news058.jpg 「腹筋捩じ切れましたwww」 夫が塗った“ピカチュウの絵”が……? 大爆笑の違和感に「うちの子も同じ事してたw」
  9. /nl/articles/2411/14/news023.jpg “膝まで伸びた草ボーボーの庭”をプロが手入れしたら…… 現れた“まさかの光景”に「誰が想像しただろう」「草刈機の魔法使いだ」と称賛の声
  10. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた