64年目の敗戦──「WAR PLAN PACIFIC」で太平洋戦争を3時間で追体験する真珠湾から菊水作戦まで食後にトレース(1/3 ページ)

IT系ゲームメディアというわけで、“64”年後という節目に「あの戦争」を追体験する。とはいっても、主流の“RTS”ではなく“旧態然”のウォーゲームで。

» 2009年09月23日 19時45分 公開
[長浜和也,ITmedia]

ビックゲーム化は太平洋戦争ウォーゲームの宿命か

 「TACTICS」「シミュレイター」を購読し、ウォーゲームをたしなんでいるというだけで「やーい、右翼〜、右翼〜、ミギタリー」と冷笑されていた高校生が、30年を経て、若い世代から「いや、それはあなたの時代に受けた教育の影響ですよ」と左翼認定されてしまうほどに時代が変わってしまった2009年の夏。Wikipediaのおかげで「正式な終戦は9月2日でしょう」という突っ込みもしやすくなった現代だが、やはり、日本人の心としては、8月15日が「敗戦の日」となるだろう。しかし、8月15日も9月2日も遠く過ぎ去ってしまった。せめて、お彼岸に「あの戦争」を振り返ってみたい(早い話が、締め切りを大幅に過ぎてしまったということ)。

 太平洋戦争を扱うウォーゲームは、どうしても規模が大きくなってしまう。膨大な部隊が海陸空へ展開していることと、複雑なシステムとなってしまうロジスティックルールが欠かせないことなどがその理由だ。ボードウォーゲームでは、そのコンポーネントの巨大さと精緻なロジスティックルールで伝説となっているSPIのモンスターゲーム「War in the Pacific」(最近ではDecision Gamesから限定版で再販された)を最高峰として、その正統な後継と評されるVictory Gamesの「Pacific War」も、日本家屋ではマップを展開することすら難しいといわれる規模を誇る。3Wの「EAST WIND RAIN」やOMEGAの「CARRIER WAR」、SIMULATION CANADAの「DIVINE WIND」、また、日本人がデザインしたホビージャパンの「Pacific Fleet」やゲームジャーナルの「大日本帝国の盛衰」などは、コンポーネントとルールを工夫して(そのため、ゲーム手順が複雑になってしまう副作用もあるが)、常識的なコンポーネントとプレイ時間を実現したボードウォーゲームだが、それでも、Pacific Fleetは実質24時間、大日本帝国の盛衰も朝から晩までかかって終わるか終わらないかという時間がかかってしまう。

 細かいデータの扱いをPCに任せられるPCウォーゲームになると、ボードゲーム以上にゲームデザインは細かく、そして、プレイ時間は長大になってしまう。太平洋戦争を扱うPCウォーゲームは、今流行のRTSや日本で定番の「提督の決断」や「大戦略」シリーズを除くと数は少ない。日本で開発したゲームタイトルでは「太平洋戦記」や「太平洋の嵐」が現役として残っているが、両タイトルとも、登場する艦艇、航空機、戦闘車両などの細かいスペックと搭乗員1人単位、物資1トン単位で管理される細かいロジスティックルールを特徴とする(しかし、その精微なデータが、ゲームで出力される戦闘結果や作戦経過の再現性にどの程度貢献しているかは、別な問題だ)。太平洋の嵐は、1ターンを3日に設定されているもの、フェイズ構成で考えると実質半日単位であるなど、プレイを進める手順も細かく区切られている。そのため、1941年12月から始まって1945年の夏まで続く太平洋戦争全般を戦い抜くには、多大な時間と労力が必要だ。

 米国でデザインされた太平洋戦争のPCウォーゲームも現在入手できる現役ゲームタイトルとして確認できるのは、MatrixGamesで扱っている「War in the Pacific」とフリーで配布されている「Pacific War」だけだ。ゲームデザインは日本製の“嵐”や“戦記”と比べて抽象化されているものの、それは、「航空兵力でプレイヤーが管理する単位は“航空隊”だけど、PCが行う戦闘処理では1機単位で扱う」という人間の負担を軽減しつつPCで精密な処理が可能であったり、ロジスティックルールが、「資源はoilとResureceの2種類、物資はFuelとSupplyの2種類」と日本製PCウォーゲームからすれば簡潔にまとめられているが、それでも、ロジスティックに関連する資源と物資を「液体1系統、固体1系統」に“分けてまとめる”ことで、ゲームデザイン上は矛盾することなく、プレイヤーの負担を軽減することを可能にした。

 ただ、プレイヤーの負担を少なくするようにゲームデザインがなされていたPacific WarやWar in the Pacificでも、プレイ時間が長いことに変わりはない。ターンのステップは1週間とされているが、戦争後期になって登場する部隊の規模が大きくなると、索敵や戦闘処理に時間がかかるようになるのが原因で、まっとうな社会人がゲームに費やせる現実的な時間では「1日1〜3ターン」程度しか進められず、1941年12月の開戦から1945年夏まで戦うのに、半年から1年間はかかってしまう。

精密な兵器データを特徴とする「太平洋の嵐」でPSP版の「太平洋の嵐 〜戦艦大和、暁に出撃す!〜」から大和のスペックを表示する(写真=左)。MatrixGamesからフリーで配布されている「Pacific War」は、かつてSSIから販売されてが、いまや無料で入手できる。現役の「War in the Pacific」のベースデザインとなったウォーゲームだ(写真=右)

複雑怪奇な太平洋戦争を3時間で再現する「WAR PLAN PACIFIC」

 かつて、第1期シミュレーターにボードウォーゲームのゲームデザインの基本を解説した短期連載が掲載されいたが、そのなかで、(対人戦を前提とした)ゲームの適切なプレイ時間として、3〜4時間という基準を示しめされていた。なるほど、休日の午後のひとときや秋の夜長の夕食後に一戦、となると、3〜4時間程度がちょうどいい。その3〜4時間で太平洋戦争を最後まで戦いぬけるPCウォーゲームとして、2009年の初めに登場したのがSharpnel Gamesの「WAR PLAN PACIFIC」(WPP)だ。同社のWebページからダウンロード版が39.95ドルで購入できる。

 ターンのステップは1カ月、マップはPoint to Point式で東は米本土西海岸、東はセイロン、北はアリューシャン、南はオーストラリアという広大な太平洋戦域に、ざっくりと29カ所のポイント(=基地)が配置されている。艦船ユニットは空母、戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦が1隻単位で登場するものの、駆逐艦と潜水艦は省略される。航空ユニットも、空母に搭載される艦上戦闘機と艦上爆撃機、艦上攻撃機、基地に所属する陸上攻撃機と陸上攻撃機に分けられるだけで、型式の区別はない。また、陸上ユニットは用意されず、上陸船団のユニットが登場するだけだ。このほか、戦線に補給物資を送る輸送船団ユニットがある。なお、WPPには生産ルールはなく、史実のスケジュールに沿って建造される艦船(連合軍は英本国艦隊も)が増援として登場する。上陸船団や輸送船団、艦上機や陸上機の補充などはランダムに決定される。

 プレイヤーは侵攻する敵基地に上陸船団を含めた艦隊を編成して投入する一方で、敵の侵攻が予測されたり、上陸作戦が成功したものの戦闘が継続していたりする基地には、制海権を確立するために、やはり艦隊を編成して投入する(戦闘が継続している基地や拡張工事を行っている基地に輸送船団を送り込むと、陸上戦闘の終結や拡張ペースが早まる)。

WAR PLAN PACIFICのマップ。米本土西海岸からインド洋まで含むエリアに配置された29の基地を日本と連合軍とで奪い合う(写真=左)。WPPでは艦隊を編成して目標とする基地に向けて出撃する。このとき、敵基地に投入する艦隊が上陸船団を含む場合は「Invasion」任務となり、上陸船団を含まない場合は「Raid」任務となる。また、自軍の基地に艦隊を投入すると「Patrol」任務に割り当てられる(写真=右)

 1つの基地で双方陣営の艦隊が遭遇すると戦闘が発生する。まず、航空兵力と海上兵力のあいだで海空戦が行われ、その結果を受けて水上戦闘が行われる。戦闘における目標決定はシステムが自動で解決し、プレイヤーが関与できるのは、敵との間合いの決定と海空戦において航空兵力を攻撃隊と上空直衛に振り分ける指示だけだ。

 WPPでは、1つの基地で複数の艦隊を編成したり、複数の艦隊を1つの基地に送り込むことができるが、1つの基地に投入されたすべての艦隊は、戦闘処理において1つのまとまった兵力として扱われる。1つの基地を巡る戦いは、一方の兵力が撤退するか戦闘で全滅するまで行われ、ほとんどの場合、敵を排除した側が基地を占領(もしくは防衛)して制海権を確保することになる。しかし、敵が激しく抵抗すると、敵兵力を排除しても上陸作戦が失敗することも少なからず発生する。

敵味方の兵力が1つの基地で遭遇すると戦闘が発生する。目標の設定はシステムが自動で行い、プレイヤーは敵との間合いを「Surface」(接敵する)、「Air」(距離をおいて航空兵力で戦う)、「Withdraw」(退却する)を指定し、航空兵力を攻撃隊と上空直衛に振り分けるのみ(写真=左)。海空戦が始まると、航空機ユニットが敵艦隊に飛来して上空直衛と空戦したのち、対空砲火をかいくぐって爆弾や魚雷を投下する。命中数は爆弾1発、魚雷1本単位で表示され、撃墜された航空機も1機単位で処理される(写真=右)

数度の航空戦が終了すると水上戦闘が発生する。水上戦でも目標設定はシステムが自動で行うため、プレイヤーにできることはない。このとき、戦艦や巡洋艦が敵より少ないと、空母が砲撃されてしまう。WITPと同様に、WPPでも艦砲で空母が沈められるという、史実ではほとんど起こらなかった海戦が発生しやすいのでプレイヤーは注意したい(写真=左)。連合軍には悪夢のような「Torpedo Attack!」は、日本軍による酸素魚雷の“恐怖”を再現する。WPPでは日本軍だけが魚雷攻撃を行えるだけでなく、その威力は“凶悪”で、重巡洋艦なら一撃で轟沈、戦艦も中破状態なら一撃で、損傷なしでも数度の被雷で沈んでしまう(写真=右)

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2503/25/news050.jpg 初めて夫の実家に挨拶した妻、初々しかった表情が9年後…… “そうはならんやろ”な変わりっぷりが1150万再生
  2. /nl/articles/2503/23/news042.jpg ニットで口元が隠れた赤ちゃん、そっと脱がせてみると…… “想像を超える”表情が2300万再生「心に刺さった」「今まで見た中で1番!」【海外赤ちゃん記事3選】
  3. /nl/articles/2503/24/news034.jpg 「多分日本で1位、2位を争う」 3児のママが書いた“通園経路図”がすごい! 「えーめちゃ最高ですね」「中高生だったら溜まり場」
  4. /nl/articles/2503/23/news036.jpg サイゼリヤのメニューを片っ端から注文→10人がかりで完食したら…… 驚がくのレシートに「やすぅ」「すごすぎ」
  5. /nl/articles/2503/23/news033.jpg 段ボールに切れ込みを4つ→“信じられない変形”をするライフハックに80万再生の反響 「今世紀最高の技だ」
  6. /nl/articles/2503/25/news066.jpg 「なんだこの暗号は……」 マクドナルドの“大人だけが読めるメッセージ”が410万表示「懐かしい〜」「読める人同世代w」【マクドナルド面白投稿まとめ】
  7. /nl/articles/2503/25/news047.jpg セリアのクッションカバーを2枚縫い合わせるだけで…… “まさかの完成品”に「なるほど!」と驚きの声
  8. /nl/articles/2503/24/news181.jpg つるの剛士、大学卒業式で判明した“本名”が珍しすぎて読解困難 証書に書かれた一文字へ「難しい漢字だったの忘れてました」「鶴じゃなくて」
  9. /nl/articles/2503/25/news028.jpg 「これはうれしい」 引っ越しのあいさつでもらった手土産、開封したら…… “センス抜群の中身”に「参考にしたい」
  10. /nl/articles/2503/25/news039.jpg ドイツ人女性「今まで自分で髪を切っていた」→日本で“美容室”を初体験すると…… “印象激変”のビフォアフに仰天「生まれ変わったみたい」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「うそでしょ!?」 東京ディズニーランド、“老舗”レストランの閉店を発表 「とうとう来てしまったか」「いやだああああ」と悲しみの声
  2. Koki,、豪邸すぎる“木村家の一室”がウソみたいな広さ! 共演者も間違えてしまうほどの空間にスタジオビックリ「コレ自宅!?」「ちょっと見せて」
  3. 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  4. プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが550万再生「凄すぎて笑うしかないw」「チーズが、、、」 話題になった作者に話を聞いた
  5. ディズニーランドがオープンした1983年当時、カップルだった2人→37年後…… 目頭が熱くなる現在の姿に感動
  6. ニットで口元が隠れた赤ちゃん、そっと脱がせてみると…… “想像を超える”表情が2300万再生「心に刺さった」「今まで見た中で1番!」【海外赤ちゃん記事3選】
  7. 水族館のイカに“指でハート”をしてみたら… “まさかのお返し”が190万表示「こ、こんなことあるのか」
  8. 「ひどすぎ」 東京ディズニーランドで“約100人のドジャースファン”が一斉に“迷惑行為” 「やめてほしい」と物議
  9. 19万8000円で購入した超高級魚を、4年間育てたら…… ド肝を抜く“大変化”に「どんどん色が」「すごい」
  10. 初めて夫の実家に挨拶した妻、初々しかった表情が9年後…… “そうはならんやろ”な変わりっぷりが1150万再生
先月の総合アクセスTOP10
  1. 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  2. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  3. パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  4. 和菓子屋で、バイトの子に難題“はさみ菊”を切らせてみたら……「将来有望」と大反響 その後どうなった?現在を聞いた
  5. 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  6. 「14歳でレコ大受賞」 人気アイドルがセクシー女優に転身した理由明かす 家族、メンバー、ファンの“意外な反応”
  7. 希少性ガンで闘病中だったアイドル、死去 「言葉も発せないほどの痛み」母親が闘病生活を明かす
  8. “きれいな少年”が大人になったら→「なんでそうなったw」姿に驚がく 「イケメンの無駄遣い」「どっちも好きです!笑」
  9. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  10. 芸能界引退した「ショムニ」主演の江角マキコ、58歳の近影にネット衝撃「エグすぎた」 突然顔出しした娘とのやりとりも話題に