必要なのはオーディエンスへの意識と発声練習:ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その4)(1/3 ページ)
ヒライタケシの「投げる前から変化球」第4回目は、ミドルウェアでゲーム開発を支えるCRI・ミドルウェア代表取締役専務の押見正雄氏を迎えて小春日和の代々木公園でピクニックとしゃれこんでみた。
平井武史氏(以下、敬称略) 押見さんは仕事上、海外を飛び回っていると聞きましたが、主に何をされているのでしょうか?
押見正雄氏(以下、敬称略) 今は、ミドルウェアの技術開発からプロモーション、雑用も含めて全部って感じですね。極端な話、コードも書きますから、まさに上から下まで全部といった感じですね。
平井 サンフランシスコでは何をされてるんですか?
押見 どちらかというと主にプロモーションなんですけど、一番問題なのはアメリカと日本の開発スタイルが全然違うので、アメリカの開発スタイルに合うように、ミドルウェアのフォームを変えてプロモーションするということをやっています。
平井 実際にソリューション自体を日本とアメリカで変えていたりするんですか?
押見 ありますね。日本では、僕らは“定食屋”と呼んでいまして、定食方式でABCセットで選んでもらっている感じです。定食にお新香がついているだとか、お味噌汁やサバの味噌煮が付いているだとか、1つのセットとしてミドルウェアが使われる場合が多いのです。CRI・ミドルウェアの製品でいえばADXとかSofdecとなにか、みたいな感じです。
押見 ところがアメリカだと、音声圧縮の部分だけほしいとか、ファイルシステムは自分のところのを使うからいらない、といった結構わがままな(笑)ことを言われることが多くて。先ほどの定食屋の話でいくと、サバの味噌煮だけでいいというようなことを仰る。いわゆるアラカルト方式ですね。
平井 ビジネスモデルが全然違うんですね。
押見 そうです。彼らは彼らなりのシステム部門を持っていて、足りない部分を外から組み込んで、自分たちでシステムを構築するスタイルが多い。ちょっと日本とは違うんですね。
平井 ソリューションそのものは変えないで、売り方が違うということですか?
押見 売り方も違うし、ミドルウェアに対する考え方も違います。なんていうか、我々がやっている日本のものは、どちらかというとサービスに近くて。サポートもやりますし。
平井 デベロッパーと近い感じですか。
押見 そうそう。デベロッパーと一緒にやろうという感じ。ところが、アメリカでは一緒にやろうというところもあるんでしょうけど、一般的なミドルウェアのHavokとかは買ってきてパッケージとしてとらえている感じが強くて、サービスとしてはあまりとらえていないんです。
平井 なるほど。確かにエンジンと呼ばれているものが多くて、コンペティターとしてのソリューションも必ずあるという。
押見 はい、ありますね。
平井 CRIさんのミドルウェアは、世に1つしかない、他の会社のコンペティターになりにくい商品を作っているなという印象がありますが。
押見 それは目指しているところです。人と違うところを持とうというのをコンセプトにしています。僕らがビジネスが下手っていうのもあるんですけど、競争してというよりも、一緒に仲良くやろうというのが得意なので、そういう意味で唯一1つのコンペティターのないところでやるのがいいのかなと考えています。
平井 それは日本のデベロッパーにとってはありがたいお言葉で(笑)。僕が押見さんに初めて会ったのは、1999年くらいになりますか?
押見 一番最初に平井さんにお会いしたのは、確か「シェンムー」の開発終盤くらいだったと記憶しています。平井さんという方がいらっしゃって、「シェンムー」のプリレンダリングの話をしたんじゃないかと。こうすれば速くなるみたいな話で、感心した記憶があります。処理負荷とか、ちょっとアーケードチックな考え方だなと(笑)。
平井 当時は実機でなんとか早くする方法はないかと模索してまして。あと、ツール上でのデザイナーのコストを削りたくて。デザイナーが何度もやりなおしているものを、実機でやったら納得できるものができるのではないかといった事を考えてて。
押見 初めてお会いした時は、お互いそれほど深い印象はなかったですよね。私は内容がインパクトがあったので覚えてましたが(笑)。
平井 実際採用ができたのはライティングの焼き付け程度だったと思います。映像のレンダリングのテクスチャには使えなかったし。よりそっちのほうがコストがかかるのと、テクスチャ自体が足りませんでした(笑)。それでもまぁ、いい高速化にはなったかな。
押見 最初から平井さんは、技術者としてすごいなぁという印象でした。
平井 いえいえ、そんな。研究をたくさんやったという感じで。「シェンムー」においては、研究が6、デベロップメントが4ぐらいの割合で。普段プロジェクトに関わると、8:2から9:1くらいになるんですけど。あれほど研究したプロジェクトも珍しかったかもしれない。まぁ、それだけ周りに優秀な方達がいたので、ゲーム部分を作ってくれた、というのはあります。僕はシステムとかそういう部分に特化できたかなと。
押見 そういう意味では挑戦的なタイトルだったし、あのタイトルによってずいぶんゲーム業界のいろんな所にあの技術が普及した気がしますよ。
平井 同じようなものとか、メタバースなものは増えた気がしますね。今ですらそういう話をいただくので、自分にとってもセガにとっても、よかったと思います。押見さんはCRIに入社されてから何年経ちましたか?
押見 20年です。正確に言うと、1987年にCSK総合研究所というところに入ったんです。当時、第5世代コンピュータが真っ盛りの時期で人工知能を研究していました。第5世代コンピュータの終焉期で、開発したものが「プロローグ」。ご存じですか?
平井 知っています。日本語で書くプログラミングで、よくRPGやAIで使われましたよね。ボクも大学の時にプロローグやってました。
押見 一生懸命高速化に努めて、当時一瞬だけ一番早いプロローグにもなったことが。そもそも狭い世界で戦っていたので、今となってはいい思い出なんですけど(苦笑)。そのうち富士通FM-Townsのユーザーインタフェースにかかわるようになりました。そこで、ゲームが欲しいという話になりまして。ちょうど、セガと関係も深くて、「アフターバーナー」を作らせてくれと……。
平井 それはエミュレーションレベルでお作りになられたんですか?
押見 完全に目コピに近かったかな。当時、FM-TownsとX68000の2つあって。そのへんからゲームとの接点が生まれてきました。そしてセガがサターンを作るという段になり、セガにCD-ROMの技術がないと。CRIがたまたまそういう技術をFM-Townsの時から蓄積しているということで呼ばれました。セガに行って、CD-ROMブロックの開発を皮切りにゲームに特化した動画システムへと。それが1992年か93年の頃ですね。
平井 ミドルウェアを作る上に、その表示するエンタテインメントが最初にあるという発想はいいことですよね。ここが循環のサイクルと思うんです。どういう風に出すという意識がないと、いいミドルウェアってできないと思ってまして。そういう意味ではCRIさんはよくできていると思います。
押見 現場が何をやってほしいのかをちゃんと聞かないと。うちの強みはサポートだと思っているのでなおのこと。ゲームを作る人を応援する仕事をしていると、質問がくることがあるのですが、なんで聞かれているのかを聞きなさいといつも話しているんです。その裏には目的意図があるはずだと。それを聞かないと相手のやりたいことができません。足りなければ追加するなりするべきで。それによっていいゲームができるんです。
平井 サターンの後は?
押見 その後はADXを作りました。ADXを作るに至ったのも、セガのタイトル開発に携わったことから要望が分かってできたのかな。
平井 ボクも最初から使ってましたよ。「シェンムー」の時には。シームレスにデータを読み続けてましたね。雑踏音を鳴らしながら、データを読み続けてて。もう時効と思うので言いますが、禁止されてましたけどインフィニットで回し続けていたんです。無限に回し続けないと間に合わなくて。CRI ROFSが出たのもその当時でしたっけ?
押見 元々CRI ROFSは、サターン用に作ったCD-ROMのパッキングツールをドリームキャストに展開したものですが、そういう意味ではファイルシステムとオーディオツールを一緒にしたのが珍しかったんだと思います。話を聞くと、音楽再生をしながらデータを読みたいというのがあったんです。そこからADXが生まれたんです。
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