「UEはUIに勝る」――カプコンが考えるiPhoneゲームの味付け

iPhoneアプリが、CP(コンテンツプロバイダー)の新たなゲーム市場として注目を集めている。iPhone/iPod touch向けに人気タイトルの新作を開発しているカプコンは、どのような点に注力しているのだろうか。

» 2009年12月04日 15時01分 公開
[田中聡,ITmedia]

 「バイオハザード」「魔界村」、そして「逆転裁判」――。家庭用ゲーム機で人気を博したゲームのiPhone/iPod touch版を積極的に開発しているカプコン。同社が12月3日にアップルストア銀座で開催したイベント「Meet the App Developer」で、カプコン 開発統括本部 MC開発部長 兼 プロジェクト企画室長の手塚武氏と、カプコン 開発統括本部 MC開発部 プロジェクト企画室 プロデューサーの伊藤幸正氏が、iPhone/iPod touch向けアプリの開発でこだわったポイントや今後の展開について明かした。

祭の射的から携帯ゲームまで――ゲームの歴史

photo カプコン 開発統括本部 MC開発部長 兼 プロジェクト企画室長 手塚武氏

 手塚氏はまず、「そもそもゲームとは何か」について言及。古くは祭の射的に始まり、もぐらたたきやUFOキャッチャーなどの“メカトロ”、そしてアーケードゲーム、家庭用ゲーム、オンラインゲーム、携帯向けゲームなど、ゲームはいくつもの形態を変えながら変遷してきた。同氏はこれら多種多様なゲームを、ゲーム性の高さを示す“純ゲーム要素”と、それと相反する“コミュニケーション要素”に分布し、その違いを説明した。

 「家庭用ゲームが最も純ゲーム要素が高く、SNSをベースとしたソーシャルゲームが最もコミュニケーション要素が高い。今後は携帯向けゲームが純ゲーム要素とコミュニケーション要素の両方を高める方向になるのではないか」との考えを示した。その理由として「携帯向けのソーシャルゲームが増えていること」と「端末のパフォーマンス向上によりリッチなゲームを体験できること」を挙げた。

photophotophoto “祭の射的”から始まったゲームの歴史(写真=左)。5種類のゲームを“純ゲーム要素”と“コミュニケーション要素”から分布(写真=中)。手塚氏は、今後モバイルゲームが純ゲーム要素とコミュニケーション要素の両方を帯びてくると見ている(写真=右)

 手塚氏は、端末の販売方式が変わって買い控えが増えている状況についても言及し、ゲーム業界にとって今は過渡期だと見ている。「国内のCP(コンテンツプロバイダー)は海外市場に活路を求める状況が続いているが、海外では端末によってCPUやメモリー容量が異なるので、ゲーム(アプリ)作りのハードルが高い。また携帯キャリアの手数料が非常に高いので、国内のキャリアと比べると利益も少ない」と海外展開の難しさを説明した。

UE(ユーザーエクスペリエンス)はUIに勝る――タップで敵を倒せなくした理由

 そんな、多くのCPが新しいビジネスモデルを渇望している中で現れたのがiPhoneだ。「iPhoneアプリの配信手数料はCPが70%、アップルが30%。これは明快で分かりやすく、全世界で容易に展開できる。端末のパフォーマンスも高いので、多くのプレーヤーがいろいろな戦略を持ってチャレンジできる」(手塚氏)

photophotophoto 国内では公式サイトのビジネスがやや下降気味。一方、非公式サイトは無料ゲームの広告モデルが中心となっている(写真=左)。海外端末は仕様がバラバラでキャリアの手数料が高いので、海外市場の展開は容易ではない(写真=中)。iPhoneは端末が1種類で、全世界で展開できるので、CPが参入しやすい(写真=右)

 では、カプコンはiPhoneとiPod touch向けアプリに対して、どのような工夫を施しているのか。ホラーアクションゲームの「バイオハザード4」では、“Visual Pad”と呼ぶ操作パッドを採用。ゲームを遊ぶ上で物理キーがないことはハンデとなるが、それを補うべく、Visual Padのメリットを最大限に生かして設計した。手塚氏はそのメリットに、操作パッドの透明度や配置場所を変更できることや、操作パッドのデザインや色によって、プレーヤーがどんな操作をすべきか無意識のうちに分かることを挙げた。

 手塚氏はもう1つ、操作性でこだわった点を明かした。通常、親指が最も膨らんでいる部分とユーザーが意図してタッチした部分にはわずかなギャップがあり、狙ったポイントよりも左下が認識される。「他社のVisual Pad的なボタンを採用したアプリは、操作性が悪いという評価をよく聞いたが、我々のアプリではもちろんこの点も考慮して、(実際に触っていなくても)意図した操作ができる仕組みを作っている」(手塚氏)

photophoto iPhone/iPod touch向け「バイオハザード4」(写真=左)。画面上のアイコンを押すことで操作ができる(写真=右)
photophotophoto バイオハザード4では、アイコンの位置や透明度を変更できる。「ゲームの画面をしっかり見たければ、透明度を上げればいい」(手塚氏)

 タッチパネルのメリットを生かした操作法の1つとして、社内では「敵をタップして倒せてもいいのでは」という意見も挙がったという。「そういう考えもあるかなと思って試したが、ゲームは近くの敵を先に倒さないと生き残れない、つまり一瞬の判断力で成否が決まるのが面白い。タップだと後ろの敵が(先頭に来る前に)倒せてしまうので、面白くなくなってしまう」ことから採用は見送った。「UE(ユーザーエクスペリエンス)はUI(ユーザーインタフェース)に勝るので、UIを優先するのは本末転倒。面白いゲームをプレイするためにどんな操作がベストかを考えた」(手塚氏)

photophoto バイオハザード4の醍醐味は、至近距離に現れる敵と繰り広げるバトルなので、後ろの敵を先に倒してしまうと、緊迫感あふれるバトルができなくなる。操作性よりも面白さを重視し、タップ操作は見送った

常識を覆すほど難易度を下げた「魔界村騎士列伝」

photo カプコン 開発統括本部 MC開発部 プロジェクト企画室 プロデューサー 伊藤幸正氏

 「魔界村」シリーズの最新作「魔界村騎士列伝」も、iPhone/iPod touchならではの工夫を加えた。「iPhoneはほかのケータイよりもグラフィック性能が高いので、初期の魔界村の味わいを損なうことなく3D化できた。魔界村騎士列伝は、もともと国内のケータイ向けに作ったものだが、すべてiPhone向けにグラフィックを描き直した」と、伊藤氏は魔界村騎士列伝が単なる移植ではないことを強調した。

photophoto iPhone/iPod touch向け「魔界村騎士列伝」(写真=左)。緻密に描かれたグラフィックも同作の魅力だ(写真=右)

 オリジナル版から“常識を覆すほど”変更したのが「難易度」だ。「バイオハザードのレビューでは『難しい』という意見が多かったので、魔界村は思い切って難易度を下げた」と伊藤氏は説明する。さらに、iPhone OS 3.0のアプリ内課金を利用した「残機数無限」「鎧強化」などの“お助けアイテム”を提供し、時間のないユーザーでも確実に最後まで遊べるよう配慮した。その結果、「お助けアイテムは、標準的なPCオンラインゲームよりも非常に高い購買率を記録した」という。「ゲームは遊ばれないことが一番悲しい。アプリ配信というよりは、一貫したサービスと考えて開発した」(伊藤氏)

 とはいえ、難易度を下げただけでは従来のファンには物足りないので、バージョンアップをすることで「高難易度モード」を追加可能にした。

photophoto 最後まで遊んでもらうことを優先し、オリジナル版よりも難易度を下げた(写真=左)。「元々の難易度を下げているので課金アイテムを買わなくてもクリアできる」(伊藤氏)が、さらにハードルを下げるべく“お助けアイテム”を採用。「これらのアイテムはいわば、ずるをするための“チートアイテム”。『昔やり込んだけど社会人になって時間がない』『昔のように最後まで遊びきりたい』という人のために設けた(写真=右)

iPhone/iPod touch向けのオリジナル作品も開発中

 トークセッションの最後に、iPhone/iPod touch向けの新作ゲーム「逆転裁判」が近日中に配信されることが明かされた。「オリジナル作品を完全移植しながら、画面をタッチしたままずらして離すとコマンドを選べる“フリックライクインターフェース”を採用。どんなシーンでも没頭して物語を楽しめる」(伊藤氏)よう、快適な操作性にこだわった。

 質疑応答では「現時点では発表できないが、iPhone/iPod touch向けのオリジナル作品も開発している」(手塚氏)とのコメントも出たので、続報を期待したい。「これからも積極的にiPhoneとiPod touch向けにゲームを配信していきたい。何も考えてなさそうなところで、実はすごく考えているので、そこを感じながら遊んでいただけるとうれしい」(手塚氏)

(C)CAPCOM

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/22/news047.jpg 刺しゅう糸を20時間編んで、完成したのは…… ふんわり繊細な“芸術品”へ「ときめきやばい」「美しすぎる!」
  2. /nl/articles/2412/18/news207.jpg 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」【大谷翔平激動の2024年 現地では「プレー以外のふるまい」も話題に】
  3. /nl/articles/2412/21/news040.jpg 友達が描いた“すっぴんで麺啜ってる私の油絵"が1000万表示 普段とのギャップに「全力の悪意と全力の愛情を感じる」
  4. /nl/articles/2412/22/news034.jpg 後輩が入手した50円玉→よく見ると…… “衝撃価値”の不良品硬貨が1000万表示 「コインショップへ持っていけ!」
  5. /nl/articles/2412/21/news019.jpg 毛糸6色を使って、編んでいくと…… 初心者でも超簡単にできる“おしゃれアイテム”が「とっても可愛い」「どっぷりハマってしまいました」
  6. /nl/articles/2412/22/news036.jpg 「これは家宝級」 リサイクルショップで買った3000円家具→“まさかの企業”が作っていた「幻の品」で大仰天
  7. /nl/articles/2412/21/news023.jpg 「人のような寝方……」 “猫とは思えぬ姿”で和室に寝っ転がる姿が377万表示の人気 「見ろのヴィーナス」
  8. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  9. /nl/articles/2412/17/news042.jpg 山奥で数十年放置された“コケと泥だらけ”の水槽→丹念に掃除したら…… スッキリよみがえった姿に「いや〜凄い凄い」と210万再生
  10. /nl/articles/2412/22/news020.jpg 余りがちなクリアファイルをリメイクしたら…… 暮らしや旅先で必ず役に立つアイテムに大変身「目からウロコ」「使いやすそう!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」