スマートウォッチの大敵に意外なところで気付いた“ウェアラブル”の今

携帯電話が普及し始めた頃、それは社会の中でいろいろな摩擦を生んだ。スマートウォッチは今、その頃と似たような状況にあると言えるだろう。Apple Watchをはじめとするスマートウォッチは、世の中にどう受け入れられていくのか。

» 2015年06月08日 08時00分 公開
[松村太郎ITmedia]
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Apple Watch

 スマートウォッチは、テクノロジーの側面から見れば、超小型コンピュータ、あるいはスマートフォンの優秀なサブディスプレイ、という位置付けになる。おそらくこれまで腕時計を作ってきた時計メーカーにとっても、この位置付けの範囲で発展してくれることを望んでいるはずだ。

 しかし、街中で、あるいはレストランの食事中、家の中などで、他人からは「腕に巻き付けている道具」として同じように認識される。スマートウォッチを見たり操作したりする仕草も、細かく注意しなければ、それがスマートウォッチなのか普通の腕時計なのか分からない。

 ここに、社会的な摩擦が生まれている。

“時計を見る仕草”について

 先日食事に行ったときの出来事だ。金曜日の夕方早めの時間から友人と店に入った。金曜の夕方というのは、週末前に送っておきたいメールやメッセージが駆け込みでたくさん届く。

 それらは家に帰ってから読もうと思っていたが、Apple Watchはひっきりなしに振動し、ついつい3回に1回程度は自分の腕を傾けてその内容を見てしまう。実は友人も同じような状況に見舞われており、ときおりApple Watchに目を落とす仕草を繰り返していた。

 そのとき筆者はハッとした。友人はApple Watchに届くメールの通知を見ているだけではあるのだが、その一方で、これまで長らく染みついてきた動作、すなわち時計を気にしている仕草に見えてしまったからだ。

 筆者も相手に同じことを伝えているということに気づき、ハッとしたのだ。

 腕時計を気にする仕草は、小説やドラマでなくても、「時間を気にしている」ことを周囲の人に伝える。特にテーブルを囲んでいる相手がいる場合、さらに意味が拡がり、「退屈である」という無意識の動作になってしまう。

 いくらスマートウォッチであっても、腕をしきりに見ていれば、退屈しているということを相手に伝えてしまう。

ステーキは大敵

 Apple Watchに限らず、多くのスマートウォッチは、ディスプレイの消費電力を抑えるため、腕を自分の方に傾けたときに点灯する仕組みを備えている。腕時計を見る動作をセンサーで解釈して、そのときにきちんと時間が確認できるよう配慮されているのだ。

 そんなスマートウォッチの特性から、意図しない形で時計を気にしている仕草が成立してしまうことに、焦った経験があった。

 それはステーキを食べているときだ。

 ステーキを食べる時、右手にナイフ、左手にフォークを構え、フォークで肉をとらえ、ナイフで切り、口元に運ぶ。この、フォークで肉を押さえた瞬間、前述の「腕時計を見る仕草」と同じ動作が成立してしまい、Apple Watchのディスプレイが点灯してしまうのだ。

 何回肉を切るかは、オーダーしたステーキのサイズにもよるが、例えば10回切って食べるとしたら、そのたびにApple Watchが点灯する。

 もちろん、時計を気にする意図がなかったとしても、自分はもちろんのこと、テーブルを囲む他の人からも、手首のディスプレイの点灯はハッキリと認識できる。

 すなわち、「このひとは肉を食べるごとに、時間を気にしているのだな」と思われても仕方がないのだ。

スマートウォッチがいかに受け入れられるか?

 ビーフステーキに限らず、ポークチョップでもローストチキンでも、ナイフとフォークを使って食事をする際、Apple Watchは外すか、電源を切った方が余計な軋轢を生まなくて済むはずだ。あるいは、長袖に隠れるような服装をすべきかもしれないが、夏場には厳しい要求と言えるだろう。

 そんな事を気にするならスマートウォッチを着けなければ良い、という意見ももっともだ。

 その一方で、筆者は、「スマートウォッチを着けている人、あるいはそうした人たちの仕草が、どのように社会に受け入れられていくのか」という興味も持っている。

 かつて携帯電話が普及していない頃、自宅や電車の中などのさまざまな場所で、携帯電話は軋轢(あつれき)を生んでいた。公共空間ではルールが作られ、最近では食事の席でテーブルにスマホを置いても、目くじらを立てる人は減ったかもしれない。

 あるいは「電話」に注目すれば、自宅の固定電話はかかってきたら必ず出なさいとしつけられていたはずが、携帯電話の場合、自分の状況次第では着信を拒否することも当たり前になった。知らない番号には応答しなくても良い、という安全対策すら成立しているほどだ。

 テクノロジーという、人々にとって新しいものは、普及が進むにつれて、あるいはトラブルを経験することによって、ルールが作られていったり、常識が変化したり、あるいはそのものに対して寛容になっていく。

 では、スマートウォッチという、よりパーソナルなデバイスは、どのようにして社会に受け入れられ、また寛容さが作られていくのだろうか。

 これは筆者の個人的な予想だが、スマートウォッチを見ることは、スマートフォンを手に眺めるよりも、より受け入れられるのではないか。これはスマートウォッチの方がスマホよりもできることが少なく、また眺める頻度が短いからだ。

 スマホに通知が届くごとに手にとって、1分近く返信に費やして会話に戻ってくるよりも、スマートウォッチを1秒眺める方が、目の前の人との会話がおろそかになる時間が短いはずだからだ。

 こうした、「よくよく考えてみれば」という実質的な話と、過去から脈々と受け継がれてきた「時計を見る仕草」の意味が、どのように決着するのか、とても楽しみだ。

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