学生に絶大な支持を得るカシオの電子辞書「エクスワード」:売れるのには理由がある
シェアナンバー1を獲得するには何か理由があるはず。電子辞書市場でトップを走る「エクスワード」がなぜ支持されているのかを解き明かす。
不況にも強い知られざるヒット商品
「カシオ製品で思い浮かぶものは?」と質問されたら、大多数の読者諸兄姉はデジタルカメラや腕時計、ケータイと答えるのではないだろうか。しかし、同じ質問を高校生や受験生にしたときの答えは違う。実は、彼らが教科書や参考書、ノート並に毎日使用しているある製品に関して、カシオは7年間連続で販売台数首位(市場調査会社GfK Japanの2004年からの集計による)の座を譲っていないのだ。2010年までの累計販売数は2000万台以上、その人気製品とは電子辞書「エクスワード」シリーズである。
子供としては、勉強のためという大義名分があり親に購入のお願いがしやすい。親からしても、未来への投資として明確な理由付けがある教育関連の出費はいわば聖域であり、節約の対象になりにくい。また入学祝いとしても、ほぼすべての高校生が必要としているという製品の性格上、贈って迷惑がられることがない。消費が冷え込む状況下にあっても、比較的安定した需要が見込めるのが電子辞書市場なのだ。
同じように見えて同じでない戦略
量販店の電子辞書売り場で製品を眺めたとき、最初はどれも同じに見えてしまうかもしれない。でも、エクスワードが選ばれている理由がどこかに必ずあるはずだ。
まず気付くのはカラー液晶である。筆者は10年前のエクスワードをいまだに常用しているのだが、当時の製品はモノクロ液晶でタッチパネルもない。それが2011年8月30日発売予定の最新夏モデルでは、すべてのモデルにタッチパネル付カラーツインパネル液晶が搭載されている。
手書き文字入力のためのサブパネルまでが高解像度のカラーである必要はない、と最初は思うかもしれない。だが、実際に使用してみると明らかに低解像度のモノクロパネル製品とは違い、文字の判別がしやすいのが分かる。このことが使いやすさに直結しているのは、売り場で試用してみればすぐに体感できるだろう。メインパネルもワイドになっていて、一度に表示できる情報量も増えている。
さらに、同社はG-SHOCKブランドのイメージが強いことから、ユーザーに期待されるであろう対衝撃性能も高い。もともとエクワードは強度を持たせた設計がなされており、液晶面が露出しない折りたたみ筐体の採用もあって十分に丈夫であるとされていた。だが、それでも故障が発生したため、学生ユーザーの使用状況調査が行われたのだという。
その際に判明したのは、カバンの中にケースなどに入れずにそのまま放り込み、自転車のカゴでガタガタ揺らしていたり、満員電車やバスで押し潰すなど、設計時の想定を超える衝撃や圧力がかかっていたことだ。そこで2004年から、さらに厳しい基準に対応したTAFCOT(タフコット)と呼ばれる堅牢設計がなされている。これは緩衝材を封入、アルミ合金パネルを高強度断面に加工し、液晶をフローティング化するなど剛性を強化しているもので、机の上から落下した程度では破損しない強度を実現しているものだ。
もちろん、電子辞書のキモである収録コンテンツに関しても手抜かりはない。電子辞書を選ぶ際の要素のひとつに、英語辞典コンテンツがある。高校生向けモデルでは、「ジーニアス英和辞典」「プログレッシブ和英中辞典」などに加えて、教育の現場で評価が上がっている「オーレックス英和辞典」「オーレックス和英辞典」も収録している。
また英語に関しては、辞書だけではなく、英単語、英熟語集の「キクタン」「キクジュク」なども収録されている。
ただ、高校生向けモデルの実売価格が2万円台というのは決して安い製品とはいえないだろう。販売店でも、購入に来て価格に驚く父親、そのかたわらで申し訳なさそうにしている娘という光景も見られるという。だがメーカーでも、決して安い製品ではないという認識はありながら、コンテンツを削って価格を下げるということは考えていない。アンケートハガキなどから、それはユーザーに望まれていないと分析しているからだ。
新モデル開発の際にも、価格を据え置きながらコンテンツを厳選、充実することに主眼を置いている。最初は価格に驚いたとしても、収録コンテンツ内容を把握すればそのリーズナブルさ、コストパフォーマンスの高さに気付いてもらえるという案配だ。
デザイン面でも怠りはない。かわいいものに敏感な女子高生ならずとも、毎日使う製品が、好みのデザインやカラーであってほしいと願うのは、老若男女問わず自然だろう。メーカーでは、製品添付のアンケートハガキなどから得られた情報を参考に、新色の投入やデザインの改良などをしている。
また、大学教員や翻訳者などプロフェッショナル向けの最上級モデルや社会人向けビジネスモデルには黒系など落ち着いたカラーを中心に、学生向けモデルには、黒系や白系など落ち着いた配色だけでなく、ピンク系のカラーを用意するなどユーザーに対応した展開をしている。2011年夏モデルには、同社ケータイを彷彿とさせるオレンジも追加される。
それに加えて、高校生モデルと社会人向けビジネスモデルの一部には、キャンパス風テクスチャー仕上げと呼ばれるカラー展開もある。これは、表面に布製ブックカバーのように見える加工を施したもので、独特な質感でさらりとした手触りをしており、指紋や細かなキズが付きにくいのが特長だ。また、2011年春モデルから、従来は金属色をしていた底面を表面のカラーと統一感を持たせたデザインとした。収録文学作品をブックスタイルで縦表示させて閲覧する際など、周囲から見た裏側のデザインに違和感がないように配慮したものだ。
一本筋の入った開発方針の徹底
とはいえ、使いやすさ、コンテンツの充実などを主眼に製品開発しているのは、どのメーカーも同じではないかという疑問が生じなくもない。ならば、エクスワードをエクワードたらしめている要素は何か。それは、ただひとつの開発方針を徹底して守っていることだ。その開発方針とは「エクスワードは学習専用機に特化する」ということである。
例えば、最近の電子機器には複数の機能を持つ製品が多い。スマートフォンが最たるものだが、通話やメールのみならず、Webサイトの閲覧や画像撮影ができ、音楽が聴け、映像を観ることもできる。同じような製品が売り場に並んでいるとき、違うこともできる、違う製品の機能も兼ね備えているというのは購買者に対してアピールになる。
最近の電子辞書にはカラー液晶もスピーカーも大容量メモリも搭載されているので、映像や音楽の再生機能を付けることも容易にできる状況にある。しかし、それが「学習専用機」に本当に必要なのかと考えたとき、「今のところ必要ない、あるいはもっと優先すべきコンテンツがある」というのがメーカーが出した答えだった。
その方針の中には“いち電子辞書メーカーがどうする”、という範疇を超えた動機が内在している。最近、教育の現場で電子辞書の使用が推奨されていることも多い。学生が毎日、複数の教科書や参考書、辞書を持ち運ぶことが困難であるとの配慮から、学校では電子辞書、自宅ではペーパーの辞書を使うことを勧めているケースなどだ。
しかし、授業中に授業のサポート以外の目的で、電子辞書を使用する生徒がいたらどうなるか。教師は、電子辞書の有用性を認めながらも、教室への持ち込みを禁じねばならなくなるかもしれない。「学習専用機」に必要な機能とコンテンツの追求という方針の根底には、教育の現場を見据えた深謀遠慮がある。間違っても、教室に持ち込まれたとき邪魔物になる製品は作らないということだ。
現状シェアの維持はない
高校生における電子辞書の普及率は高く、メーカーの独自調査では70%程度だという。これは、すでに需要を満たした飽和状態にあるともいえる。シェアナンバー1メーカーとしては、ある一定の目標を達成してしまった状態だ。しかし、毎年、新入生が入学するにしても、少子化により学生が減っていることも事実だ。その中でエクスワードの販売数には、ここ数年大きな動きはなく、縮小する市場の中で善戦しているといえる。だが、メーカーとしてはこれを良しとせず、新たな試みを始めている。それが中学生向けモデルの投入であり、社会人向けモデルの強化だ。
中学生に関しては、高校生ほど電子辞書の所持率が高くないという事情があり専用モデルは存在しなかった。しかし近年、兄や姉のおさがりを使っている中学生が増えている状況をふまえ、英語、国語、数学、理科、社会、5教科の中学生向け参考書や漢検、英検への挑戦をサポートするコンテンツなどを収録した中学生モデルを開発し、2005年2月に発売した。
社会人向けのモデルに関しても、学生時代はあまり電子辞書に馴染みがなかった30代、40代の年齢層をターゲットにコンテンツを収録しているという。
その際にも、「学習専用機」という開発方針を忘れずに、知識を得たり、教養を深めることができるか、本当にユーザーに必要な情報かどうかが収録規準になっている。英語を社内公用語とする日本企業が現れたり、昇進の条件に英語に関する事項が盛り込まれたりと、社会人により英語力が求められている時代だが、1年分の「NHKラジオ英会話」の音声とテキスト(コンテンツホルダーのデータ化タイミングの都合で、2009年度版を収録)や、TOEICなど英語資格に関するコンテンツを筆頭に、国家資格などの取得を支援するコンテンツが収録されているのも見逃せない。
そのほか、海外出張や海外旅行で活躍する外国語モデルもある。これは、英語、中国語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、韓国語、ロシア語の辞書コンテンツなどが収録された各国語モデルで、2011年夏モデルからポルトガル語モデルもラインアップされる。
またユーザーの間口を広げるという意味で、日本の城、園芸に関するコンテンツなど、一般的な電子辞書のイメージとは一風変わったユニークなコンテンツも収録する生活・教養モデルのXD-B6600を発売するなど意欲的な取り組みも見せている。
このように、現状の販売実績に甘んじることなく、発売時期に合わせた最適なコンテンツと機能を追求し、需要の先を読み、需要の開拓も目指し取り組んでいるのが、カシオの電子辞書開発の強みだといえるだろう。
そして使いやすさ、信頼性の高さ、コンテンツの充実、好まれるデザインやカラー展開、それらユーザーの訴求ポイントに対応し、拡張すべき機能は拡張しつつも、「学習専用機」という根幹は変わることがない。ユーザーに安心して選ばれる、また販売員が安心しておすすめできる製品であり続けている。売れている理由はそこにあるのではないだろうか。
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