コンテンツデフレの時代に、ソーシャルゲームが急成長を見せたわけ:OGC 2010(2/2 ページ)
ソーシャルゲームはなぜ受け入れられたか?
一方、ソーシャルゲームはなぜこれほどまでに受け入れられたのか、新氏は次のように分析している。
第一に、コンテンツデフレの時代においては「時間」がもっとも重要な価値を持つということ。時間は交換することも、貯蓄することもできない。「その時間を過ごしているのが無駄じゃない、と納得させられるもの」でなければ、ユーザーは遊んでくれないという。1回のプレイ時間が短く、なおかつ現実のコミュニティと密接に結びついているソーシャルゲームは、この点において大きなアドバンテージがある。
第二に「グラフィックのクオリティが行き着くところまで行ってしまった」ことも大きい。グラフィックへの感動が薄らげば、自然に人々はゲーム性を求めるようになる。それならソーシャルゲームでも十分ではないか、と新氏は分析している。
そして第三に、「もっとも面白い対戦相手は人間」であるという点だ。これについては澤氏も講演の中で触れているが、「対戦とはむき出しのコミュニケーションそのもの」であり、「永続的かつもっとも変化に富んだコンテンツ」であると言う。どれだけゲームやAIが進化したとしても、モニタの向こうに見える「人間」との対戦を越える面白さを生み出すことはできないというわけだ。
これらの条件をすべて満たしているからこそ、ソーシャルゲームは爆発的なブームとなった。今やmixiアプリの数はPC、モバイル合わせて1000を越えており、その多くをソーシャルゲームが占めているというのが現状だ。しかし同時に、新氏は次のように警鐘も鳴らしている。「こうした状況下では、“ウィナー・テイクス・オール”の状態に陥りやすい。おそらく『サンシャイン牧場』を越える農場アプリはmixiアプリではもう現れない」。
チャンスは何度でも訪れる
しかし、だからといってチャンスがないわけではない。なぜなら「ユーザーが持っているハードスペックは一定間隔でリセットされるから」だと新氏は語る。ハードがリセットされれば、低スペック向けのサービスは淘汰され、そのたびに新しいプラットフォームが台頭できるチャンスが生まれる。
「今のスパコンは、10年後には1000ドルクラスのPCになる。今の1000ドルPCは、10年後には200ドル以下のモバイル端末になる。重要なのは、そのタイミングでいかに自分たちのサービスをオーバーラップさせるかであり、そのチャンスは今後何度でも訪れる」と新氏。
また同時に、今後のカギは「物語性」をいかに盛り込むかであるとも語る。
ここで言う「物語性」とは、いわゆるストーリーのことではない。物語とはプレイヤーがそこから得る体験そのものであり、それは製品や企業、個人など、どんなところにでも含まれると言う。例えばiPad対Kindleのどちらが勝つか、という論争はなぜ盛り上がるのか。なぜ巨人阪神戦は盛り上がるのか。それは、人々がそこに物語を見出しているからにほかならない。
新氏は現在のデジタルコンテンツ市場を、「価格と価値のバランスが崩れた状態」と表現する。無料、もしくは低価格で遊べるコンテンツが市場に溢れた結果、これまで当たり前のように「1本7000円」で売られていたゲームは「高い」と思われるようになってしまった。
このバランスが以前の状態に戻ることはおそらくないが、それを食い止めるカギが「物語」にはあると新氏は予測する。プラットフォームが変わるタイミングを見極め、そこで人々が好きになってくれる“物語”を供給することができれば、次の成功者になるチャンスはいくらでも転がっている。ソーシャルアプリがこれほどの人々の心を捉えたのも、ちょうどプラットフォームが変わるタイミングで、「人対人」という何よりもエキサイティングな物語を提供できたからではないだろうか。
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