64年目の敗戦──「WAR PLAN PACIFIC」で太平洋戦争を3時間で追体験する真珠湾から菊水作戦まで食後にトレース(3/3 ページ)

» 2009年09月23日 19時45分 公開
[長浜和也,ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

タイムスケールが異なる海空陸の戦闘

 長期に渡る制海権の確保が問われるWPPの海戦は、第2次ソロモン海戦やサボ等沖夜戦、第3次ソロモン海戦といった個別の海戦を再現するのではなく、1カ月という期間における海上戦闘のすべてを表していると認識するのが妥当だ。だから、別々の艦隊に編成されていても、戦闘解決時には「攻略目標に投入された兵力の比較」という扱いでもかまわない。

 駆逐艦などの小艦艇はルンガ沖夜戦のように一時的な制海権は確保できるが、広域の制海権は維持できない。そういう制海権を決定するのは基地航空兵力や空母、戦艦になる(巡洋艦も戦艦が存在しない海域においては制海権の確保が可能になる)。それゆえ、広域制海権の継続的な確保が目的となるWPPでは、駆逐艦ユニットが省略されても史実の再現性に問題はない。

 航空兵力も瞬間的な空戦ではなく、1カ月という長期において継続する航空戦を扱っていると考えられる。長期的な航空戦の勝敗により影響するのはカタログスペックではなく、必要とされる地域へ投入できる機数と稼働率を維持する地上支援部隊、さらに国家的なパイロット養成体制だ。そういう意味で、戦略レベルのウォーゲームに航空機の型式による違いがないのも問題ないことになる。

 なお、WPPで潜水艦は戦術場面で必要となるユニットとして登場しない。ただ、戦略兵器としても潜水艦が認識されることはない。WPPで海上輸送路が意識されるのは、南方資源の輸送航路としてルソン、レイテ、台湾、沖縄の占領(制海権の確保)と維持が求められる部分に限られる。WPPでは、潜水艦による通商破壊も制海権、もしくは制空権が有利な側が実行できるという考えのようだ。史実においても、南方からの資源輸送が途絶えるのは1944年末期に米艦隊がフィリピンと台湾近海の制海権を確保してからだった。

WPPに登場する航空兵力は「艦上戦闘機」「艦上爆撃機」「艦上攻撃機」「陸上戦闘機」「陸上爆撃機」の違いしかない(写真=左)。空母の搭載される艦上機は1機単位で管理される。戦闘で失われた艦上機は港にとどまらないと補充されない(写真=右)

シンプルながら必要な要素は細かいところまで導入

 このように、プレイヤーが関与できる部分ではルールの簡素化を大胆に進めているWPPだが、それでもPC版であるがゆえに、ボードのWITPより細かいルールを用意している。例えば、VITPでは空母ユニットの1要素として大まかな戦力値で表現されていた空母搭載の艦上機が、WPPでは1機単位で管理される。敵と交戦すれば所属する艦上機が失われ、失われた艦上機は基地に帰って時間をかけないと回復しない。水上艦艇ユニットも搭載する主砲と副砲のサイズと門数、対空火力、甲板装甲と舷側装甲がデータで用意されていて、海空戦や水上戦ではそれらの値を使い分けて戦闘処理を行っている。一見大雑把にデザインされているように思えるWPPの艦船ユニットだが、スペックの精密度を競うほかのPCウォーゲームと同程度の精度は再現していることになる。

 このような「大まかな」規模のウォーゲームでは、展開が史実から大幅に逸脱してしまう傾向にあるが、WPPでは、勝利条件によってプレイヤーは史実に近い経緯をたどるようになる。これをプレイヤーの行動を規制するデザインを「陰謀ルール」と評価するか、史実の再現性が高いと評価するかは、プレイヤーの嗜好で分かれる。ただ、WPPのゲームデザインが史実の軍令系統指導者が遭遇したのと同じような状況を再現して、彼らと同じような考え方をプレイヤーにさせることに成功している。

 実際にAI相手に太平洋戦争を繰り返し戦ってみた感触では、AIはそれほど強くない。しかし、WPPはネットワーク対戦をサポートしている(システムで用意しているのネットワーク対戦機能は、LANで接続されたPCのIPアドレスを直打ちして接続する)ので、対人戦ならAIの弱さは問題にならないだろう。海外のネットワーク対戦対応PCゲームでよく言われることだが、AI戦はルールを覚えるためのトレーニングモードで、本番はネットワーク対戦だという。そういう意味でも、3時間で勝敗が決まり、かつ、勝利条件の設定によって最後まで勝敗が予測できない緊迫したゲーム展開になるWPPは、ネットワーク対戦に最も適した太平洋戦争ウォーゲームといえる。

 プレイヤーの負荷を軽減し3時間程度でゲームが終了するために、可能な限りシンプルなゲームデザインと必要最小限のユニットを採用したWPPには、生産ルールや海上護衛戦などのロジスティックルールは用意されていない。ほどよくチューニングされた戦闘処理によって、ゲームの展開とプレイヤーの思考は史実から大きく逸脱しない。雷撃が日本軍しかできないことや水上戦闘が発生しやすいなど、戦闘システムは、日本軍がやや有利になるように設定されているが、それでも、日本軍は軍事的に圧倒されていく。ただし、巧みに設定された勝利条件によって、惰性で戦争を継続することにはならずにすんでいる。デザイナーは「これは、ゲームバランスを取るために勝利条件だ。歴史的に日本が勝つことはありえない」とはいうものの、日本軍指導者は、史実でも和平の可能性を見いだすために「最後の大勝利」を意図していた。

 WPPは、3時間という現実的な時間の中で、太平洋戦争を史実に近い経緯で追体験できるツールとしても使える奥深さも持っている。タイトルの“怪しいイラスト”に惑わされることなく、多くのウォーゲーマーに日本海軍の滅びの美学を体感してもらいたい。

マリアナとレイテが連合軍に奪われて日本本土への空襲が始まった。さらに、シンガポールとジャワも失って南方資源が途絶えつつある日本(写真=左)。しかし、1945年10月までに戦争が終結せず、米政府は国内で盛り上がる反戦運動に耐えられず和平を申し出た。このように、連合軍に打撃を与えつつ戦争が長引くと、日本が勝利を収める可能性も出てくる(写真=右)

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/08/news177.jpg イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  2. /nl/articles/2411/06/news180.jpg 「むりだろww」「笑いました」 ニトリでソファ購入 → 愛車の前でぼうぜん…… “まさかの悲劇”が1000万表示
  3. /nl/articles/2411/07/news182.jpg 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  4. /nl/articles/2411/07/news163.jpg 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. /nl/articles/2411/05/news138.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  6. /nl/articles/2411/08/news132.jpg peco、息子の近影を公開「すごーくりゅうちぇるに見えます!」「パパに似てる〜」 息子のスクールランチも色とりどりでおいしそう
  7. /nl/articles/2411/08/news143.jpg 高嶋ちさ子、3000万円超の“超高級外車”ゲットにドヤ顔も! 笑い止まらずハンドル握り「Woohoo!!!」
  8. /nl/articles/2411/07/news029.jpg 50代主婦が5日間、ひたすら草抜き&庭木の剪定→たった一人でやり遂げたとは思えないビフォーアフターに称賛の嵐 「尊敬する」「本当に脱帽です」
  9. /nl/articles/2411/08/news025.jpg 「そうはならんやろ」クルマ修理会社の壁を見ると…… まさかの“シュールすぎるイラスト”に9万いいね 「よすぎる」「天才か」
  10. /nl/articles/2411/08/news111.jpg 2人組ガールズユニット、突然の脱退を発表 マネージャー「本人の意思ではない」 母親とする人物からの脱退理由と経緯説明が物議
先週の総合アクセスTOP10
  1. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  2. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  3. 結婚相手を連れてくる妹に「他の人に会わせられない」と言われた兄、プロがイメチェンしたら…… 「鈴木亮平さんに見えた」大変身に驚がく
  4. 「2007年に紅白出場」 38歳になった“グラビア界の黒船”が1年ぶりに近影公開→驚きの声続々
  5. 「クソビビったwww」 ハードオフに38万5000円で売っていた「衝撃的な商品」が90万表示 「売った人突き止めたい」
  6. 夫婦喧嘩した翌朝の弁当を夫が作ったら…… “森”すぎるビジュアルに「インパクトすごい」「最高に笑いました」の声
  7. 約9万円の「高級激レアガンプラ」を10時間かけて制作→完成品に「家宝だ」「めっちゃくちゃにかっこいい!!」
  8. 天皇皇后両陛下主催の園遊会、“お土産”に注目 ジョージア大使「大好物です」「娘たちからも大好評」
  9. 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  10. 事故で重体の人気日本人TikToker、1カ月の意識不明と家族ケア経て逝去……“旅立ち直前に会った”親友は「励ましに来てくれてたのかな」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた