はかりメーカーのプライドと信頼に応えるタニタの体組成計「インナースキャン」:売れるのには理由がある
ヘルスメーターと名付けたタニタの願いとは? ダイエットの必需品、体組成計「インナースキャン」が支持される理由を解き明かす。
ダイエット、健康管理の必需品
シェアナンバー1の電子辞書「エクスワード」が学習の必需品なら、ヘルスメーターはダイエットや健康管理の必需品であるといえるだろう。
2010年、1年間の全国有力家電量販店の販売実績、体脂肪計(体組成計)カテゴリでタニタは販売台数首位であり(GfK Certified 2010による)、2011年内には国内累計販売台数2000万台を突破するとメーカーでは見込んでいる。
家庭用・業務用計量器メーカーとして、アナログ時代から「はかり」の製造を行ってきたタニタは、1992年に業務用体脂肪計を、1994年には家庭用脂肪計付ヘルスメーターを発売、そして1995年に発売した普及型家庭用脂肪計付ヘルスメーターが好評を博することになる。
電極を身体に貼らずに、一般的なヘルスメーターのように乗って測るタイプの家庭用体脂肪計を最初に発売したのはタニタだった。そのため、当時はシェア100%だったことになる。
「はかり」メーカーのプライドと信頼感
ダイエットに取り組むべく、真剣にヘルスメーター売り場を訪れたことがある読者諸兄姉はご存じかもしれないが、ヘルスメーターといってもいろいろと種類がある。
まず体重のみを測定するのがヘルスメーター、体重に加えて体脂肪も測定することができるのが体脂肪計付ヘルスメーター、そして体重に加えて内臓脂肪をはじめ、身体の様々な要素を測定することができるのが体組成計である。
その中でも、タニタの主力製品となっているのが体組成計の「インナースキャン50」シリーズだ。
今回、取材したベストウェイト事業部 商品・販売企画課の黒米英智(くろごめ ひでとも)氏が、「タニタは計量器メーカーですから……」と何度も繰り返していたのが象徴するように、アナログ時代から培ってきた「はかり」に関する技術、またいち早く体脂肪計に取り組んできたことによるデータの蓄積が、製品開発にプラスに働いていることは間違いない。
「インナースキャン50」の「50」には、50グラムの単位の高精度測定が可能という意味がある。
通常、体重計は200グラム刻みでしか測定できなかったりするため、ダイエット中の「我慢できなかった最後のひとくち」がどう影響したかまでは数値に出ない場合が多い。しかし、50グラム単位まで測定できれば数値にちゃんと現れる。
これはせっかく毎日、測定や運動、カロリー計算をする習慣ができても、変化がなくてやめてしまうということにもなりにくく、ダイエットのモチベーションを高いまま保つことができるということだ。
ならばすべてのメーカー、すべての製品が細かな単位で測定できるようにしないのはなぜか? それは計量法で定める範囲で、測定した数値の保証範囲を設定しなければならないという決まりがあり、それをクリアすることが難しいからだ。
加えて、メーカーによっては保証範囲を計量法の規準ぎりぎりに設定する場合もあるが、タニタでは計量法で定める値よりも厳しい規準を設定している。そういった正確さへのこだわりや、昔からの「はかり」メーカーという信頼感が製品の説得力、安心感に繋がっている。
体脂肪計にまつわる企業機密
体脂肪率を測定するには身体に微弱な交流の電気を流し、その人がどのぐらい電気抵抗があるのかを測定する。これは筋肉は電気を通しやすく、脂肪は電気を通しにくいという性質を利用したものだ。
電気抵抗測定後は、独自の計算式を用いて体脂肪率を算出する。そう、厳密にいうと体脂肪率は「測定」するのではなく、脂肪とそれ以外の組織の割合を「推測」して算出しているのだ。
そして、この「推測」の際に使用されている計算式が、メーカーにとって最大のノウハウであり、企業機密である。さらに、この計算式には体重が密接に関わってくるため、精度の高い体重測定を可能とするタニタ製品は、この点でも有利であるといえる。
計算式の作成には、大量のサンプリング、身体測定データの蓄積が不可欠であり、体脂肪計にいち早く取り組み膨大なデータ蓄積のあるメーカーが有利でもある。
タニタ独自の計算式から導き出された体脂肪率は、X線を利用するDXA(デキサ)法で測定した値を基準に算出した数値との相関関係が、r=0.94と非常に精度が高いものとなっている(数値が1.00になれば完全に一致)。
造語に込められた想い
タニタの製品が正確なのは分かった。でも、他にも何か売れている理由はないのか?
実は本稿でも多用している「ヘルスメーター」という名称、これは英語ではなくタニタによる造語、和製英語である。英語圏では、ヘルスメーターというと間違いで、バスルームスケールというのが一般的だ。
これはタニタの創業者である谷田五八士(たにた いわじ)氏による命名で、何より「健康(ヘルス)」に主眼を置いた製品を作り、ユーザーの健康を支えたいという想いの表れによるもの。
同じように「体脂肪計」もタニタが作った言葉で、単に「脂肪計」としなかったのは、やはり人の「体」を大切にする製品を作り続けるという確固たるメッセージが込められているためだ。
ユーザーへのリサーチと先進的な取り組み
もちろんユーザーへのリサーチもアンケートハガキや、社員の家族や親戚への調査として行われている。特に発売前の製品デザイン案を選定する際の参考意見として、貴重なのは社員の家族や親戚などの意見とのこと。社員の家族や親戚などに限定するのは、不特定多数に調査を行うと、開発している製品の情報が漏れてしまうためだ。
この調査による意見によって、ピンク系のカラーを1色しか発売する予定がなかった製品に、淡いピンクと赤みがかった濃いピンクの2種類を用意したことがあるという。男性にとっては同じように見えるピンクでも、女性にとってはまったく違った印象になるということがある。2色とも販売実績が上がったところからすると、この2種類のピンク系カラー製品の投入は成功だったといえるだろう。
最新の体組成計では、9項目もの測定が可能ということがあって、ユーザーアンケートでも、測定項目の点ではほぼ満足している様子がうかがえるのだという。
しかし、ダイエットする女性がターゲットのはずの製品が、なぜか角張ったメカメカしいデザインになり色も白系統しかなく、「他の色が選びたかった」というユーザーの声が聞かれたこともあったという。
売り場でも、製品に「とにかく白くて四角い」というイメージがあるため、今後はよりデザイン面でもユーザーの期待に応えることが必要だと考えているという。
機能面では、測定者を自動判別する機能「乗るピタ」が搭載されたことで、ボタンを押して使用者を指定してしなくても、乗るだけで計測が可能となった機種もあり好評だ。
ただ、日々の計測が簡便になった反面、「買っていちばん最初にする初期設定が難しい」という意見もあるという。そういった声は真摯に受け止めながら、今後は初期設定を簡略化できるように取り組んでいく方針と明かす。
社として、先進的な取り組みに積極的に取り組む土壌がある、ちょっと突飛と思われる企画にもチャレンジさせてもらえる雰囲気がある。
独創的アイディアによる商品開発が企業理念の1つとしてうたわれているのでも分かるように、「世界初」の製品をユーザーの一人ひとりに届けたい、そして、その想いを支える確固とした技術力の裏付けがあって、タニタのユーザーに安心して選ばれる製品が開発されているのだ。
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